学び!とシネマ

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ドリーム ホーム 99%を操る男たち
2016.01.29
学び!とシネマ <Vol.118>
ドリーム ホーム 99%を操る男たち
二井 康雄(ふたい・やすお)

Copyright (C)2014 99 Homes Productions LLC All Rights Reserved

 持ち家がある人や大金持ちはともかく、住宅ローンを抱える人は、日本にも多い。利息は安いけれど、長い間、ローン返済を続けている人が多いと思う。毎月の家賃を払う人から比べると、一応は持ち家だが、リストラなどで定期収入がぐんと減ったり、最悪の場合、無収入になることさえある。ローンが払えない。せっかくの持ち家を、安い家に買い換えたり、最悪の場合は、せっかくの家を処分することになる。買ったときより高く売れるといいが、そういうケースは少ない。ふつう、狭い家に買い換えるか、持ち家を手放すことになる。
 アメリカのサブプライム・ローンは、日本とちがって、返済能力に疑問があっても、お金を貸してくれる。ただし、利息が高い。定期収入があって、返済できるうちはいいが、リストラなどで定期収入が減ったり、失業で収入がなくなったりすると、高い利息のローンが返せなくなる。バブルのせいで、住宅の価格があがっているときはいいが、ぐんと下がっていれば、悲惨なことになる。

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 このほど公開される「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」(アルバトロス・フィルム配給)は、いまのアメリカ、フロリダ州が舞台。ローンで買った家の返済ができなくなった男の話で、実話に基づいている。
 2007年から2008年にかけて、リーマン・ショックが起こる。高い金利で住宅ローンを組んでいた人たちが、返済できなくなる。借りるほうも借りるほうだが、返済能力に疑問のある人たちにまで、見境なく住宅資金を貸したほうにも問題がある。妻と離婚、まだ小学生の息子と母親(ローラ・ダーン)と3人で暮らしているデニス(アンドリュー・ガーフィールド)という男がいる。デニスは建築関係の職人で、家の内装やちょっとした修理、補修をこなしているが、不景気のせいか仕事が激減、収入がない日々が続いている。当然、銀行へのローン返済に行き詰まる。ローン支払いが滞納すると、明け渡しになる。高く転売できる物件ではない。売れなければ、手放して、安い家賃の家に引っ越すことになる。デニスたちは、とりあえず近くのモーテルに移り住むことになる。モーテルには、デニスとおなじような境遇の人たちが寝起きしている。
 デニスの職探しが始まる。なかなか、いい仕事にありつけない。たまたま、デニスの家の強制執行に関係していた不動産ブローカーのリック(マイケル・シャノン)が、デニスを雇うことになる。デニスは、空き家の清掃やエアコンの修理などはお手のもの。ちょいと仕事をしただけで、3250ドルもの破格の賃金を受け取る。リックは、法すれすれで、ローン返済の出来なかった人たちの住宅を差し押さえ、銀行や政府に取り入り、入手した住宅を転売して、ぼろ儲けをしている。リックは嘯く。「アメリカは負け犬に手を差し伸べない。この欺瞞の国は、勝者による勝者のための国だ」とか、「箱舟に乗るのは1%、99%は溺れ死ぬ」と。
 デニスは、リックのノウハウを身につけ、実績を積み重ねていく。かつて、自分の経験した辛いことを、いまは他人に押しつけている。デニスは、多額の収入を手にする。もちろん、さらに大きな家を手にいれることになるのだが…。

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 金融の知識がなくても、いまアメリカのあちこちで問題になっていることだから、映画を見ているだけで、いろんなことが見えてくる。映画は、答えを出さない。解答は、見た人それぞれが出すことになる。
 教訓がある。株式投資や外貨預金などは、素人が手を出すものではない。一部、儲ける人がいるかもしれないが、ほとんどは、マイナスになると思われる。住宅ローンもしかり。安い金利で借りても、定期的な収入がいつまでも保証できる時代ではない。映画のサブタイトルの「99%」とは、ノーベル賞を受けた経済学者のジョセフ・E・スティグリッツの著書「世界の99%を貧困にする経済」にちなむ。世界じゅうの富の4分の1を、たった1%の富裕層が所有し、残りの99%は貧困である。
 よく、アメリカン・ドリーム、という。夢を実現するのは、ごく少数の人だけである。ことはアメリカだけの話ではない。日本などは、私たちが出した年金を、株式投資で減らしている。このような現実に、どう対処するか。欲張らず、こつこつ学び、考え、元気で働くこと、しかないのではないか。頭のいい、アメリカの金融関係の人たちですら、欲を出したがために、倒産したり破産する。
 「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」という映画は、いろいろと考えさせられる。監督はラミン・バーラニ。両親はイランからの移民である。移民の人たちの現実を、アメリカン・ドリームに準えて、いろんな映画を撮っている。優れた映画は、いろいろと勉強になる。こつこつと、学ぶしかない。

2016年1月30日(土)、
ヒューマントラストシネマ有楽町ico_link新宿シネマカリテico_linkほか全国順次公開!

『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』公式Webサイトico_link

監督:ラミン・バーラニ
脚本:ラミン・バーラニ、アミール・ナデリ
出演:アンドリュー・ガーフィールド、マイケル・シャノン、ローラ・ダーン、ノア・ロマックス
2014年/アメリカ/英語/112分/5.1ch/シネスコ
原題:99Homes
日本語字幕:アンゼたかし
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
Copyright (C)2014 99 Homes Productions LLC All Rights Reserved