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中教審「学校段階間の連携・接続等に関する作業部会」報告書から ~特例の緩和を生かして一貫教育の推進を~
2012.10.31
社会科NAVI(小・中学校 社会) <Vol.02>
中教審「学校段階間の連携・接続等に関する作業部会」報告書から ~特例の緩和を生かして一貫教育の推進を~
小中連携の現状と課題
大阪教育大学非常勤講師 丹松 美代志

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1.はじめに

 筆者は、12年間の大阪府の公立中学校の校長を経験する中で、今日の児童生徒の成長・発達の状況と学校教育の現状を見る中で、小中一貫教育にその展望を見出したいと考えてきた。戦後の教育改革の中で、わが国が手本としたアメリカにおいては、6・3制の義務教育制度を続けている州は数%に過ぎない。他の先進国しかりである。
 小中連携、一貫教育の問題は、今後のわが国の行く末を左右する重要課題である。中央教育審議会の動きを追いながら、私見を述べてみたい。

2.中教審作業部会の報告

 本年7月13日、中央教育審議会初等中等教育分科会の「学校段階間の連携・接続等に関する作業部会」が昨年10月から審議してきた内容を「小中連携、一貫教育に関する主な意見等の整理」(以下「報告書」)としてまとめ、分科会に報告した。
 報告書によると、懸案となっていた義務教育学校の制度創設は、「慎重な審議が必要」ということで将来の検討課題とした。その主な理由は、人間関係の固定化・学びの接点の減少・複線化への懸念の3点である。継続審議になったことは、平成17年10月の中教審答申「新しい時代の義務教育を創造する」に立ち戻った感がし、残念である。ここで改めて、小中一貫教育の出発点となった17年答申の中の「義務教育に関する制度の見直し」の項を見ておきたい。
 『義務教育を中心とする学校種間の連携・接続の在り方に大きな課題があることがかねてから指摘されている。また、義務教育に関する意識調査では、学校の楽しさや教科の好き嫌いなどについて、従来から言われている中学校1 年生時点のほかに、小学校5年生時点で変化が見られ、小学校の4~5年生段階で発達上の段差があることがうかがわれる。研究開発学校や構造改革特別区域などにおける小中一貫教育などの取組の成果を踏まえつつ、例えば、設置者の判断で9年制の義務教育学校を設置することの可能性やカリキュラム区分の弾力化など、学校種間の連携・接続を改善するための仕組みについて種々の観点に配慮しつつ十分に検討する必要がある。(下線は筆者) 』
 その後、平成20年1月の答申「学習指導要領の改善について」の中で、「発達の段階に応じた学校段階間の円滑な接続」という項を立て、幼少の教育課程の工夫により小1プロブレムへの対応を図ることや小学校の教育内容を中学校教育の視点で再度指導するといった工夫を求めている。
 この間、平成18年から19年にかけて、教育基本法と学校教育法をはじめとする教育3法が改正され、新たに義務教育の目的・目標が規定された。その結果、小・中学校における教育の継続性が確保され、小中連携、一貫教育の土台が固まり、全国の半数以上の地方自治体が取り組む状況が生まれた。また、「骨太の方針」(平成15年、閣議決定)を受けて、構造改革特別区域における小中一貫特区が文部科学省の「特別の教育課程を編成して教育を実施できる学校(教育課程特例校)」に移行したことも、小中一貫教育の推進の追い風になった。 

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小中一貫教育全国サミット2011 共同宣言(抜粋)

 先の報告書の中で評価すべき点は「国としては、学校、市町村において積極的に小中一貫教育を推進できるよう、現行の小・中学校制度を基本としつつ、設置者の判断に基づき、一定の教育課程基準の特例を活用できることについて検討することが望ましい」としていることである。特例を緩和することで、小中一貫教育全国サミットに集う区市町村をはじめとして小中一貫教育を進めていこうとする自治体にとっては大きな後ろ盾となる。

3.小中一貫教育の課題

 ここで、改めて小中一貫教育とは何かを確認しておきたい。京都産業大学西川信廣教授は、小中一貫教育を「小学校教育と中学校教育の独自性と連続性を踏まえた一貫性のある教育」と定義している。また、サミットの中心メンバーである広島県呉市は、具体的に次のように定義づけている。
 『小中学校の教職員が義務教育9年間で児童生徒を育てるという意識を持ち、児童生徒の成長・発達の状況に即した教育課程を編成・実施することによって、知・徳・体のバランスのとれた、義務教育を修了するにふさわしい学力と人間関係の力等を育成するとともに、児童生徒の学びへの不安の解消と自尊心の向上を図る。』
 小中一貫教育の推進に当たって、施設一体型か施設分離型(連携型)かということが政争の具になりがちである。児童生徒の育ちと学びの視点から教育論で対処されることを強く望むものである。

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教科や活動の時間の好き嫌い(学年別)

 最後に、社会科の課題に触れたい。
 上のグラフは「義務教育に関する意識調査」(文部科学省, 平成17年度)である。児童生徒の社会科の「とても好き、まあ好き」のピークは中1の53.2%で最低は中3の37.9%である。中3に至っては、6割を越す生徒が社会科が嫌いということになる。公民的資質の育成を使命とする社会科の現状を打破するためにも、小中一貫教育の視点から今一度社会科のカリキュラムを見直したい。例えば、中学校の教員は、小学校・高等学校の教科書、学習指導要領を座右に置き、単元計画を再検討して欲しい。義務教育9年間、さらにその後の3年間を見通したカリキュラムを編成することが、児童生徒が社会科の学びに向かう大前提ではなかろうか。

丹松 美代志(たんまつ みよし)
専攻分野/教科教育学(社会)、「学びの共同体」論
主な論文/「大阪府における中学校社会科教育研究の現状と課題」(『大阪教育大学社会科教育学研究』第9号)
その他/「学びの共同体」スーパーバイザー