学び!と共生社会

学び!と共生社会

「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態調査」から
2022.12.26
学び!と共生社会 <Vol.35>
「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態調査」から
大内 進(おおうち・すすむ)

 この12月13日に、文部科学省から「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態調査」の調査結果が公にされました。「通常の学級に在籍する児童生徒の8.8%に発達障害の可能性がある」という内容の記事が、新聞などでも広く報道されました(*1)
 この調査は、今後の施策の在り方等の検討の基礎資料とするために、「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒」の実態と支援の状況を明らかにするために初等中等教育局特別支援教育課によって調査されたものです(*2)
 同様の調査は平成24(2012)年にも実施されています。その時の結果は6.5%でした。単純に比較することはできませんが、10年間で2.3ポイントほど上昇したということになります。
 この間、発達障害者支援法の改正(2016)、高等学校における通級による指導の制度化(2018)、平成29(2017)・30(2018)年に小・中・高等学校学習指導要領における特別支援教育に関する記述の充実などの発達障害を含め障害のある児童生徒をめぐる様々な施策等の変化もありました。
 今回はこの概要を紹介するとともに、調査が意味することについて考えてみたいと思います。

調査の概要

調査方法

 文部科学省発表の資料によると調査の方法は、以下のとおりです。
 この調査は令和4年1月から2月にかけて実施されています。母集団は、全国の公立の小・中・高等学校の通常の学級に在籍する児童生徒で、対象児童生徒数88,516人(小学校:35,963人、中学校:17,988人、高等学校:34,565人)で、そのうちの74,919人について回答(回収率84.6%)が得られました。
 回答は、調査対象の学級担任等が記入し、特別支援教育コーディネーター、教頭(副校長)のいずれかによる確認の後、校長の了解の下で為されたということです。従って、「本調査の結果は、発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合を示すものである」(*2)ということに留意する必要があります。

調査内容

 調査内容は、「Ⅰ.児童生徒の困難の状況」と「Ⅱ.児童生徒の受けている支援の状況」の二つの観点から整理されていますが、今回は「Ⅰ.」の状況についてのみ紹介します。
 なお、この調査の「児童生徒の困難の状況」については、「学級担任等による回答に基づくもので、発達障害の専門家チームによる判断や医師による診断によるものではない。従って、本調査の結果は、発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合を示すものであるということと、平成14年調査、平成24年調査と対象地域や一部質問項目等が異なるため、単純比較することはできないこと」という留意事項が付記されています(*2)

調査結果の概要

 学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒数の割合が、平成24年に行った調査においては推定値6.5%でしたが、今回の調査では、図1に示しているとおり、小学校・中学校においては推定値8.8%で、単純に比較することはできませんが、平成14(2002)年6.3%、 平成24(2012)年6.5%、令和4(2022)年8.8%と増えてきていることが認められます。なお、今回初めて調査した高等学校(公立の全日制又は定時制に在籍する1~3年次のみを対象)においては推定値2.2%だったということです。小学校及び中学校について、学年別に集計した結果は図1及び図2のようになります。

図1 小学校における「学習面、各行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒(グラフは筆者作成)

図2 中学校における「学習面、各行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒(グラフは筆者作成)

調査結果から

 この結果については、会議の座長であった宮崎英憲氏は、「増加の理由を特定することは困難であるが、通常の学級の担任を含む教師や保護者の特別支援教育に関する理解が進み、今まで見過ごされてきた困難のある子供たちにより目を向けるようになったことが一つの理由として考えられる。そのほか、子供たちの生活習慣や取り巻く環境の変化により、普段から1日1時間以上テレビゲームをする児童生徒数の割合が増加傾向にあることや新聞を読んでいる児童生徒数の割合が減少傾向にあることなど言葉や文字に触れる機会が減少していること、インターネットやスマートフォンが身近になったことなど対面での会話が減少傾向にあることや体験活動の減少などの影響も可能性として考えられる。」と考察しています(*2)

海外の状況

 「学習面、各行動面で著しい困難を示す」児童生徒の増加傾向は、海外でも広く認められます。ここでは、データが入手できたフィンランドと英国(イングランド)の状況を紹介しておきたいと思います。

フィンランド

 フィンランドでは、小学校6年間と中学校3年間が一貫した総合学校で義務教育が施されていますが、障害等があると認定された児童生徒だけではなく、全ての児童生徒に合理的配慮が受けられる前提で学校教育が展開されています。そこには3段階の支援体制が設けられています。General support(一般的な支援)は全ての子どもが持っている権利で、Intensified support(強化された支援)になるとより丁寧で長期的な支援が提供され、Special support(特別な支援)では保護者や児童生徒を交えて個別の教育計画が作成され、一層充実した支援を受けることができます。
 図3は、フィンランドの2000年から2020年までのすべての総合学校(小・中学校)の児童生徒のうち、特別な支援を受けた児童生徒及び強化された支援を受けた児童生徒の割合を示したものです(*3)。これらのデータは、フィンランド統計局の教育統計に基づいています。2011年から特別なニーズのある(強化の対象となる)児童生徒への対応が開始され、その割合が年々増加していることがわかります。2020年を見ると、総合学校の児童生徒の9.0%(51,100人)が特別支援を受け、12.2%(69,300人)が強化の対象となっています。よりインクルーシブな支援体制の下で、総合学校の生徒の21.3%、約5人に一人が強化または特別支援を受けているということになります。

図3 フィンランドの総合学校における特別な支援及び支援(強化)の対象となる児童生徒の割合の推移

英国(イングランド)

 図4は、英国(イングランド)における2007年から2020年までの特別な教育を必要とする生徒(SEN)数の推移を示したものです(*4)。近年連続で増加傾向にあり、2020年1月にはその対象が137万人になったということです。なお、グラフでは、ピークが2010年ごろになっていますが、これについては、2010年以前は過剰診断されていた可能性があり、それが見直された結果として減少傾向をたどることになったこと、2014年に特別な支援の在り方が改革されたことなどに起因していると分析されています。この数年の着実な増加は、子どもたちが適切に再評価され、システムが追いついたことを示していると捉えられています。いずれにしても、特別な支援を定めた文書(ステートメント)にもとづいて支援されている児童生徒の数(SEN with a statement)の数は3.3%前後で変動幅が小さいのに対して、支援が必要とされている児童生徒の数は、変動が激しく、近年再び増加傾向にあるということが読み取れます。

図4 英国(イングランド)における特別なニーズのある児童生徒の割合の推移

 ここでは2か国を例示しましたが、「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒」の増加傾向は日本だけの傾向ではないことが理解できます。フィンランドでは、移民の問題などもあり、全ての子どもに特別支援の視点に支援体制を築く、学級規模を小さくする、担任を複数制にするなど、通常の学級のしくみの見直しもなされています。当然、通常の教育にかかる教育予算も増やされています。
 英国(イングランド)については、「学び!と共生社会<Vol.23>」でもすでに紹介しましたが、ティ-チングアシスタント(TA)の導入、ナショナルカリキュラムの工夫、コーディネーターの配置と専門性の質の向上など、通常の学級の改善が進められてきています。

まとめ

 今回の文部科学省による実態調査は、通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態と支援の状況を明らかにし、今後の施策の在り方等の検討の基礎資料とするために実施されたものです。その結果、「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」児童生徒は増大傾向にあり、一学級に35人在籍していると仮定すると、通常の学級にニーズのある児童生徒が約3人在籍しているということが示されました。こうした状況に対応するためには、管理職のリーダーシップや担当する教員の専門性の向上や努力だけではなく、抜本的な対応を講じていく必要もありそうです。今後、この調査結果が多方面から検討され、適切な対応策が示されていくことが期待されます。

*1:主な新聞記事
読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20221213-OYT1T50101/
朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/DA3S15501395.html
毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20221213/k00/00m/040/018000c
日経新聞
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20221213-OYT1T50101/
*2:文部科学省:通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について
https://www.mext.go.jp/content/20221208-mext-tokubetu01-000026255_01.pdf
*3:Intensified or special support for every fifth comprehensive school pupil
https://www.stat.fi/til/erop/2020/erop_2020_2021-06-08_tie_001_en.html
*4:Department Education: Special educational needs and disability : an analysis and summary of data sources
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1082518/Special_educational_needs_publication_June_2022.pdf