小学校 図画工作
小学校 図画工作

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。
授業の実際
●題材イメージ→想いへ

題材の導入では、一畳大の段ボール板を十字に組んだものを「おうち」に見立てることから始まり、子どもたちが「おうち」から連想するもの・ことを引き出していった。ここでは、題材の中心テーマである「おうち」への想像を広げ、おうちづくりへの想いをもたせることがねらいなので、敢えて時間をかけて分類・整理はしなかった。
題材イメージが「おうち」からの連想によって広がってくると、子どもたちの中に「こんなおうちにしてみたい」「こんなおうちがあったらいいなあ」といった想いが芽生え始めてきた。そこで、活動へと移行していったのである。
●扉が交流の扉を開く
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まずは、座ったり触れたりして材質を確かめる子ども。十字に組んだ段ボールを動かして思い描いた部屋に合うように場を変化できないかと試す子ども。自分のスペースから隣のスペースをのぞいて楽しむ子どもなど。場や材料で遊んだり、材料に触れてできることを試す子どもたちの姿がそこにはあった。
次にとりかかったのは、導入で行ったおうちからの連想で出ていた様々な部屋に必要なアイテムづくりである。段ボールで浴室をつくる子ども。部屋で一緒に暮らす犬の小屋をつくる子ども。おもちゃ棚を段ボール箱を切ってつくる子ども。段ボール箱を積み重ね、階段を手掛ける子どもなどがいた。
一方で、段ボールカッターを手に始めたのが、隣の友だちと共有している壁の加工であった。部屋に必要なアイテムとして窓を強く意識している子どもであった。ギコギコ切っていくといつしか隙間ができ、扉や窓ができていく。その空いた箇所から隣をのぞいたり、手を入れて隣にちょっかいを出したり。また、それに気付いて、のぞき返してきたり、扉の形をさらに変えようと提案したりする子どもなど、次第にその輪が回りに広がっていった。つまり、共有する壁は子どもたちにとっては、隣との境界としての隔たりではなく、交流のきっかけをつくるものとして働いたのであった。
●互いに刺激を交わして表現の幅の広がりへ
段ボールカッターで切る手応えを満喫した子どもは、「もっと~したい」とばかりに屋根を組んだり、着色したり、新たに段ボールをもってきて家具をつくり出したりし始めた。
友だちとの交流の中で「テレビがあるといいよね」「お風呂の次はシャワーもつくってみたら」といった「もっと」が生まれ、次の造形活動が始まる子どももいれば、段ボールをテーブルにしたり床の段ボールを着色して庭にしたりといった、友だちの工夫からひらめいて始まる子ども。また、周りの友だちがアイテムを段ボールに筆で描くのではなく、段ボールから切り抜いてつくっているのをきっかけにつくりかえる子どもなど様々であった。その様子を見ていると、子どもたちの造形活動は、友だちと交流しながら創造的な刺激を交わして進んでいるかのようであった。
また、自分のスペースを表現しながらも、隣接した友だちが手掛けているところが気になり見に行ったり、手伝ったりする姿があり、そこに、自分たちの「おうち」への想いのふくらみを見取ることができた。このころから、子どもたちから「自分のおうち」ではなく「先生見て。ぼくたちのおうち。」という声があがり始めた。
●遊びを通した相互鑑賞で互いの違いのよさを実感
本題材も6時間目を迎えた。題材の最終時間である。
自分たちの「おうち」を満足いくまで表現し、班によっては表現の幅を広げ、段ボールで道をつくり他の班とつながっていき、互いに行き来して遊んで交流しているところも出てきた。それを見取った教師は、最後の時間を相互鑑賞、しかも遊びを通しての相互鑑賞の時間として設けた。
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右の画像は、友だちが表現したおうちの中の「お風呂」に入って面白さを味わっているところである。どんな気持ちかを尋ねると「気持ちいい~」と本物のお風呂に浸かってるかのように応えてくれていたところに、友だちの表現のよさを感じ取っているのを見取ることができた。
2つ目の画像は、友だちの子ども部屋「ワクワクハウス」にすっぽり収まって落ち着いている様子である。「外側もいいけど、中からだともっといいよ」「本当のおうちにいるみたい」と教師に話しかけている場面である。
3つ目は、女の子が男の子に、表現したおうちを「ここにはリモコンを置くポケットがあって、この箱には教科書が入ってて…」「このドアの取っ手が難しかったんだよねえ」と紹介している場面である。子どもそれぞれに、こだわってつくったり、苦労してつくった部分があったりするので、表現一つひとつがかけがえのないものとなっていることが、その説明に耳を傾けるととらえることができたのであった。
終わりに
教師として日頃心がけていることがある。それは、終始、子どもの声に耳を傾け、子どもの内面を引き出して理解すること。そして、見取った子どものよさを子どもに価値付けとして返すことである。
それは、個人的に問いかけたり、子ども同士の交流に加わって聞き出したりすることだけで可能になる。大事なのは、その子ども理解への手間を惜しまないこと。そして、子ども一人ひとりのこだわりや想像の世界のよさ、表現するモチーフに至るまでの背景、これからの表現への見通し、悩みなどの子どもの内面を見取った上で称賛したり周りに広めたりして価値付けるのである。そのことにより、子どもは無意識で行っていた造形活動のよさや自分の見方・感じ方・考え方のよさを意味付かせていくのである。
本実践の記述は、場面場面での子どもの姿を取り上げて紹介したものであったが、その姿の裏では指導と評価の一体化としての教師の見取りと価値付けが適宜行われていたのである。