小学校 算数

小学校 算数

重なる形と図形の角を調べよう(第5学年)
2012.10.15
小学校 算数 <No.004>
重なる形と図形の角を調べよう(第5学年)
滋賀県 小学校教諭

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

重なる形と図形の角を調べよう

2.本時の位置づけ

本時12/15

3.本時のねらい

 本時は,三角形や四角形の角の和を生かして,計算を使って多角形の角の和を求めることが主な学習である。特に,この多角形の角の和は,計算で鮮やかに答えが出るので,子どもたちはそのことに感動することが多い。私も自分が小学生の時,この学習では計算で答えが出ることがわかり,とても嬉しかったことをよく覚えている。
 図のように三角形や四角形で分けると,多角形の角の和を簡単に求めることができる。そして,多角形の角の和は辺の数が一つ増えるに従って,180°ずつ増えていく。

san004_01

 ここでつまずきやすい子どもは,図形を分割する対角線の引き方が分からないことが多い。何本引けばよいのか,どのように引けばよいかが分からない。一つの頂点から引いて,また,別の頂点からも対角線を引いてしまう。結局,下図のようになってしまうのである。そのため,授業中に「どこがよくないのか」検討する時間を設けたい。
 また教科書の進行であれば,五角形をすっきり分けて,その後,六角形,七角形と学習を広げていくという計画になっている。
san004_02 しかし,ここでさらにすっきりさを求めて,別の課題を組み合わせて入れることにした。それは,求めた五角形の角の和を利用して,正多角形の一つの角を求めさせるのである。
  子どもたちにとって正三角形の一つの角が60°になる理由は,これまでは偶然の測定の結果でしかなかった。しかし,三角形の角の和が180°であることが確定すれば,180÷3でその60°という角の大きさに理由付けがなされる。そのため,子どもはなるほどという思いを持ちやすい。この正三角形のすっきりさを生かして,正五角形の角の大きさを測定することなく計算で求めさせて,子どもたちがどれだけすっきり感を感じるのか試してみることにした。

※5年上教科書P17

※5年上教科書P17

※5年下教科書P100

※5年下教科書P100

4.本時の評価基準

正五角形の一つの角の大きさを角の和を等分して求めることができる。(数学的な考え方)
五角形の角の和の求め方を理解することができる。(知識・理解)。

5.単元の指導内容

学習活動及び内容

ぴったり重なる形を見つける。(合同の意味)

三角形の対応する頂点,対応する辺,対応する角を調べる。

対応する辺の長さや角の大きさを調べ,考える。

四角形を対角線で分けた三角形の合同を調べる。

合同な三角形をかく。①

合同な三角形をかく。②

三角形のかきかたを利用して,合同な四角形をかく。

三角形のかきかたを利用して,合同な四角形をかく。

三角形の3つの角の和を考え,調べる。

10

三角形の角の和が180°であることを利用して問題を解く。

11

四角形の内角の和を考える。

12

多角形の内角の和を調べる。

13

タングラムで様々な合同な形をつくる。

14

練習問題で復習する。

15

練習問題に挑戦する。

6.実践紹介

①課題把握

 あいさつがすむと,少し教室はざわついている。授業をビデオで記録すると告げたから少し動揺したのであった。それでも,プリントを配布すると子どもたちは自然と集中していった。
 教室が学習する雰囲気になったとき,私は先に新しい「多角形」という言葉を板書して教えた。

※教科書をコピーしたプリント

※教科書をコピーしたプリント

T 多角形とは,三角形,四角形,五角形のように,直線だけでかこまれた図形のことをいいます。
T みんな覚えてね。
C 多角形。
T 直線だけで囲まれた図形,曲がった線はあかんで。

 子どもたちの多くは,自分のノートにメモした。
 続いて,本時の課題へと移る。

T それでは問題です。今日は五角形の角の和を求めます。五角形の角の和ってわかるかな?
C (何人かがうなずく)
T 今日は,分度器で測るのではありません。計算で求めます。それができても終わらないで,別の方法で考えてみましょう。3つのやり方を見つけることができたら,とても素晴らしい。
T 何か分からないという人いますか?
C1 一つできた。
C2 できた。
T もうできたの,すごいね。みんなにわかるように説明できるようにしておくといいよ。

②自力解決

san004_06 子どもたちが,プリントに向かうと,すぐに「できたー」という声が上がった。四角形の角の和を求める時に同じような学習をしているから考えやすかったようだ。しかし,子どもたちの作業を見て回ると,とんでもない線の引き方をして答えを出している子も見受けられた。自分で間違いを発見できる子になって欲しいので,「それで本当にいいか見直してみよう」と,間違いであるとは伝えない。また,何も手がつけられない子もいるが,その子ができることを信じて,何も声はかけなかった。
 このクラスでは,まだまだ自分の力で何とかしようという態度が出来上がっていない。そのため,少しできると「先生,これでいい」と聞いてくる子どもが何人もいる。自信がないのである。子どもたちにできた,わかったという実感を伴った学習を経験させる必要がある。そして,自分でこれでいいと判断できるようにしたい。

※黒板にかく

※黒板にかく

 多くの子どもが何らかの答えを書いたのを見届け,黒板を使った発表に移った。私は,直接,黒板に書かせることが多いが,プロジェクターや卓上カメラを使用してノートやプリントを写す方法もある。

③集団検討

 5人の子どもを指名して,黒板に書かせた。机間指導の間に,発表者を決めておく方法もあるが,このクラスは人数が36人と多く,集団で学習できる雰囲気作りを育てているところなので,発表したい子どもを指名した。

san004_08C3 三角形は180°で四角形は360°です。三角形の180°と四角形の360°を合わせると540°です。(右図)
T なるほど,一本の対角線で分けるのか。今のKさんと同じように考えた人いますか。(20人ぐらいが挙手をした。)
C4  こことここに線を引くと,三角形が3つできます。それで,180×3で540°になります。
san004_09T なるほど,三角形に分けたんだね。これと同じように考えた人?(15人が手を挙げる。)二人の発表してくれた人に質問やつけたしはありますか?

 二人の発表に反応が乏しかったので,授業中に困っていた人の例を教師が演じることにした。

san004_10T 先生から質問。今,Nさんは,2本の対角線で分けましたね。でも,もっと対角線はひける。ここに2本引いてみよう。(右図点線)あれー,わけがわからなくなったよ。何がよくなかったのかなー。誰か教えてよ。

 本当は子どもに自分で質問して欲しい。しかし,間違いや失敗の例はなかなか出せないものである。ここでそういう声を伝えておかないと,できない子や分からない子が授業で置き去りにされてしまうかもしれない。そのため教師が代弁したのである。

C5  それは線の引きすぎです。分けられているのに,それ以上,線をかかなくてもいい。
C6 線が交わっているのがいけないのとちがう。                                  
T たくさん引きすぎたらかえって難しくなるんだね。
T ところで,別の方法を見つけた人はいますか?
san004_11C7  (黒板に出てきて右図のようにかいた。)
T ちょっとSさんストップ。みんなSさんの考えていることわかるかな?ノートに式や考えを書いてごらん。
C8 三角形が5つなので180×5-360です。それで540°になる。
T 聞こえにくかったのでもう1回言ってよ。  
C9 180×5から360をとる。
C10 どうして360をとるんですか?
T 今,Hさんから質問が出て,どうして360をとるんですか,というのがあったね。
C11 真ん中のところは五角形の角とは関係ないから360とります。
T でも,360というのはどこから出てきたの。
C12 真ん中のところは1回転しているから360°とります。1回転が360°です。
C13  ぐるっとまわると360°です。それが五角形の角とは違うので,引きます。
T 上手に説明してくれましたね。この方法でも求められるけど,最初の二つが簡単ですね。結局,答えは540°です。では,次の問題に移るよ。

④発展問題に取り組む

 五角形の角の和が540°と求まっても学習はこれで終わりではない。新しい問いで連続的に追究させていきたい。この問いは子どもたちが自ら発見できれば素晴らしいが,そうならないときは教師が代わりに問いかけて,学習の仕方を教えていくとよい。ここでは,六角形や七角形の角の和を求めさせたり,正多角形の一つの角の大きさを求めることが考えられる。本時は,後者を選んだ。

T これまでの学習を生かして,正五角形の一つの角は何度か求められますか。よし挑戦してみよう。

 プリントには正三角形,正方形とならべて,ヒントを暗示しておいたので,自然と気がつく子どもが出てくると予想した。
 (しばらくたって)できた人は?

※540÷5で108°になる

※540÷5で108°になる

C14 540÷5=108 答え108°です。
C15 五角形の角の和が540°なので,5で割って108°です。
T でも,どうして5で割ることができるの。
C16 五角形には角が5つあって,一つの角の大きさを知りたいのだから,5で割ることができます。
C17  正五角形の角は全部同じ大きさだから,5で割ったらいい。
T 100,80,75……と角の大きさが違うってことないんですか?
C18 正五角形なので,全部同じ角度。
C19 正三角形は180÷3で60°になるのと同じで,正五角形も540÷5で108。
T うーん計算で出せるなんてすごいね。もう一度確認しますよ。正三角形は180÷3で60°なの,では正方形はどうなるの?
C20 360÷4で90°になる。
T なるほど,すごいすごい。それで,正五角形も同じように計算できるんだ。それなら正六角形はどうなるんだろうね。まず六角形の角の和は求められる。
C21 六角形は三角形4つに分けられるので720°になります。(黒板に図示して)6で割って120°です。
T あっという間に計算できたね。これは素晴らしい。

※感想を発表する

※感想を発表する

 子どもたちの努力と教材のよさに教師も感心して誉める。こうすることで,今日の学習の意味づけが確実になる。
 最後に,今度は子どもの口から感想を発表させ,大事なことを復唱させる。これは昔からよく使われる共感を生かした方法である。

C22 正五角形の角が簡単に計算で求められたのがおもしろかったです。
C23 正三角形や正方形,正五角形ではみんな角が同じ大きさだとわかりました。
C24 五角形や六角形を分けて,角の和が計算で求められたのがよかった。

 発表したのは三人だけであったが,その他にも子どもたちは次のような感想をプリントに書いていた。

・五角形の角の和も対角線をひけば,計算でできることがわかった。
・正がつく角は角度がすべて等しいことがわかった。
・九角形も調べてみたい。
・辺の数が多くなるにつれて角の大きさの和が180°ずつ多くなっていることがわかりました。
・多角形は三角や四角がわかっていればかんたんにわかることがわかった。
・五角形の角の和の求め方はいろいろとあることがわかった。
・角の和はすごく大きな数でも,計算で求められることがわかった。
・正三角形,正方形とかの角の角度は同じことがわかった。
・五角形の角を調べるときに,線を引きすぎるとできないことがわかりました。
・正五角形の一つの角の大きさを計算で求めれることがわかりました。

7.授業後の反省と考察

san004_14 子どもたちは,集中して授業に参加し,様々なことを発見することができたと思う。こちらの予想以上に子どもたちの感想の言葉は豊かであった。また,左図のようにかいていた子どもは,無駄な点線を消して,三角形と四角形に分けていた。教師が線をひきすぎてわからなくなっている人の例を出したことで,自分の線の引き方を吟味したのであろう。
 一方,反省点としては,①六角形まで授業で取り扱ったが,七角形や八角形はどうなるのか次の課題として意識させるともっとよかった。
 さらに,②子どもの口から,「もう一回説明して」や「そこがわからない」など学習を深めていく発言を引き出したかった。わかる子どももわからない子どももともに授業中に積極的に学ぶことが理想である。しかし,まだわからないことが言語化できていないのであろう。これは今後の課題である。そうして,子ども同士が対話して,できる限り教師の出番が減るようにしていきたい。
 ③子どもたちの感想の最後の言葉はほとんどが「わかった」や「わかりました」であった。感想の内容の豊かさに比べると,その表現が乏しいように思われる。おもしろかった,楽しかったをはじめとして多様な感想が出てくるように,感想を書かせる場面を多くして,その表現についても工夫させていきたい。
 なお,この授業の成果としていえることは,①五角形の角の和を利用して正五角形の一つの角を求めさせることが自然に行えたことである。②また,その活動を通して子どもがすっきり感を感じていることである。そういう意味では,教科書では上と下に分かれている内容であるが,併せて指導する単元構成には可能性があるといえる。
 最後に,③本時の展開では,「計算ですっきり答えが出る」教材のよさに教師自ら感心し,さらにまとめのところで子どもに実感した感想を語らせ,そのよさを何度も強調している。算数科の授業では,このように教材のよさをみんなで確認し合う場面は少ないように思うが,改めてこの繰り返しが大切であることを実感した。この実践記録を読んでいただいた先生方にも参考にして欲しいことである。
 今後も楽しくてわかりやすい算数科の授業を創造し続けたい。