ROOT(算数・中学校 数学)

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〔論考〕子どもの興味を高める算数・数学的活動を喚起する単元導入
2012.11.20
ROOT(算数・中学校 数学) <No.09>
〔論考〕子どもの興味を高める算数・数学的活動を喚起する単元導入
興味を高める導入
勝美 芳雄(帝塚山大学 教授)

冊子表紙

1.十八番(おはこ)

 算数・数学を教える教師の多くは、新しい単元の学習の最初には、子どもの興味を引く導入をしようとするでしょう。そして、この成否はその後の単元展開に大きな影響を及ぼします。
 このような単元導入をくふうして、「この単元なら、この導入」という、いわば十八番を持っている方も多いはずです。筆者自身、小学校で算数を教えていたとき、例えば6年生の比例・反比例の導入では、「変われば変わるものなあに?」というなぞなぞを必ず使っていました。

2.子どもの興味を高める

 このような導入をしていたのは、なぞなぞを使うことによって子どもの興味を高めようという意図があったからです。
 松尾(2001)は、導入について児童の意識から考察し、導入問題が持つべき10の要件を次のようにまとめています。

①児童が「おかしいぞ」と思うもの
②児童が「これはむずかしそうだ」とはじめは困った顔をするもの
③児童が「いろいろに考えられるな」と思えるようなもの
④児童が「おもしろそうだ、自分なりの方法でやってみよう」という気持になるもの
⑤児童が「こうすればできそうだ」という気になるようなもの
⑥児童が「ちょっとむずかしそうだ、できそうかな, あれとにているな」と思うようなもの
⑦児童が「あ!このあいだのだ、なあんだ」と親近感のもてるもの
⑧児童が操作をしているうちに「あれ,こうすればいいのか」など解決の糸口のえられるもの
⑨児童が「あれとにているな、~のようだ、続きをやってみたいな」と思うようなもの
⑩児童が「できたぞ、わかったぞ、やっとできた」などよろこびの声をあげられるようなもの

 筆者の十八番であったなぞなぞは、これらのうち、③④⑤の要件を備えていたと考えられます。

3.算数・数学的活動を喚起・促進する

 筆者が比例・反比例の導入になぞなぞを用いたのは、子どもの興味を高めるためだけではありません。それだけでは、単なるパフォーマンスになってしまいます。身の回りにある関数関係に気付かせ、さらに、その中から比例や反比例の関係にあるものに注目させたいという目的を持っていました。ですから、「増えれば増えるものなあに?」「増えれば減るものなあに?」というようななぞなぞに発展していきました。
 つまり、興味が高まったことによって喚起された子どもたちの活動が、算数・数学的活動になっていることが必要です。重松・日野・牧野(1999)は、多くの先行研究を整理した結果、数学的活動が喚起・促進されるような「よい問題」の特徴として、次の3つの数学力の育成を挙げています。

①筋道を立てて考える力
②一般化する力
③日常生活に活用する力

 筆者のなぞなぞは、③を意識しながら、導入後の単元の学習で①②を育成する契機になる問題だったといえるでしょう。

4.単元導入の開発

 さて、単元全体の学習を有意義に進めるために、教師はこれまでに述べた2つの要件、つまり、

●子どもの興味を高める
●算数・数学的活動を喚起・促進する

を備える導入を各単元で準備しなければなりません。そのために、多くの場合、教師はさまざまな資料を参考にすることになります。これに関して、松尾(2001)は、教材開発の観点として、次の8つを挙げています。

①教科書の中から楽しく学べる教材を工夫する。
②過去の文献・先行研究を探る。具体的には、算数の教育雑誌、学会誌などから情報を得る。
③数学史から資料を得る。
④子ども向けのクイズ・パズルから資料を得る。
⑤数学の本から問題を見つける。
⑥教具から教材を考える。
⑦研究グループで教材を吟味する。
⑧子どもの生活や実態から教材を考える。

 これらは、広く教材開発を対象としているため、①で教科書を参考にすることが挙げられています。しかし、これまでの教科書には単元導入の内容が掲載されていることは、それほど多くありませんでした。
 また、単元展開の成否を左右しかねない導入は、教科書に頼らない教師自身のオリジナルで臨みたいという教師の意気込みもあるでしょう。さらに、単元導入を成功させるために、担当する子どもたちの環境や実態に合わせた内容にしたいという教師の願いもあると考えられます。

5.教科書における単元導入

 しかし最近は、教科書にも単元導入に使える内容が多く掲載されています。
 そこで、『小学算数』(平成23年版)の単元導入を見てみましょう。その内容は、次の3つの型に分類できます。

①操作型
 単元の学習内容に関わりがある作業や体験といった算数的活動を通して、単元の学習内容への意識を高めます。

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操作型の例(『小学算数』2年上P.76)
「水のかさ 水のかさをはかろう」

②身の回り型
 ふだんの生活の中で目にしている事例や事象について算数の目で捉え、単元の学習内容に関わる疑問点や問題点を見つけます。

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身の回り型の例(『小学算数』3年上P.88)
「大きい数 10000より大きい数を表そう」

③ふり返り型
 単元の学習内容に関連する既習事項を提示しながら、最終段階で未習内容を提示し、未習内容をどのように解決するかについての関心・意欲を高めます。

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ふり返り型の例(『小学算数』6年上P.34)
「分数のかけ算 分数をかける計算のしかたを考えよう」

 教師の意気込みや願いとともに、このような教科書の内容も参考にして、子どもたちの興味を引きつける単元導入を開発してください。

【引用文献・参考資料】
松尾吉陽(2001) 算数科学習における導入指導 東京学芸大学附属学校 研究紀要.28集、p.49-56
重松敬一 日野圭子 牧野浩(1999) 中学校数学教科書にみる「よい問題」の研究 奈良教育大学紀要.48巻 1号、p.21-35