小学校 図画工作
小学校 図画工作

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。
1.題材名
「南田辺小キッズゲルニカ 自分にとって平和とは~僕たち私たちの平和~」
2.目標
ア. 自分の持つ平和のイメージを話し合ったり、進んで絵に表そうとしたりする。
イ. 平和のイメージを絵に表し、友人のイメージと組み合わせて構想する。
ウ. 表したいことに合わせて材料や用具を自分で選び、組み合わせを考え、思いついたことを試しながら、表し方を工夫する。
エ. 感じたことや思ったことを話したり、友人と話し合ったりするなどして、表現のよさや特徴などが分かる。
3.準備
教師:キャンバス(約3.5m×7.8m)、白ケント紙、ポスターカラー、ローラー、刷毛、筆、ブルーシート、新聞紙
児童:絵筆、筆洗バケツ、パレット
4.評価規準
ア.造形への関心・意欲・態度 |
イ.発想や構想の能力 |
ウ.創造的な技能 |
エ.鑑賞の能力 |
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題 |
・自分の持つ平和のイメージを話し合ったり、進んで絵や文に表そうとしたりする。 |
・平和のイメージを絵に表し、友人のイメージと組み合わせて構想する。 |
・表したいことに合わせて材料や用具を自分で選び、組み合わせを考え、思いついたことを試しながら、表し方を工夫する。 |
・感じたことや思ったことを話したり、友人と話し合ったりするなどして、表現のよさや特徴などが分かる。 |
学 |
①自分なりの平和のイメージをかくことに意欲を持つ。 |
①平和のイメージを思いを持ってかくことができる。 |
①表したいことに合わせて材料や用具を自分で選び、組み合わせを考える。 |
①自分の感じたことや思ったことを話したり、友人と話し合ったりするなどして、表し方の変化、表現の意図や特徴などをとらえる。 |
5.本題材の指導にあたって
①児童観
本学級の子ども達は、学年で「世界の中の日本」というテーマで総合学習に取り組んでいることもあり、世界の国々、人々に対する興味・関心が高い。世界の国々の様子を調べたり、週に一回の英語活動をしたりすることに意欲的に取り組んでいる。
また、1年を通じていろいろな教科にわたって平和学習に取り組んでいる。国語科では「平和のとりでを築く」という単元で広島の原爆ドームが世界遺産になるまでを学習したり、「自分の考えを発信しよう」という単元で、「平和」を主題とした意見文を書く学習をしたりしている。総合学習では、世界で現在も起こっている紛争や難民問題を本やインターネットで調べて話し合った。他にも、広島や長崎に原爆が投下される前に、同じ大きさの火薬爆弾「模擬原爆」が投下され、多数の死傷者が出た田辺地域の歴史について体験者から話を聞いたりもした。
しかし、子どもたちは、「戦争は二度と繰り返してはいけない。」「悲しい出来事だ。」という感想を持つものの、どこか他人事であり、現在も同じくらいの年齢の子ども達がその「悲しい出来事」に遭っていることまでは考えが及んでいなかった。
これまでの造形活動は、A表現(2)の題材が多い。「不思議なつぼ」の絵では、パスを使っていろいろな色でぬり広げをしながら、つぼの中から出てくる不思議なものを表現した。ぼかしや型塗りこみを使いながら、パスの表現を楽しむことができていた。「水墨画~雪舟に学ぼう~」では、初めて水墨画に挑戦し、いろいろな濃さの墨を用意し、竹を表現した。また、出来上がった作品の良さを認め合うカードを交換したり、話し合ったりと鑑賞活動を楽しんだ。「お誕生日カレンダー」では、自分の誕生月からイメージする絵を考えたり、月や日付、曜日の文字をレタリングしたりして構成にもこだわって仕上げることができていた。「葦ペンで秋を描く」では、初めて触る葦の感触を楽しみながら、線にこだわって思い思いの秋のモチーフをしっかりと見ながら仕上げることができた。
図画工作科の学習に興味・関心を持ち、楽しみにしている児童が多く、ほとんどの児童は楽しそうな表情で表現活動に取り組んでいる。特に、新しい表現方法や、興味のある題材に対しては意欲的に取り組むことができる。しかし、どのように描けば良いか思いつかず、活動が止まってしまう児童もみられる。
②指導観
指導にあたって、第一次ではまず、ピカソの「ゲルニカ」を学年で鑑賞する活動から始める。一つの絵にじっくりと向き合うことは、ほとんどの児童が初めての経験であるので、十分に時間をとりたい。
初めは、作品名だけを伝え、絵を目の前にして感じた印象を意見交流する。次に、「ゲルニカ」が描かれた時期や時代背景を伝える。背景を知った上で再び絵と向き合うと、違った見方、感じ方ができると考える。絵に自分の気付きを書き込めるワークシートも用意しておき、自分の見方や感じ方の変化を感じられるようにしたい。また、話し合い活動を十分にとり、多様な意見を認めていくことで、互いの見方や感じ方を深められるようにしたい。
そして、次にピカソの「生きる喜び」の作品を提示する。「ゲルニカ」と比較し鑑賞することで、同じ画家の作品でも「平和」の表現が多様であることにも気付くことができるようにしたい。
このような鑑賞活動を通して、「キッズゲルニカプロジェクト」への参加を意欲的に考えていくことができるきっかけになるようにしたい。
子ども達にとっては、初めて行う共同制作である。133名一人一人が、主体的に取り組むことができるように計画していく。また、話し合い活動を通して自分にとっての「平和」とは何かについて自分なりの認識が深まるようにしたい。
次に第二次では、まず「平和」という言葉から考える自分のイメージを確認し、一人一人の考えが違うことに気付く活動を行う。「文章で書く」「ウェッブ図」「絵で表現する」の3種類のワークシートを用意し、自分の表しやすいものを選んで、「平和」というテーマを表現する。表現したものを班で持ち寄り、共通点や相違点を話し合う。
子ども達は、学級で話し合い活動を重ねていく中で、様々な意見があり、イメージをまとめるのは困難であることに気付くだろう。そこで、学級代表2名を募り、キッズゲルニカ実行委員会を立ち上げる。そうして、学級の意見を持ち寄り、学年の意見として一つにまとめ、共同作品にいかしていくことにする。実行委員会で決まったことや、話し合った内容は「南田辺小キッズゲルニカ通信」を発行し、制作状況を共通理解していくようにする。
各学級である程度イメージがまとまったら、それを持ち寄り、学年としてのテーマを決める。それをもとに、今度はテーマに沿ってイメージを再構築し、自分のかきたいものを絵にかいていく。そしてかきたいものが似ている人同士で学級を越えてチームをつくる。
種類によってはチームの人数にばらつきが出ることが予想されるが、自分のかきたいものを表現することを大切にしたい。チームが決定したら、今度はその中でチームリーダーを決め、形や色などをどう表現していくかを話し合い、プランニングシートにかいていく。一人一人のかきたいものをどうしたら組み合わせることができるのか、リーダーを中心に相談しながら意見をまとめていけるようにしたい。
チームの意見がまとまったら、各チームリーダーと実行委員会メンバーで集まり、キャンバスのどの位置に何をかくか、構成を話し合う時間を設定する。全体のバランスを考えながら、学年の一つの絵としてまとまることができるように助言していきたい。
構成が決定したら、グループで集まり、担当を決定する。プランニングシートに詳しくかくことで、チームの意見を共通理解できるようにしたい。そして必ず一人一人が責任を持って取り組むことができるように、プランニングシートを元に自分の担当のモチーフをどのようにかくのかを考えておくようにワークシートも用意しておく。
かく内容、場所が決定したチームから、キャンバスに下絵をかいていく。離れて見たときに見えない大きさではないか、常に全体を確認しながらかいていけるように助言したい。
着色にあたっては、ローラーや刷毛を使用し、大きいキャンバスにかくのが初めての経験であるのでスムーズにいくように、彩色の方法をまとめたものを掲示し、授業の最初に必ず確認するようにしたい。
また、チームでプランニングシートを最初に確認する時間を設けて、その時間の活動に見通しを持って取り組めるようにしたい。他にも、大きなキャンバスに戸惑い、活動が止まってしまいがちな子どもに対しては、試し紙を用意し、作った色を試すことができるようにしたり、個別に声をかけていくようにしたりしていきたい。
制作の途中でも、絵を見る視点を変えて、全体を捉えることができるように、ギャラリーから絵を鑑賞することを認めるなど、場の設定も工夫していきたい。授業の中でも、何人かの児童の工夫している表現を紹介したり認めたりする鑑賞の時間を設定する。こうすることによって、友だちの作品のよさに気付くことができ、新たな発想の手がかりになると考える。
授業の終わりには、色、形、構成の美しさを意識して鑑賞できるようにしたい。さらに、チームで集まり進行状況を確認して、次の目標を設定する時間も大切にしたい。こうすることで、一人一人の思いが少しでも作品に活かすことができると考える。
③題材観
本題材は、パブロ・ピカソの「ゲルニカ」(1937年)と同じ大きさのキャンバス(約3.5m×7.8m)に、平和の絵画を描くというものである。第二次世界大戦から50年たった1995年にアートジャパン・ネットワークによって「キッズゲルニカ 国際子ども平和壁画プロジェクト」として始められ、世界各地で100以上の作品が完成している。
現在も紛争により、同世代の子どもたちが悲しい思いをしている。しかしその現実にまで、考えが及ばない子ども達にとって、本題材は現状を知るきっかけになると考える。
プロジェクトに参加している国の中には、目の当たりにした戦争の様子を描いた子どもたちもいる。それらの作品を鑑賞することによって、絵の持つメッセージ性についても考えることができるだろう。
さらに、1年間を通して「平和」について考えてきたことの総まとめとして、自分たちの思いを表現することに適した題材だと言える。漠然と持っていた「平和」のイメージが、話し合い活動を繰り返す中で、自分にとっての「平和」とは何か、自分自身を見つめ直すことへとつながっていく。そして、イメージを絵にあらわすことによって、それはより具体的になり、自分の「平和」に対する考え方をしっかりと持つことができるだろう。
キッズゲルニカは共同制作である。友人と共に一つのテーマで語り合い、共同して表現する活動を通して、様々な発想やアイデア、表し方などのあることに気付き、自分の表現や鑑賞に生かすことができると考える。一人一人の想いを大切にしながら、様々な意見を一つの作品にまとめていくことの難しさも感じながら、協力して大きな絵を完成させる喜びも感じることができるだろう。