小学校 算数

小学校 算数

×1を扱うことを通じて、『一般化の考え方』を養う(第2学年)
2012.10.09
小学校 算数 <No.002>
×1を扱うことを通じて、『一般化の考え方』を養う(第2学年)
東京都 小学校教諭

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

「かけ算(1)」

2.本時の位置づけ

4/5時間目

3.本時のねらい

 2の段(もしくは5の段)で九九の指導が始まるが、そこで最初に学ぶのが「2×1」である。それまで同数累加の場面の簡潔な表現として乗法を用いていたのに、加法で表せないものを乗法として扱うものを最初に出している。今まで同数累加の場面をかけ算と認識してきた子どもにとって、「×1」というのは、特殊なかけ算ではないであろうか。もし、九九の指導の前に「×1」の扱いを学習しなければ、2×1の場面で指導することになるが、2の段の学習の中で簡潔に指導するよりも、時間を取って考えさせたい内容だと考えた。なぜなら、「今までとは異なる場面も、かけ算に含むことができるのか」ということを考えることは、「ある概念の意味を広げ、いつでも使えるものにしていこうとする考え方」、すなわち「一般化の考え方」を育てるために、価値のある活動だと考えたからである。本時のねらいは、(1つ分の数)×(いくつ分)=(全部の数)という、かけ算の意味に基づいて、×1の時もかけ算として見ることができることを考えることである。

4.本時の評価規準

「数学的な考え方」
乗法の式から図を書き、式と図が合っている理由を説明することができる。

5.単元の指導内容

学習内容

おかしや果物がお皿に乗っている場面から、1皿分の数が違う場合と同じ場合の違いを考える。

「1つ分の数」と「いくつ分」の数で全体の数を表し、(1つ分の数)×(いくつ分)=(全部の数)というかけ算の意味を知る。

乗法の図から、式を考える活動を通して、乗法の意味の理解を確実にする。


(本時)

乗法の式から、図を考える活動を通して、乗法の意味の理解を確実にするとともに、乗法の式が場面を簡潔・明瞭に表せることを実感する。

身の回りから、乗法で全体の個数を表せる場面を見い出し、乗法に表すことで、場面が簡潔に表現できることのよさを実感する。

6.実践紹介

(1)かけ算カルタのルールを確認する。

san002_01 左記の写真の様な図を黒板に貼り、「今日はかけ算カルタをやるよ」と言うと、子どもは大盛り上がり。何も言っていないのに、「ルール分かった!」と手を挙げる子どもが多数いた。
 手を挙げた子どもに、どんなルールを考えたのか聞くと、「これはかけ算で表せる図だから、かけ算の式を出して、それに合った図を選ぶと思う」と説明してくれた。この説明は、こちらで考えたルールそのものだったが、他の子どもも同じように考えていたこともあり、そのルールでゲームを行うことを確認した。

(2)2×3の図はどれかな?

 ルールを確認した後は、試しのゲームを1度やってみた。ここで確実に押さえておかなければならないことは、「かけ算の意味」である。(1つ分の数)と(いくつ分)が分かるとかけ算の式になるということを全員が理解していないと、かけ算カルタに参加できない。また、授業後半で「×1の意味を考える」という際、「かけ算の意味」に戻って説明したり、「×1もかけ算とみることができる」ということを理解したりすることができなくなってしまうからである。

 封筒の中に、色々なかけ算の式が入っているので、この中から取り出したかけ算の式に合う図を選ぶように伝えた。
 まず「2×3」を封筒から取り出した。取り出した瞬間、ほとんどの子どもの手が挙がり、「答えたい!」という気持ちが一気に高まった。
san002_02 一人を指名すると、「2×3」の図を選んだ。手にした瞬間、「僕も同じ」「私も同じ」という声に包まれた。同時に、「理由が言える!」という声も数多く聞こえた。クラスを担任していて、こういう声が聞こえると、子どもの成長を感じると共に、指導の積み重ねを感じる。
 「では、なぜ2×3がこの図になるのかを説明してもらいましょう」と声をかけ、一人の子どもに前に出て、説明させた。ところが、なかなか「かけ算の意味」を使って説明することができなかった。「2+2+2=6だから」「3+3=6だから」など、式と図を結びつける理由を考えるという意味が分かっていなかったり、(1つ分の数)(いくつ分)という言葉を使っていても、その言葉の意味を理解していなかったりする子どもが大勢いた。そこで、「2×3の(1つ分の数)と(いくつ分)はどちらの数かな?」と問いかけ、「かけ算の意味」を再確認させた。
 これらの反応は、まだまだかけ算を使い慣れていない子どもにとって当然である。この時点で子どもの理解度を確認し、全員に「かけ算の意味」を再確認させたことで、最後の「4×1の意味を考える」という活動で自力解決が可能となったと考えられる。よって、ここで「かけ算の意味」を押さえ直したことは有効だったと考えている。

(3)「かけ算カルタ」を行い、かけ算の式から図を考える。

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 2回目からは、封筒からかけ算の式を選ぶのも子どもにさせた。その方が、先生が出した問題を解いているという意識がなくなり、自分たちで選んだ問題を解いているという意識に変化し、その結果、取り組む意欲も高まるからである。
 封筒の中に準備していた残りのかけ算の式は、「5×2」と「3×4」である。子どもが最初に引いたのは「5×2」だった。式のカードを引いた瞬間、大勢の子どもの手があがった。子どもに選ばせると、正確に「5×2」の図を選んだ。そこで、「2×5」の図を提示し、「これも似ているけど、こっちではないの?」と揺さぶりをかけた。「ちがうちがう」の大合唱が起きた。「どうして?」と聞くと、「だって、右は、(1つ分の数)が2で、(いくつ分)が5だから2×5になっちゃうよ」と答えてくれた。わざと(1つ分の数)と(いくつ分)が逆になっている図を見比べることで、「かけ算の意味」の理解がより深まったのである。
 あと1枚の「3×4」も子どもに引かせた。流れとしては、「5×2」の時と同様に行った。

(4)4×1の図を考えよう!

 おもむろに、「ごめん、もう1枚カードを入れるの忘れていたよ」と言って、わざと机の上に置いておいたカードを手に取った。そして、「これも分かるかな?」と言ってカードを見せた。子どもは答えたくてたまらないといった感じで、式と図を確認する前から手を挙げていた。しかし、式を見せた途端「あれ?」と手がどんどん下がっていった。見せた式は「4×1」である。実は、その式にあった図が貼っていないのである。次々に「答えがないよ!」と子どもから声があがった。と同時に、「なければ作ればいい!」と返ってきた。
 ノートに自分が考える「4×1」を書かせた。こちらが何も言わなくても、「なぜ4×1と言えるのか」という理由を書いた子どもが数多くいた。もちろん「かけ算の意味」に当てはめて表現できていた。

(5)「×1の意味」を考える。

san002_05 「4×1」に合う図をいくつか答えてもらい、実際に書かせた。書いた図が「4×1」になっている理由も確実に説明できていた。
 そこで、「×1をして何か変わったのか」と問いかけると、「何も変わらない」「かけても意味がない」などの答えが返ってきた。これらの言葉は、子どもなりの「×1の意味」である。また、「何も変わらない」「かけても意味がない」という言葉の意味を「いくつ分が1なんだから、4が1つしかないということだから、変わらない」と説明してくれた。子どもが、かけ算が同数累加ということだけでなく、場面を表すこともできるということを理解し始めた瞬間であった。

(6)「10×1の図」を考える。

 4×1の後、10×1の図も考えさせたが、27名中23名の子どもが図と説明の両方が書けていた。「1つ分の数が10で、いくつ分が1だから、10が1つの図になる」というのが、子どもの説明である。これだけの子どもが「かけ算の意味」を理解し、「×1の意味」を理解できたのは、授業前半で「かけ算の意味」を時間をかけて扱ったからだと考えられる。