学び!とESD

学び!とESD

“Transforming Education Summit”(教育変革サミット)
2022.11.15
学び!とESD <Vol.35>
“Transforming Education Summit”(教育変革サミット)
神田 和可子(永田研究室 特別研究員)

 9月16・17・19日の3日間、ニューヨークの国連本部で “Transforming Education Summit” (教育変革サミット)が開催され、世界130カ国、2,000人以上の参加者が集いました。本サミットは2021年9月に国連事務総長のアントニオ・グテーレス事務総長によって開始された Our Common Agenda(我らの共通アジェンダ)の重要なイニシアティブです。教育を世界的な政治課題の最上位に引き上げ、行動・希望・連帯・解決策を動員してパンデミックによる学習の損失を回復し、急速に変化する世界で教育を変革するための種をまくことを目的として開催されました。現在でもオンライン上で各セッションの録画が視聴できます(*1)。このような国連による「教育」を柱にした首脳級会議が開催されることは画期的なことだと言えます。今回は本サミットおよび本サミットをきっかけに生まれた新たなプログラムについて紹介します。これまでESDで取り組んできた、生涯学習のアプローチ、知識のみならず社会情動的な認識や行動、価値観、ライフスタイル、ホリスティックアプローチなどが大いに反映されています。

出典:国連の “Transforming Education Summit” のホームページ

“Transforming Education Summit”(教育変革サミット)―なぜ教育に変革が求められているのか?

 本サミットが開催されるに際し、事前調査(110カ国のナショナル・ステートメント)が実施され、世界の教育課題が浮き彫りになりました。報告された10項目は、新型コロナウイルスの感染拡大による教育の混乱、教育的排除の取組み、教職の変革、カリキュラムのリニューアル、教育のグリーン化、デジタル学習、資金調達など多岐にわたります。これらの課題に対して、教育は人権であるとし、どこにいても、女の子、男の子、若者、若者以外の人も含め、誰もが教育を受ける権利が奪われないよう教育の変革を求めています。
 本サミットの成果には、教育への過去最大となる投資を含む重要なイニシアティブの確立やユース宣言、事務総長による教育ビジョンの共有が挙げられます。さらに、本サミットの特徴は気候危機に対する教育の役割を問うプログラム “Greening Education Partnership: Getting every learner climate-ready” が策定され始動したことは注目に値するでしょう。

新たなプログラム “Greening Education Partnership: Getting every learner climate-ready”(*2) とは

 国連によって開催された本サミットでは、国連が推進してきたSDGsからの文脈で教育に焦点を当てたプログラム “Greening Education Partnership: Getting every learner climate-ready” が国際機関であるユネスコに委ねられ、今後展開していくことになりました。
 新たにこのようなプログラムが展開するに至った背景には、差し迫った地球規模課題と教育課題として次の4点が挙げられます。

  1. 地球の平均気温が1℃上昇
  2. 100カ国のうち約半数の国のカリキュラムで気候変動が言及されていない
  3. 初等および中等教育の教員の95%は気候変動を教えることが重要であると感じたが、それを教える準備ができている教員は30%未満である
  4. 若者の75%は自分たちの将来について不安を感じている

 また本プログラムは、これまでユネスコが推進してきたESDの知識と実践に基づいて構築されており、すべての学習者が気候危機に取り組むための知識、スキル、価値観、態度を身につけ、行動できるようにすることを目的としています。さらに、ESDで培ってきた知識、スキル、価値観、態度により、学習者が気候危機の複雑さや課題の相互関連性など、日常生活における問題解決に貢献し得る洞察を習得していくことを本プログラムにおける教育的役割として位置づけています。

 具体的には次の4領域において数値目標を掲げて取り組めるビジョンを示しています。

出典:“Greening Education Partnership: Getting every learner climate-ready” のホームページより筆者作成

 本サミットでは文部科学副大臣である簗和生氏による日本の優良事例を紹介するスピーチもあり、本プログラムをESDの原理に基づいてユネスコと協力しながら積極的に推進していく方針を表明しています(*3)。同セッションでは、イギリスの気候危機と教育とを連携させた政策戦略(Sustainability and climate change strategy)が昨年のCOP26と同時期に策定されている報告もあり、個人の変革のみならずシステムの変革の重要性も指摘されています。現在COP27がエジプトにて開催されていますが、経済のみならず日本の教育においても気候変動の課題に対してどのような形で関わることができるのか、新たな指針が求められています。

*1:次のURLよりご覧ください。
https://media.un.org/en/search/categories/meetings-events/conferences/transforming-education-summit
*2:パートナーシップを築くための調査に関心のある方は次のURLより詳細を確認ください。
https://secure.unesco.org/survey/index.php?sid=21736&lang=en
*3:次のURLよりご覧ください。
https://media.un.org/en/asset/k14/k145zfkzvi