小学校 図画工作
小学校 図画工作

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。
※この実践は、前任校の札幌市立伏見小学校において6年生で行ったものです。
図画工作・札幌発信シリーズ<3>
指 導 計 画 |
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題材名 |
12才の自分を表そう |
学年 |
6 |
総時数 |
6(+道徳2) |
題材のねらい |
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主な学習内容 |
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材料・用具 |
白画用紙、鉛筆、消しゴム、水彩絵の具、ローラー、スパッタリング用の道具、ストロー、ビー玉、スタンプ、はさみ、のり など |
主な評価の観点 |
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1.「自分らしさってなんだろう?」(道徳との横断的関連)
「自分って…?」
「自分らしさって…?」
「自分のよさって…?」
これまで当たり前のように考えてきた(または考えてこなかった)自分って、考えてみると案外よくわからない。
日本の子どもたちは、他の先進国と比べても自己肯定感が際立って低いと言われている。卒業まであと数ヶ月の子どもたちに、「自分」を深く見つめる眼をもってほしい、特に、「自分のよさ」「自己肯定像」をしっかりととらえてほしい、と願い本題材に取り組んだ。
道徳の時間を活用して、「自分らしさ」について考えた。ワークシートに自分自身で自分の趣味・特技・特徴などを書き込んだり、友達から「~さんのいい所」を書いてもらったり(子どもたちは友達の反応を想像以上に嬉しそうに受け止めていた)、保護者にアンケートで「~のいい所」を書いてもらったりすることで、自分を見つめ直していき、「自分のイメージ」を再発見・再確認していった。
「自分は○○が好き。まわりの友達も認めてくれている。」
「自分ではこう思っていたけど、意外に友達からはこう見られているんだ!」
「お父さんもお母さんも私の○○がいい所って言ってくれている。」
「僕は将来、○○の道を生きたい。だから○○ははずせない。」
2.「自分らしい表情?…マジ顔?笑顔?変顔?」
「“今の自分”を自画像に表そう。“自分のイメージ”に合うのはどんな表情だろう?」
鏡とにらめっこをする子どもがいたり、友達同士で顔を見せ合う子ども(自然とにらめっこに発展していき笑いが起こる)がいたりする。
表情が決まったところで自画像を描き始める。それぞれの「自分のイメージ」は違うのだが、描いているときの様子はみんな真剣そのものであった。
自画像を描くとき、「顔を描く」ということに抵抗感をもっている子どもや、漫画的・記号的に顔を描く子どもも少なくない。そこで事前に、顔をよく見たり触ったりすることで、顔の造形的な美しさや面白さに気付くことができるようにした。そうすることで、子どもは自分の顔とじっくりと向き合いながら、表現していくことができた。
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鉛筆による自画像 |
3.「自分らしい形や色で背景を表そう!」
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背景を表していくとき、子どもは自分の内面とより親密に対話することになる。
「自分らしい色って…?形って…?」
「どんな表現方法にすればイメージに合うかな?」
目に見えない「自分の内面」を形や色でどう表現するか、またその表現からイメージをどう広げていけるか、そこに、これまで習得してきた「発想・構想の能力」や「創造的な技能」が表れる。
子どもたちは、これまでの図画工作科で培ってきた資質や能力を働かせて、ローラーやスパッタリング、にじみや点描などの表現技法を選び、試しながら、画面に自分を映していく。
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自分のイメージに合うように様々な表現技法で表された背景 |
4.背景と自画像を組み合わせよう
完成した背景に、自画像を組み合わせていく。
事前に完成への見通しについては確認していたので、子どもたちは背景を表していく時点で、どこに自画像を当てはめようか考えている。自分の思い描く通りに自画像と背景を組み合わせていった。
出来上がると、子どもたち一人一人の個性が表れた多様な作品が生まれた。
「キーパーとしてサッカーに挑む自分」を表そうと、グラウンドの土の色一色の中にゴールを描き、真剣な表情の自分を当てはめる子、「面白い自分」を表わそうと、明るい色の下地の上にはじけるような点やコミカルな図形を配す子、淡い色と花びらで画面を構成し「明るい自分」を表す子、自分の好きな本やプレゼントなどの具体的表現と抽象的な背景を組み合わせて自分らしさを表現する子など多様な作品が並んでいる。
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切り取った自画像と背景を組み合わせた完成作品 |
5.“あなた”がいて“わたし”がいる
この題材を通して、子どもたちは常に「自分との対話」を続けている。その時忘れてはいけないのは、「他者との対話」の存在である。導入やまとめなど、私は折に触れて子どもの作品を全体で見合うことを大切にしてきた。または、自然発生的に行われる友達同士での交流を大切にしてきた。「この形が~さんらしい」「~君らしさって○○だからこの色なんだね」「こうすると、もっと~さんらしさが出ると思うよ」このような友達からの評価が、自分の表現を高め、自分をより深く見つめることにつながっていったのだと考える。
6.この実践を終えて
出来上がった作品を見る子どもたちの表情はどこか誇らしげであった。自画像というと、「似ているか似ていないか」という評価で見てしまいがちだが、この題材を経験した子どもたちにとっては、今回の作品は「似ているかどうか」以上に大切なものが表現されているものとなったようである。それはまさしく、子どもたち一人一人の「自分らしさ」や「自分のよさ」である。見た目だけではなく、作品から滲み出る内面のよさをとらえられるからこそ、作品を鑑賞したときに、子どもたちは先ほどの表情を浮かべることができたのだと思う。
今回の題材が終わっても、“自分を見つめる眼”をこれからも大切にもち続けてほしいと願っている。
【監修者 北海道教育大学岩見沢校 准教授 阿部宏行】