小学校 図画工作

小学校 図画工作

《札幌発信シリーズ》 表現(2)立体に表す・鑑賞(1) きもちをかたちに
2011.03.31
小学校 図画工作 <No.012>
《札幌発信シリーズ》 表現(2)立体に表す・鑑賞(1) きもちをかたちに
~粘土で自分の気持ちを表そう!~
札幌市立和光小学校 実践者 千葉紗希子

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

図画工作・札幌発信シリーズ<5>

指  導  計  画

題材名

きもちをかたちに ~粘土で自分の気持ちを表そう!~

学年

総時数

準備

☆鑑賞
・本校や札幌市内にある、抽象的な彫刻作品の写真

☆作品づくり
・油粘土
・ブロンズ粘土
・ねんどべら
・メッキスプレー
・さびカラー
・黒色発泡スチロール

学習目標

 自分の表したい「きもちのかたち」をブロンズ粘土を用いてつくることができる。
 粘土の手ごたえや質感に親しみ、つくりだす喜びを感じたりつくる行為を楽しんだりする。

主な学習内容

  • 札幌市にある、抽象的な形の彫刻作品の鑑賞を行う。
  • 粘土の質感、技法などを確かめるために油粘土で遊ぶ。
  • 鑑賞で感じたことを大切にしながら、ブロンズ粘土で、抽象的な作品作りを行う。

主な評価の観点

  • 自分の表したい「きもちのかたち」を見つけ、感じたことを活かしてつくることを楽しもうとする。(造形への関心・意欲・態度)
  • 自分のイメージや材料とのかかわりから、表したい形を考えている。(発想や構想の能力)
  • 粘土の特性を生かしながら、自分の表現に必要な技能を適切に使い、表している。(創造的な技能)
  • 抽象彫刻や友達の作品から、その形の表わしていることを想像したり、美しさや面白さを感じたりしている。(鑑賞の能力)

1.<感じたままに~抽象彫刻の鑑賞~>

z_vol12_01 『本校の玄関前には「大いなる希望」と題された抽象彫刻がある。
 子ども達にとってなじみの深い、この彫刻を取り上げることで、「難しそう」「よくわからない」という既成概念を持たせず、抽象表現に親しむことができると考えた。その他、鑑賞で用いた5つの作品は、全て札幌市内で見ることができる作品である。子ども達が何気なく道を歩いていて、美術作品に出会った時に「あ」と目を留め感性の素地を養いたいと考え、子ども達にとってなるべく身近に感じられる作品を選んだ。それらの作品の画像を、大画面テレビに映し「どんな感じがする?」と問いかけた。

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 最初は「○○の形に見える」と見立てを行っている子が多かったが、ある子の「喜んでいる感じに見える。」という発言をきっかけに、鑑賞は深まり、彫刻作品から受ける感じを話す子どもが増えていった。作品を見て感じたことを互いに伝え「わかる!」と共感しあったり「私は逆に…」と自分とは違う感じ方に触れたりしながら、子ども達は、抽象のイメージをつかんでいった。鑑賞の授業後、ある子どもの振り返りには『今日見た作品は全部、はっきりした形ではないけれど、色々な見方ができて、つくった人には表したいことがあるということがわかった』と書かれていた。抽象的な表現を子ども達なりの言葉で理解していった。

2.<きもちをかたちに ~自分の気持ちを表そう~>

①油粘土でおためしタイム
 まず「おためしタイム」と称して、油粘土で色々なことを試してみた。この「おためしタイム」には3つのねらいがある。

  1. 自分のつくる作品のイメージを膨らませる。
  2. 指先でひねり出したり、丸めたり、手のひらで伸ばしたりしながら粘土の感触や技法を確かめる。
  3. 用具の使い方を確かめる。
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 鑑賞の学習の印象が強く残っていたため、子ども達の意識は、自然と抽象的な形に向いていった。気に入った形ができた子は「これ、とっておいてもいい?」とそれをエスキースとして作品づくりを行っていた。

②ブロンズ粘土ってどんな粘土?
 作品の製作には、ブロンズ粘土を用いた。子どもたちにとっては初めて出会う材料である。ブロンズ粘土は彫塑性に優れており、磨くことによって光沢が出る。その特徴を子ども達と確かめ、いよいよ作品づくりである。

③自分の気持ちを立体に表そう
 きもち、という言葉から「喜び」や「怒り」などの「感情」をテーマに選ぶ子、「夢をテーマに…」「仲の良い友達とのつながりを表したい」など、自分が表したいことのイメージを形にしようとする子、様々な方向に子ども達の発想と活動は広がっていった。
 子ども達は、指先や手のひら全体を使い、ブロンズ粘土の感触を楽しみながら作品づくりを進めていった。
 自分自身や友達と会話をしながら、子どもの手は止まることがなかった。そこには、自分の思いを表現しようと模索し続ける子どもたちの姿があった。作業が進むにつれ「芯を入れたい」「空中に浮かせたい」など、ブロンズ粘土以外の材料を必要とする子が増えてきた。

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 次の時間には鑑賞コーナー(ミニ美術館)を設置した。作品をここに置き、照明を当て、「見て感じる」ことと「つくる」ことを繰り返していった。客観的な目で作品を見つめることで、作品の形がどんどん豊かなものになっていった。
 さらに次の時間には、実物投影機とプロジェクターを用意して、作品をスクリーンに映し出せるようにした。作品が映されると、子ども達の中から歓声があがり「本物みたい」「ひび割れをなくしたほうがいいね」など自然な関わりが生まれた。
 仕上げの方法は、作品をどんな風合いにしたいのかによって選択させた。屋外に置いてある彫刻のように仕上げたい時には、彫塑作品用の「さびカラー」(いぶし銀)を用いるように、つるりとした光沢を出したい時には、メッキスプレーを使用するように指導した。
 さびカラーを塗り、布で磨いたり、スプレーをしたりすることで、更に金属らしい光沢や重厚感が生まれた。

完成作品 ~子どもたちの作品カードから~

 自分の内面を抽象的な形で表すという難しいテーマに、子ども達は抵抗なく取り組むことができた。それは、最初に鑑賞を行ったことが大きかったように思う。抽象彫刻から感じることを互いに言葉で伝えあう活動を通して、子どもたちは抽象の面白さを感じ取り、それを自分の表現に生かすことができた。
 作品を展示すると、真剣でありながらも、あたたかな眼差しで互いの作品を見合っていた。自分の作品について語る子どもの顔は自信に満ちており、友達が「わかる!そんな感じがする!」と共感してくれたり「でも私は○○な感じがする」と別の感じ方を伝えてくれたりすると、ますます満足した様子だった。
 この実践を通して、子ども達は抽象表現という新たな表現方法を知り、自分の表現を見つけることができた。鑑賞活動と表現活動をつなぐ実践を今度も研究していきたい。

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作品名 「つながり」
作品にこめた思い
大きくても小さくても、どんな形もつながりあえる「心」をテーマにしました。
感想
一度ひびがはいると大変なので「心も一緒だな」と思いました。

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作品名 「そだっていく心と不安の花」
作品にこめた思い
下のブロックみたいなものは、人からの支えで「土」と同じ。根っこがからみついて木(心)をだいて守っているけど、ことばという刃はとうしてもふせげない。でも言葉は心を育てる水でもある。
感想
すごくたのしくて、げいじゅつがすごくわかったような気がする。

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作品名 「心の波」
作品にこめた思い
波の部分は心の色々な波を表しています。トゲトゲしたものは「驚き」涙のような形は「悲しみ」丸は「悩み」です。
感想
最初は思ったような形ができなくて大変だったけど最後には納得のいく作品ができてよかったです。

【監修者 北海道教育大学岩見沢校 准教授 阿部宏行】