読み物プラス

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RICSにおけるアダプティブラーニング(適応学習)の実現と工夫
2015.11.18
読み物プラス <Vol.21>
RICSにおけるアダプティブラーニング(適応学習)の実現と工夫
【特集】ICT教育 NEXT 04
電通国際情報サービス オープンイノベーションラボ UXデザイナー 河野碧

立命館守山中学校高等学校の取り組み

 一人ひとりに最適化した学習コンテンツを提供する、アダプティブラーニング(適応学習)が注目され始めています。アダプティブラーニングとは、各生徒の学習進行度に合わせて、適切な問題を適切な方法、タイミングで提供する教育手法のことです。
 電通国際情報サービスの研究開発部門であるオープンイノベーションラボでは、2011年度からICTが教育にもたらすイノベーションの可能性を模索し、研究してきました。中でも、アダプティブラーニングとSNSの併用による学習環境向上に着目し、プロトタイプ作成と実証実験を重ねています。その実践的な取り組みとして、2014年度から、立命館守山中学校高等学校と共にRICS(Ritsumeikan Intelligent Cyber Space)の開発に取り組み、現在もご利用いただいています。
 RICSは、各生徒の知識レベルに応じた効率的な学習を可能にするアダプティブラーニング機能と、ネオデジタル世代に影響を与える、SNSによるリアルな教師・友人との学び合いの環境を提供するシステムです。RICSには複数の教材会社から提供された問題が登録されており、生徒自身が自学自習用の問題として活用するのはもちろん、教師から生徒へ、授業中の課題、宿題用として、問題を一斉・個別に配布することが出来るようになっています。

アダプティブラーニングとSNSによる学び合い

 試験範囲を復習しようと問題集を開いたものの、1問目から順に解くのは簡単すぎてつまらない。いきなり最後のページを開くと難しすぎてわからない。誰か今の自分にぴったりの問題を教えてほしい―そんな経験は誰にでもあることと思います。それを実現するのがRICSのアダプティブラーニングです。
 知識レベルに応じたアダプティブラーニングでは、生徒一人ひとりの習熟度にあわせて、「学力・理解度」と「学ぶ対象」をシステム上で紐付ける必要があります。RICSでは、生徒の解答状況ログから予想される理解度と、RICSに登録された全問題の内容や難易度を、独自のアルゴリズムで紐付けて、「RICSからのおすすめ」として提示しています。「数学は基本的に得意だけど図形だけは苦手」といった、気がつきにくい単元ごとの得意・不得意にも対応しており、各生徒へのきめ細やか自学自習サポートを実現しています。

 アダプティブラーニングのような効率的な学習教材が用意されていても、ひとりきりで黙々と学習を続けるのは大人でも難しいものです。そこで、RICSでは継続的な学習を支援するための工夫をしています。 前号(Vol.20)でも紹介した学習マップは、生徒のモチベーションアップのための仕組みを盛り込んだ機能です。
 学校では机を並べて勉強している生徒たちも、家ではひとりです。学習マップには、難易度などの問題情報のほか、各問題につけられたコメントや、誰が解答したかなどがわかるSNS機能があります。学習マップを通して、家でも他の生徒の状況がわかることで、「解答前にコメントを読むとどんな問題かわかって良い」「難しい問題を友達が解いているから自分もチャレンジしてみようと思う」と互いに刺激を与え合っているようです。
 また、アダプティブラーニングを提供開始したところ、「勉強がどれくらい進んだのかがわからなくて不安」という声があがりました。そこで、単元ごとに、どれくらい学習が進んだのかを色分けで表示して、ひと目でわかる画面をつくりました。進捗率によって赤、黄色、緑と信号のように変わっていき、単元をマスターしたら金メダルになります。この金メダルが特に好評で、「早く金メダルにしたい」「金色で埋めつくしたい!」と学習を進めるモチベーションになっているようです。

単元をマスターしたら金メダルになる学習マップ

問題ごとにコメントや解答した人がわかるSNS機能

RICS利用ログの分析・活用と今後

 RICSの機能は、アダプティブラーニングによる効率的な学習と、SNSによる学び合いの併用による学習環境の向上という仮説を立てて開発し、運用しています。今後は、蓄積された膨大な利用ログを分析して、各機能の有効性を検証するほか、生徒の学習傾向を把握・分析して学習指導に役立てていくこともできるのではないかと考えています。
 アダプティブラーニングで効率よく知識を身につけ、知識を活用し、グローバル人材として必要とされる課題解決力をアクティブ・ラーニングで習得する、そんな教育・学習スタイルがこれからのスタンダードになるのではないでしょうか。より短期間で深い知識を習得できるよう、さまざまな教材会社や学年、さらには教科や校種の垣根を超えて、生徒一人ひとりの学びに最適な一問を提示できるようなシステムの構築を目指していきたいと考えています。
 オープンイノベーションラボでは、RICSを通じてICTを活用した教育の可能性を検証するべく、立命館守山中学校高等学校と共に2016年度も継続してRICSを運用していく予定です。

 

河野 碧(こうの みどり)
株式会社 電通国際情報サービス オープンイノベーションラボ所属。
2015年度よりRICS開発プロジェクトに参加、検証およびUIデザインに従事。保護者用スマートフォン向け画面や学習マップのデザインを手掛ける。

RICSの取り組み紹介ico_link