小学校 図画工作

小学校 図画工作

「物語の世界」 ~エルマーのぼうけん~(第4学年)
2013.07.22
小学校 図画工作 <No.025>
「物語の世界」 ~エルマーのぼうけん~(第4学年)
群馬県前橋市立芳賀小学校 福島裕美

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.題材名

「物語の世界」 ~エルマーのぼうけん~

2.目 標 

 「エルマーのぼうけん」の物語を読んで、心に残った場面の様子や気持ちを想像し、自分の主題に合った表し方を考えて絵に表すことができるようにする。

3.準備(材料・用具)

教師:参考作品・技法の材料と用具・フラッシュカード・色スケッチ用マーメイド紙・アイデアカード・付箋・動物や植物、景色の写真・マーメイド紙
児童:筆記用具・絵の具・スケッチペン

4.評価規準

造形への関心・意欲・態度
○物語の心に残った場面の様子や気持ちを想像し、主題を決め、絵に表すことを楽しむ。

発想や構想の能力
○物語の心に残った場面の様子や気持ちを想像し、動きや表情、場面に合った配色やぬり方を考える。

創造的な技能
○主題に合った表し方になるように、画面の中で構成するものの大きさや配置、絵の具の重色や筆のタッチなどを工夫して表す。

鑑賞の能力
○作品を友だちと見せ合って話し合い、共通点や相違点、表現の工夫などに気付く。

5.本題材の指導にあたって

 本題材で取り上げる物語、『エルマーのぼうけん』は、9歳の少年エルマーがどうぶつ島で野蛮な動物たちにとらわれているりゅうを助け出しに行く旅の物語である。分かりやすい記述や場面ごとの登場人物が限られているため、児童にとって視覚的に情景や人の動きをイメージしやすい。よって、どの児童にとっても描きたい場面を決めやすく、意欲的に取り組める題材であると考える。
 また本題材では、着彩に水彩絵の具を取り上げる。これまで学習してきた重色や技法を生かし、児童が主題に合わせて表し方を選んで工夫することで、児童一人一人が持つイメージにより近づく表現ができると考える。
 指導に当たっては、児童が自分の表したい表現方法を見つけ、自分らしい表現を追求しながら発想や構想する力を高めていけるよう、以下の3つの手立てを中心に指導を行っていく。

手立て①
人物の動きや表情、色の使い方やぬり方、それらが与えるイメージについて、児童の参考となるような資料を提示する。【図1参照】

 表現の幅が狭かったり児童同士の表現が偏ってしまったりするのは、参考作品の例示パターンが少ないためという場合もある。あえて資料を多く用意し、提示された資料から場面の様子や自分の思いを表すために児童が必要なものを取捨選択できるようにすることで、一人一人の感じ方の違いが多様なイメージとして表れ、表現の幅がひろがるものと考える。

【図1】

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動物カード

色の使い方やぬり方

色の使い方やぬり方

人物の動きや表情

人物の動きや表情

※その他「色が与えるイメージ」「構図が与えるイメージ」の参考作品 等

手立て②
場面の様子や自分の思いを形や色で表すアイデアスケッチや色スケッチ(試し活動)の場を設ける。
 アイデアスケッチのときは、「動き・表情・大きさ・位置」、色スケッチのときには「使う色またその組み合わせ・筆のタッチや技法」と、観点を明確にして取り組ませることで、児童一人ひとりが表したい自分の思いを意識しながら試行錯誤し、最も自分が表したい表現や自分らしい表現を見つけていけると考える。

手立て③
製作途中の作品を見合い、意見交換する相互鑑賞の時間を取り入れる。
 自分の表現を友だちと共有する時間を設けることは、表現の先に観る人がいることを自覚し、児童がより効果的な表し方を考えるきっかけになるであろうと考える。児童は自分の表したい感じや思いが友だちにどのように伝わるのかを確認し、自分の表現を見直したり、他の表現方法に気付いたり、さらに膨らませたりすることができるだろう。また、良いところを認め合うことで、自分の表現に自信を持てると考える。

 「これでいいですか」と教師に問うのではなく、「こうしたい」と言える児童を一人でも多く増やしたいと願っている。児童が選ぶ形や色には、根拠や意図があってほしい。その根拠や意図は、自分が表したい感じや自分の思いに基づくものであってほしい。自己決定を繰り返し、納得して次の活動へ進むことが自分らしい表現の追求となり、表現する喜びにつながっていくものと考える。

6.題材の指導計画




学習活動の流れ

指導上の留意点
(評価項目、評価方法)



○物語を読んで、心に残った場面を絵に表すことを知り、学習の見通しを持つ。

○絵に表したい場面を選び、選んだ理由と描きたい場面の様子をアイデアカードに記入する。【図2参照】

○題材との出会いの読み聞かせの際は、各場面ごとに簡単な感想を書き、あとで場面を想起しやすいようにする。
○自分が描きたい場面が決まったら、その場面で一番表したいことを文章に表したり、「どの場面で」「何が」「どこで」「いつ」「何をしているのか」を書いたり、児童自身が主題をはっきり意識できるようにする。

・絵に表したい場面を選び、アイデアカードに想像したことや自分の思いを書き出している。
【関】(アイデアカード・観察)





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鑑賞活動
●場面の様子や登場人物の気持ちを想像して、鉛筆でアイデアスケッチをする。【図2参照】

観点
・動き
・表情
・大きさ
・位置

●“チャンス!タイム”でアイデアスケッチを見合い、友だちと意見交換をする。
・全体で交流後、グループで交流する。
・表現意図を説明する。
・質問やアドバイス、表現の良いところを話す。
・困っていることや教えて欲しいことなどを相談する。
・自分が納得したアドバイスはアイデアスケッチに朱書きする。

○挿絵を抜いた文章を増し刷りし、アイデアスケッチの際、いつでも物語を読み返すことで、印象に残った叙述や言葉などに着目できるようにする。
○アイデアスケッチでは、どこから見ているのかを意識し、中心となるもの の表情・動き・大きさ・位置に着目して描けるように助言する。
○“お助けコーナー”を設け、図鑑や図案集、写真、植物などを用意し、形の描き方に困っている児童が自力解決できるようにする。
○学び合いの時間は、“チャンス!タイム”という名称で児童に伝え、関心を持って取り組めるようにする。
○描いたアイデアスケッチは教室掲示しておき、児童がお互いに見合い、困 っていることやアドバイスを書いた付 箋紙を貼って自由な鑑賞の場が生まれるようにする。

【図2】

児童A

児童A

児童B

児童B

児童C

児童C

児童D

児童D

○アイデアスケッチをもとに、中心となるものや周りのものを、大きさや配置に注意しながら、下絵を描く。

○絵本の挿絵や参考作品を見ながら、背景のテーマを考える。
○画用紙全体に主張色(空気の色)を塗る。【図3参照】

場面の様子や登場人物の気持ちが表れるような動きや表情を考えている。
【発】(観察・作品)

主題に合った表し方になるように、画面の中で構成するものの大きさや配置を工夫している。
【創】(観察・作品)

【図3】

児童A

児童A

児童B

児童B

児童C

児童C

児童D

児童D

本時


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鑑賞活動
●試し活動(色スケッチ)をする。【図4参照】

観点
・色(組み合わせ)
・ぬり方

●“チャンス!タイム”で背景のテーマと色スケッチについて、友だちと意見交換をする。【図5参照】
・全体で交流後、グループで交流する。
・表現意図を説明する。
・質問やアドバイス、表現の良いところを話す。
・困っていることや教えて欲しいことなどを相談する。
・自分が納得したアドバイスは、色スケッチにメモする。

○背景のテーマを決め、色の組み合わ せやぬり方を工夫させることにより、場面の様子や登場人物の気持ちがより効果的に表せるようにする。

○必要に応じて、たんぽやスパッタリングなどの技法も活用できるよう、用具を用意しておく。

場面の様子や登場人物の気持ちが表れるような色の組み合わせやぬり方を考え、試し活動を行いながら自分が最も表したい表現方法を見つけている。
【発】(観察・作品)

【図4】

児童A

児童A

児童B

児童B

児童C

児童C

児童D

児童D

【図5】

児童A

児童A

児童B

児童B

児童C

児童C

児童D

児童D

○色スケッチをもとに、背景色を塗る。【図6参照】

【図6】

児童A

児童A

児童D

児童D

○中心となるものと背景の色の組み合わせ に気を付けながら、着彩する。【図7参照】

主題に合った表し方になるように、技法を選び、絵の具の重色や筆のタッチなどを工夫している。
【創】(観察・作品)

【図7】

児童A

児童A

児童B

児童B

児童C

児童C

児童D

児童D




1

鑑賞活動
●自分や友だちの作品を見て、感じたことを書く。

観点
・伝わってくる感じ
・工夫しているところ

●自分や友だちの表現意図を伝え合う。

自分の作品の表現の意図や表し方の工夫を説明するとともに、お互いの表現 のよいところや伝わってくる感じを味わっている。
【鑑】(作品カード・観察)

○児童の作品をプリントし、絵本の表紙として楽しむ時間を設ける。【図8参照】

【図8】

z025_029

○表紙にした自分や友だちの絵を見合う。

7.本時の学習

①目 標
 場面の様子や登場人物の気持ちが表れるような色の組み合わせやぬり方を見つけることができる。

②学習展開


主な学習活動・内容

指導の工夫や教師の支援
★評価項目(評価方法)


1.本時のめあてを確認し、本時で行う活動を知る。

○本時の活動を確認する。

場面の様子や登場人物の気持ちが表れるような色の組み合わせやぬり方を見つけよう。

・いろいろ試したけれど、どれを背景にしようかな。
・○○な感じを表してみたけれど、友だちに伝わるかな。

○前時で使った参考作品などは、本時でも児童が確認できるよう掲示しておく。
・「よし、これで行こう!」と思える表し方を見つけるよ。

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2.“チャンス!タイム”で背景のテーマと色スケッチについて、友だちと意見交換をする。

付箋紙の活用

付箋紙の活用

○全体で交流後、グループで交流する。
○自分が納得したアドバイスは、色スケッチにメモする。
・ライオンの怒ってる感じを出したよ。
・にごった水を表しました。
・赤とオレンジを使っていて、明るい感じが出ているね。
・波の表し方がうまくいかなくて困っています。

○いろいろな表現に触れられるよう、グループでの話し合いの前に、教室を自由に移動して色スケッチを 見合う時間を設ける。
・背景のテーマを、友だちはどんな色やぬり方で表しているかな。
・自分のテーマに近い表し方をしている友だちはいるかな。

観点
・色(組み合わせ)
・ぬり方

○話し合いをスムーズに進められるよう、形態は1グループ4人とする。
○話し合いが停滞している場合は、担任がコーディネーター役となり、観点に着目して話ができるよう支援する。
・友だちの表したい感じが、伝わってくるかな。
・もっと表したい感じが出るように、アドバイスすることはあるかな。
・参考になったところはどこかな。

C1:どんなことを言ったらいいかわからないな。

C1:この色スケッチの中で「いいな」と思うところはあるかな。

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3.どこが参考になったか、自分の作品に生かしたいことを考えて製作の続きをする。
・○○さんの色を出したいけど、わか らないから教えてもらおう。
・筆のタッチを変えてぬってみようかな。

○どこが参考になったかを明確にし、自分の作品に生かすよう伝える。
○表し方が見つかった児童は、下絵の背景をぬってもよいことを伝える。
○作業中でも、気になる表し方があったら教わったり参考作品を見に行ったりしてもよいことを伝える。
○新たに色を試したい児童のために、色スケッチ用の紙を用意しておく。
○中心になるものよりも薄い色でぬっていくよう伝える。
○絵の具の水加減や混色の指導が必要な児童には助言する。

C1:どんな色を使ったらいいのかな。

色スケッチをもとにした背景の着彩(1)

色スケッチをもとにした背景の着彩(1)

色スケッチをもとにした背景の着彩(2)

色スケッチをもとにした背景の着彩(2)

C1:どんな感じにしたいのかな。参考作品を一緒に見てみよう。自分のイメージに近い塗り方は、どれかな。

★場面の様子や登場人物の気持ちが表れるような色の組み合わせやぬり方を考え、自分が最も表したい表現方法を見つける。
【発】(作品・行動観察)


4.本時の活動を振り返る。

○数名を指名し、本時の活動の感想を話すよう促す。
○どんな活動をしたのか児童の色スケッチを紹介しながら感想を聞くようにする。