教育情報

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橋下知事が中学校で授業
2009.08.12
教育情報 <日文の教育情報 No.75>
橋下知事が中学校で授業
大阪教育大学 監事 野口 克海 

■まるでオバマ状態

 体育館に“ウォー!”という歓声と大きな拍手が起こった。
 500人を超える中学生たちが橋下知事を迎えた瞬間だった。知事は半袖のカッターシャツにノーネクタイのクールビズスタイルで手を振りながら笑顔で入場してきた。
 平成21年6月26日午後、大阪狭山市立南中学校で「裁判員制度」についての授業が行われた。
 前日は東京で石原都知事と会ったり、横浜市の中田市長と会ったり、東国原知事が自民党から立候補かという報道が流れたりした超多忙な日程の中で、次の日に大阪の一つの公立中学校で生徒たちに授業をするというのである。
 その熱意というか意欲というか行動力に大人たちだけでなく、中学生たちも知事に拍手を送っている。
 「知事が来てくれるこの狭山南中学って、すごいと思う人?」と、進行役をつとめる「よのなか科」の藤原和博氏(大阪府教委特別顧問)が生徒たちに問いかけた。
 「ハーイ!」と一斉に手を挙げた生徒たちから、また歓声と拍手が起こった。
 まるでオバマ状態のスタートだった。

■授業で知事が訴えたこと

 突然、二人の男が体育館の横の入口から大声を出しながら乱入してきて、体育館フロアーの中央で二分間ほど、何やら叫んで走り去っていった。
 ここから授業が始まった。
 「今、立ち去っていった二人の人物の人相、服装など、覚えていることをカードに書いて班で話し合ってください。」
 突然のことで、生徒たちからはあまり意見が出てこないので、藤原氏が「知事ッ。弁護士として、目撃者の証言で大事なことって何ですか?」とふった。
 「皆が言ってくれたメガネとか40~50歳くらいの男というだけでなく、クツの色とか腕時計とか腕章をしていたとか個人が特定できる意見が欲しかったけれど、大切なことは、人間の記憶ってあいまいだということ、証人の意見もあやふやな記憶が多いことを知って欲しい。
 今年から裁判員制度がスタートしました。君たち中学生も、もう5、6年すれば裁判員に選ばれるかもしれない。足利事件の菅家さんのような間違いが起こらないように何が大切かしっかり考えよう。」と知事が説明。
 イギリスのバルガー事件という少年による幼児殺害事件を例にあげて授業は進んだ。
 大阪狭山市の吉田市長が検察官の最終弁論を読みあげる。橋下知事が弁護士として抗弁をする。生徒たちはシーンとして要点をメモしながら聞いている。
 バルガー事件の被告人の年齢は10歳、日本の少年法では14 歳未満は刑事罰の対象にならないのは甘いと思うかなど、各班に入っている地域のボランティアの大人や大学生と一緒に生徒たちは活発に意見を交わしている。
 「今、検察側の意見を言っていた人は、次は弁護側に立って話し合いをしてください。」
 授業は1時40分から始まり3時30分まで110分間続いた。知事は最後に「裁判というのは、証拠や罪の意識や殺意や判断能力など、いろいろな角度から考えなければならない。一方的な意見ではなく柔軟に立場も変えて考える力をつけて欲しい。」と語った。

■生徒にとって○○記念日

 大人もいれたら800人はいただろうか。
 梅雨の体育館はクーラーもなく、ものすごい暑さだった。
 その中で100分以上の授業に全員の生徒が知事の話を真剣に聞き、話し合い、意見を発表した。
 「授業って何だろう?」と思わされた。
 話し合う班をまわりながら声をかける知事の熱意を生徒が感じたのか、教材やテーマが生徒を引きつけたのか、生徒たちが日頃から立派なのか、進行役の藤原氏のリードがよかったのか、おそらく、それらが全て合わさって、悪条件の中でも授業が成立したのだと思う。
 狭山南中の生徒にとっては、大人になっても思い出に残る○○記念日となったに違いない。
 子どもたちの為になることなら、なんでもやってやろうという気持ちにあらためてなった一日だった。

著者経歴
元 大阪府堺市教育長
元 大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元 文部省教育課程審議会委員

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