ROOT(算数・中学校 数学)

ROOT(算数・中学校 数学)

学習の活用を意識して最初から指導しよう
2013.03.04
ROOT(算数・中学校 数学) <No.10>
学習の活用を意識して最初から指導しよう
算数・数学教育のいま
重松 敬一(奈良教育大学 教授)

冊子表紙

1.活用について

 見方・考え方や能力、態度に対しては「活用」、学習内容に対しては「利用」と区別して使われることもありますが、むしろ、活用は、利用や応用を含んだより広い概念と考えてみたいと思います。知識基盤社会を考えるのも、知識を基盤にして、新しい問題に既習の知識を活用できる状況を強く意図したものといえます。さらに、活用しようとするからこそ、学習内容も考え方も豊かに学ぶ必要を、児童・生徒に感じさせることができるものと考えられます。
 ところが、全国学力・学習状況調査やPISAなどの結果を見ると、活用に関する解答状況が良くないことはいろいろなところで指摘されています。
 例えば、平成24年度全国学力・学習状況調査の算数のB⑤(3)(一輪車に乗れる学級の男女の割合)の結果は、正答率が23.8%であり、「日常生活で二つ以上の事象の大きさを比べるときには、量で比べる場合と割合で比べる場合があることを理解し、目的に応じて適切に使い分けられるようにすることが大切である。」と解説資料で指摘されています。
 これは単に、学習した後の記憶力だけの問題としては片付けられそうにありません。学習後に、うまく既習の知識や考え方が活用できなかったのではなく、新たな課題を解決するとき、これまでの学習で自分が身に付けたさまざまな知識や技能、見方・考え方から課題解決に必要なものを選び出し、解決につながるようにくふうし、使っていく力としての活用力がうまく習得されていないことが、その要因と考えられます。

2.活用力を育成する

 このような活用力の習得がうまくいかないのは、基礎基本的な内容の習得学習と新たな問題への活用の学習が分離して学習指導されていることが問題であることは、すでにこのRooTでも指摘されています。
 活用する授業で改めて習得した内容の活用を意識させるのではなく、初期学習の際に、当該の学習内容が他の学習内容や考え方とどのように関連するのか、さらには、生活や社会の問題へどのような活用が考えられるのかといった話題をちりばめて意識させておきたいものです。
 その結果、児童・生徒は当該の学習内容を理解し、直後の問題さえ解ければよいといった学習意識に終わるだけでなく、その学習内容を活用しようと意識するようになります。さらに、その後の当該の内容をうまく活用できた経験を経て、活用を意識した学びのプロセスとしての活用力が児童・生徒に生まれてきます。そのためには、次のようなことを授業展開に配慮したいものです。

①活用するための数学の基礎学習をするときに、当該の内容や考え方が活用されることに触れておきたい。
②学習した学習内容や考え方を活用するには、数学化したり、情報を活用するためのくふうをしたり、表現するなどして、関連内容にどのように気付くかという活用のプロセスを経験させたい。
③「何かにうまく使えないか」、「あっ!ここに使えそう」といった活用するための意識を常に持たせたい。

 このような活用力の学びをできるだけ日々の学習指導の中に組み込んでおきたいものです。

3.活用力を生かした授業

 次の図は、中学校3年生の2乗に比例する関数の初期学習(右側)と、その活用として、テレビに出てくる『アルプスの少女ハイジ』のブランコの長さを求める探究活動を考えた授業を表した図です。直接的にブランコの長さを求めるときに、活用できる知識として2乗に比例する関数の内容や考え方が働く様子を示しています。 
root_no10_01 実際、ハイジのブランコの長さを求める授業では、日常生活や社会で数学を活用する活動としての数学的活動が重視され、京都府福知山市に高さ22.9メートルのブランコがあるといった興味・関心を引くことなどにも触れられていました。
 このような生活や社会との関係での興味・関心やよさを喚起するためにも、2乗に比例する関数の初期学習の折りにも、日常での振り子の運動の話題に触れ、関連を図ることが大切です。
 そのために、算数の教科書でも、主に作業的・体験的な活動や、算数で学習したことを実際の場面で活用するといった算数的活動を『いち・に・算活』として取り上げています。
root_no10_02 例えば、活用したものとして、算数新聞が取り上げられています。(『小学算数』5年下P.86)
 なお、習得や活用型の学力育成の基本となる「もう1人の自分」(メタ認知)を育てることを心掛けることも大切でしょう。
 活用についていえば、「習ったことを活用することが大切だ」というメタ認知的知識を育成することによって、「算数・数学の学習内容を使ったから、問題解決がうまくいった」、「次も算数・数学の学習内容を使うと、問題解決ができるかもしれないぞ」という考え方を育てることが可能になってきます。