教育情報

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読書会のすすめ
2009.06.01
教育情報 <日文の教育情報 No.74>
読書会のすすめ
静岡文化芸術大学 顧問、元静岡県教育長 杉田 豊  

■「子どもの読書週間」

 今年も4月23日から5月12日までの期間は「子どもの読書週間」((社)読進協主催)でした。
 今年の読書週間の標語は「笑顔のヒミツは本の中」というもので、作者の北島絢子さんは「ページを1枚めくるたびにドキドキわくわく、本にはいろんな力があります。その素敵な力がひとりでも多くの子どもたちに届きますように、…」とコメントしています。このドキドキわくわく感は子どもばかりではありません。大人にとっても素敵な本との出会いは胸が躍ります。
 最近、「子どもの読書週間」を知らない人が多いことを知り、いささかショックを受けました。しかし、このこと以上に最近の若い人たちの本離れは心配です。たくさんの書物に接して欲しいと願う教職員にもその傾向が見られます。パソコンに向かう時間の増加に反比例するかのように読書に費やす時間は少なくなっています。教職員の多忙化が拍車をかけているとはいえ、心配です。

■100冊の本

 かつて静岡県教育委員会は、『先輩からのメッセージ「99+1冊」』を教職員全員に配布したことがあります。教職員に読書のすすめをしたもので、「99 冊」は県知事はじめ、教育関係者、民間の方々合わせて、1200人にアンケートを実施し、選出しました。
 パンフレットには次のコメントを付しました。
 『「99冊」の本は、子どもへの温かい視点や教育への熱い思い、人としての生き方などに指針を与える先輩からの温かいメッセージであり、エールそのものです。そして、最後の「1冊」は、一人一人の教職員が選んだ座右の書「私が私に薦める1 冊」です。それは、授業や子どものことを考える時に自信やよりどころとなるものです。』
 分類は、哲学、歴史、社会科学、自然科学…とせず、今、教職員に求められる六つの分野、「誇りと使命感」、「子ども理解」、「実践力」、「教養と人間性」、「社会の変化に対応する力」、「人としての生き方」に区分し、読む上での便を図ったものにしました。

■全国学習状況調査と読書

 平成20年度の学習状況調査によれば、「読書が好きな児童・生徒の方が、国語の正答率が高い傾向にある。」と国は公表しましたが、静岡県(浜松市)では国語のみならず、算数・数学にも同じ傾向が見られました。また、小学校では、読書が好きな児童と好きでない児童との正答率の差が前年度より大きくなっているという結果も出ています。各学校では、朝読書も盛んに行われ、読書に関わる指導は、どの学校でもきめ細かに行われているものの、読書についても二極化が進んでいます。

■『橋をかける』

 これは、皇后様の著した本(4月10日発行)の題名です。副題に―子供時代の読書の思い出―とあります。本稿は、1998年(平成10年)の9月インドのニューデリーで開かれた国際児童図書評議会第26 回世界大会においてビデオテープによって上映された皇后様の基調講演を収録したものです。
 皇后様は、「私の子供の時代は、戦争による疎開生活をはさみながらも、年長者の手に護られた、比較的平穏なものであったと思います。そのような中でも、度重なる生活環境の変化は、子供には負担であり、私は時に周囲との関係に不安を覚えたり、なかなか折り合いのつかない自分自身との関係に、疲れてしまったりしていたことを覚えています。
 そのような時、何冊かの本が身近にあったことが、どんなに自分を楽しませ、励まし、個々の問題を解かないまでも、自分を歩き続けさせてくれたか。」と、その中でお述べになっています。
 本のもつ意味はこの短いお言葉の中に凝縮されているように思います。そして、読書の思い出として真っ先に、まだ小さな子供であった時のことで不確かな記憶ですが、と断わりをしたうえで、新美南吉の『でんでんむしのかなしみ』をあげ、「この話は、その後何度となく、思いがけない時に私の記憶に甦って来ました。」とお述べになっています。

■読書会のすすめ

 読書の大切さは教職員であれば誰もが認識しています。教職員が本を読まずして、子どもたちに本の素晴らしさを伝えることが困難なことも承知しています。しかし、現実は、読書に多くの時間を割くことは至難の業でもあります。
 時代は移り、生活環境も大きく変わってきました。読書が全てではありませんが、読書の時間は確保して欲しいと思います。できれば、昔のような読書会(放課後)を復活し議論をして欲しい。教育力が確かなものになります。
 孔子は、「学んで思わざれば則(すなわ)ち罔(くら)し、思うて学ばざれば則ち殆(あやう)し」といっています。本を読むゆとりのない中で、読書するだけでなく、皆で議論をして欲しいというのは余りにも乱暴な提案のようにも思いますが、「教育」の問われている時代だけに、原点に返る一つの縁(よすが)として、改めて教職員の「読書会」を勧めたいと思うこの頃です。

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