形 forme
(図画工作・美術)

形 forme
(図画工作・美術)

現実世界での経験が創作を生み出してくれる
2009.12.11
形 forme(図画工作・美術) <No.290>
現実世界での経験が創作を生み出してくれる
巻頭のことば より
アニメーター 三角芳子(みすみ・よしこ)

形forme No.290

 私は布や紙,砂,クレヨンなど様々な素材をつかったアニメーションを制作しています。アニメーションは,普段私たちがよく目にしているテレビ番組のセルアニメやデジタル3Dなどだけではなく,立体の人形や油絵の具,石や木,歯ブラシやコップにいたるまで,私たちの身近にあるものすべて動かすことができる可能性を秘めた表現方法です。
 私がアニメーションの世界に魅力を感じたのは,大学で友達と観たチェコのアニメーションがきっかけでした。のびのびと絵を描くように展開していく作品たちに衝撃を受け,それから見よう見まねで人形のアニメーションを撮ってみました。自分が持っていた身近な人形が,アニメーションとなって画面の中でひとりで動くのをみた時,動かないものが自分の手をかけることで,「動く」=「魂を得る」ことを体感し,アニメーションを創造することのよろこびを知ったのです。それからこれまで様々な方法でアニメーションをつくり続けています。
 そんな私の創作の原点となるアイデアや想いは,小さい頃からの経験や人との出会いの中から生まれてきているのだと感じています。自分の中にないものは表現できないし,どこか上辺だけの伝わらないものになってしまいます。自分が日々感じていることや美しいと思うこと,興味をもったこと,くやしいこと,悲しいこと,そうした本当に些細な生活の一場面に私が追い求めることは潜んでいて,ちょっとしたきっかけや人との出会いによって創造の出発点となり,私にとっての「表現」が始まっていくのだと思います。
 人の想像力が「創造」を生み出します。それは果てしなく無限に広がっていて,その面白さは絶えず私を惹きつけてやみません。自分のつくったものを観て,だれかが驚いたり,笑ったり,喜んだり,そういう瞬間に,どんなにつくるのが大変だったとしても,「つくっていてよかったな」と表現することのよろこびを感じます。  
 現実世界には,辛いことや思い通りにならないこともたくさんありますが,創作の中でしか味わえないこうした深いよろこびがあるからこそ,これからも自分自身を,そして創造することを追い求めていきたいと思うのです。

プロフィール
 福岡県出身。東京芸術大学並び大学院染織専攻卒業。アニメーション,イラストレーションなどの作品を制作。木曜時代劇「次郎長背負い富士」(NHK総合)「Beau TV」openingmovie(テレビ朝日)など。切り絵によるアニメーション,プチプチ・アニメ「王さまものがたり」(NHK教育)は現在放送中。