小学校 道徳

小学校 道徳

「やさしいユウちゃん」(第5学年)
2023.04.21
小学校 道徳 <No.046>
「やさしいユウちゃん」(第5学年)
京都府長岡京市立長岡第六小学校 佐藤祐

1.はじめに

 内容項目B「親切、思いやり」の学習指導要領における高学年の目標は「だれに対しても思いやりの心をもち、相手の立場に立って親切にすること。」とある。この「相手の立場に立つ」というところに焦点化し、親切の行為について考えさせたい。
 この時期の児童は、相手の置かれている立場を、ある程度自分自身に置き換えて想像できるようになってくる。「親切」という価値について問うと、「優しくすること」「助けること」とその行為の具体的姿が返ってくるだろうと予想できる。また、児童は、相手に手を差しのべることが望ましい「親切」であると捉えがちである。そこでさらに「よくない親切はあるのか?」と揺さぶりの発問をしたり、教材における「親切のちがい」を考えたりする中で、相手にとって何が必要かを考えたり、相手にとっての一番を考えたりすることこそ、「相手の立場に立った親切」なのだと気づくような学習展開としていきたい。
 また、対比的に考える学習展開から、横書きの板書に取り組んでみたい。

2.教材について

 おっとりしたハルカを助けることの多いユウコ。同じ委員会になりたくて、二人とも飼育委員を希望したが定員より一人多い状態になる。二人で別の委員会に行こうと言うハルカに、「わたしは別の委員会に行くね。」とはっきり言うユウコ。ハルカに一緒の委員会になれなくても、自分のやりたいことをやったほうがいいと言ったユウコの姿から、本当に相手のことを思う親切について考えさせる。
 また、今までと違い、ユウコがいなくても別の友達と楽しそうに飼育委員活動に打ち込むハルカの姿を見て、これからの自分にもワクワクするユウコのすがすがしい心情に気づかせたい。

3.実践報告

(1)主題名

相手のための親切(内容項目:B 親切、思いやり)

(2)本時のねらい

 時には言いにくいことも言うユウコの姿から、相手のため(立場)を考えることが本当のやさしさであることに気づき、進んで親切にしようとする心情を育てる。

(3)展開例

学習活動
(○発問 ・予想される児童の反応)

◇指導上の留意点 ☆評価


○親切とは、どんな行為だろう。
・優しくする。
・助ける。
・教えてあげる。

・親切は、した方もされた方もうれしい行為であると、親切の行為から生まれる互いの心のつながりを確認する。
・「よくない親切もあるのかな。」と切り返し、価値への方向づけを行う。



(前段)

①「ユウちゃんといっしょになれてよかった。もう安心だよ。」と言われたユウコがほっとしたのは、どのような気持ちからでしょう。
・これで大丈夫。
・いっしょだから楽しい。
・私が助けてあげる。

・二人が幼なじみで、いつも一緒に過ごしていた仲であることを押さえたうえで、二人の特性を整理しておく。
・ユウコは、再びハルカと一緒のクラスになれたことで、彼女を助けられるといううれしさや期待感を感じていたことに気づかせる。

②ユウコが「わたしは別の委員会に行くね。」とはっきり言ったのは、どんなことを考えたからでしょう。
・ハルカは、動物が好きなんだから、飼育委員をやった方がいいと思う。
・自分のやりたいことをやってほしい。

・ユウコがハルカのことを考えて決断したことから、今までのハルカへの親切と質の異なる高次の親切に変わってきたことを感じさせたい。(道徳ノート)
・その後、ユウコが今後の自分にワクワクしているすがすがしさにも触れ、相手のことを思う親切の気持ちよさを感じられるようにする。



(後段)

◎①②の親切のちがいは、何だろう。
・相手の将来のことまで考えている。
・その人にとって何がいいかまで考えている。

・友達のため、より深い関係になるため、といった「信頼、友情」の価値に偏らないようにする。
・①も②もどちらも親切であるからこそ、その違いを考える中で、ねらいとする価値に迫りたい。

○相手のための「親切」とは、どういう行為のことだろう。
・相手にとって何が必要かを考えて行動する。
・相手にとっての一番を考えて行動する。

・導入と同じく「親切」について問うことで、価値の深まりを児童自身に実感させる。
☆相手の立場を考えて、親切にすることの大切さを記述しているか。(道徳ノート)


○相手のことを考えて、親切にしてよかったという教師の体験を話す。
・車いすの人が、段差を乗り越える練習をしていた。「手助けしよう!」と思ったが、一生懸命頑張っている様子に、そばで見守ることにした。その後の清々しい様子を見て、私は「やりましたね!」と思わず声をかけた。

・相手のことを考えて行う行為について話すことで、互いに高め合うことも親切につながることを捉えさせる。

4.授業記録

【導入】

T 親切はどんな行為だろう。
C 手伝ってくれること。
C 相手のことを思ってすること。
C おせっかいではない。
T では、「よくない親切」もあるかな。
C ん~。あ~。

(考察)
「親切」という行為が、自分本位でないということは理解しているようである。
児童の実態を前提に、価値への方向付けを行う。

【展開前段】

T 「ユウちゃんといっしょになれてよかった。もう安心だよ。」と言われたユウコがほっとしたのは、どのような気持ちからでしょう。
C ハルカの悲しむ顔を見なくて済む。
C ハルカが安心してくれた。
T ユウコが「わたしは別の委員会に行くね。」とはっきり言ったのは、どんなことを考えたからでしょう。
C ハルカのやりたいことをやってほしい。
C ハルカは一人でできるだろう。
C ハルカも自立しないと、将来困る。

(考察)
どちらの発問に対しても「ハルカ」という親切の対象が返ってきた。
これらをもとにして「どちらもハルカのことを考えての親切だけど…」と比較の視点にしていきたい。

【中心発問】

T どちらも「ハルカ」のことを考えているよね。この親切の違いは何だろう。
C 将来のことまで考えている。
C 「今する親切」と「これからの親切」
C ハルカのことを本当に考えるなら、厳しくしたり、エールを送る立場でいることも大切。

T 最初も聞いたことですが、相手のための「親切」とはどういう行為のことだろう。
C 今できる親切と、これから役に立つ親切。
C 本当に相手にとって親切かを考える。
C 自己満足は親切とは言えない。

(考察)
導入に比べ、相手のこれからを考えた発言が多く見られ、価値の深まりを感じる。また、具体的な言葉かけを考えたり、自分なりの言葉で表現したりできている。
それが「相手のための」の親切であり、児童の学びの成果であると伝え、児童の手柄にしたい。

5.板書例

6.授業への工夫など

(1)「親切」についての比較が視覚的に分かるようにし、また、導入との価値の違いも分かるように、板書を工夫した。
(2)考えさせたい価値が「相手のこと」「将来のことを考えて判断」という児童の発言で授業を想定していたため、発問を精選し、考えることが焦点化された。

7.考察

「親切」について「相手のための」という価値を付随させることで、深い考えへと発展できた。
また、「親切」は、心の中で思っているだけでなく、行為として表出されることも大切だということも理解できたようであった。