線 Line(小学校 書写)

線 Line(小学校 書写)

書き初め
2013.01.31
線 Line(小学校 書写) <No.04>
書き初め
筑波大学 非常勤講師 小倉太郎

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 新年を迎え、この時期多くの学校では書写の授業において書き初めの指導が行われていることと思います。子どもたちは、通常の書写の授業で使用する筆や半紙とは異なる大きな用具の扱い方に戸惑いながらも、一字一字に全身全霊を傾け練習を重ねている姿が目に浮かびます。
 国語辞書などには、書き初めは古来より毎年正月二日にその年の恵方に向かい、おめでたい意味の詩歌などを書いていたとあります。その名残もあって、現在でも年が明けると全国各地で数多くの書き初め大会が開催され、我が国の伝統的な行事の一つになっていることは周知の通りです。
 私事になりますが、偶々父が書道を教えていたこともあり、小・中学生の頃はいつも年末から年始にかけて書き初めの練習に明け暮れました。大晦日や正月も休むことなく毎日何十枚と書きましたが、なかなか満足のいくものなど書けません。父の指導はとても厳しく、幼少の頃は何時もべそをかきながら書いていました。幾度となくもう書きたくないと思いながらも、練習を重ねるうちに少しずつ上手く書けるようになってくると、それまでの苦しみが逆に楽しさに変わり、いつの間にか積極的に取り組むようになりました。その結果、市や県の書き初め大会に学校代表で選ばれ、自分の作品が幾度か入賞する機会に恵まれると、苦労が報われた気持ちとともに達成感を得ることができました。そして次回は更に向上すべく努力を重ねたものです。そのような経験があったからか、大学の進学時に書の道を志し、現在は幾つかの学校や自宅にて書を教授しています。
 小学校における「書写」は、「文字を正しく整えて書くこと」がねらいであり、決して書の作品を制作することが目的ではありません。また精神主義や鍛錬主義を標榜するものでもありません。その上で、書き初めが書写の学習内容の一つになっていることを改めて考えてみたいと思います。書写の年間指導計画の中でどのように位置づけられるのかを見ていくと、各学年の終盤に設定される書き初めの学習は、それまでに実施してきた書写の学習内容を再確認するとともに、書くことによる表現の場ともなることでしょう。現行の学習指導要領では、書写は国語科の「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」に位置付けられていますので、その点から考えると書き初めの学習は、伝統的な言語文化の一翼を担っているとも言えるでしょう。教科書の教材を書くことは勿論のこと、小学校高学年などにおいては、その年の抱負や決意を自分で考えて書くこともよいのではないでしょうか。児童は語句を吟味し、それを自らの手で書くという一連の行為の中で、楽しさや喜びを感じることでしょう。また、それらの経験が、将来役に立つ児童も少なからずいることと思います。ぜひ多くの子どもたちに書くことの楽しみを享受させたいものです。