小学校 算数
小学校 算数

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。
1.単元名
「図形の拡大と縮小」
2.本時の位置づけ(1/11)
学習指導要領における本単元のねらいは下記である。
C 図形 |
本単元では、縮図や拡大図について学習し、相似の理解の基礎となる経験を豊かにし、それらを目的に応じて適切にかいたり、読んだりできるようにすることをねらいとしている。
第5学年では、合同について学習し、「形も大きさも同じであるかどうか」という観点から図形を考察してきている。第6学年の縮図と拡大図では、大きさを問題にしないで、「形が同じであるかどうか」という観点から図形を考察していく。また、縮図や拡大図の関係にある図形については、対応している角の大きさは全て等しく、対応している辺の長さの比はどこも一定であるということも学習していく。
こうした新しい観点で図形を考察することによって、これまで学習してきた平面図形についての理解をより深め、図形に対する感覚を豊かにしていく。
本時は、本単元の第1時であるので、縮図・拡大図の意味を確実におさえる。
「形が同じ図形は、辺の長さの比が一定であることや、角の大きさが全て等しい」ということについては必ず本時でおさえなければならないというのではなく、第2時でも詳しく調べていく予定である。
3.本時のねらい
算数の学習は楽しいですか? ※算数アンケート 一部抜粋(対象者35名) |
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①とても楽しい(11人) ②楽しい(8人) |
③どちらでもない(9人) |
④苦手(5人) ⑤とても苦手(2人) |
(1)主体的に学習を探求する力を身につけさせる
「算数を学習することが楽しい」、「算数が好きだ」といえる子になってほしいというのが、私の大きな願いである。「算数が嫌い」な子が、「次はどうなるだろう?」と主体的に学習を探求していくはずがないからである。難しくて分からなかったとき、算数に対して苦手意識を持つ子が多い。このため、子どもたちが「できた。」、「分かった。」という実感をよりもてるようにし、算数の苦手意識をなくすことが主体的に探求する学習への第1歩目だと考える。そのために、デジタル・コンテンツを学習のまとめの段階で再度活用し、拡大と縮小の意味を確実におさえていく。
(2)根拠を明確にして、伝え合う力を身につけさせる
伝え合う力を身につけさせるためには、「自分の考えを話したい!」「友だちの考えを聴きたい!」という学習意欲が必要である。本時では、まず「考えたい、伝え合いたい!」という学習意欲を育めるように、「形は同じでも、大きさがちがう図形を全て見つけよう!」という課題で学習を進める。辺の長さをマス目を使って数えて比べたり、角度を比べたりするなど、多様な考えが生まれる課題である。練り上げの場面では、拡大図・縮図ではない図形に対しても「なぜ同じ形と言えないのか」ということについて説明させる。元の形の拡大図・縮図とは違う理由を説明することで、拡大図・縮図についての理解がより確かになっていくからである。
4.本時の評価規準
対応する辺の長さの比や、対応する角の大きさをもとに、拡大図、縮図を見つけることができる。【関心・意欲・態度】
縮図や拡大図についての意味について理解することができる。【知識・理解】
5.単元の指導内容
時 |
学習活動及び内容 |
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1 |
◇図形の拡大、縮小の関係 |
2 |
◇拡大図、縮図の意味と性質 |
3 |
◇方眼紙を使った拡大図、縮図のかき方 |
4 |
◇三角形の拡大図、縮図のかき方 |
5 |
◇四角形の拡大図、縮図のかき方 |
6 |
◇内部の点を中心にした拡大図、縮図のかき方 |
7 |
◇外部の点を中心にした拡大図、縮図のかき方 |
8 |
◇縮図を利用した測定の工夫 |
9 |
◇縮図を利用して校舎の高さを求める |
10 |
◇適用問題 |
11 |
◇グラウンドに大きな拡大図を描こう |
6.実践紹介
①課題をつかむ
学習意欲が高まるように、子どもの集合写真をデジタル・コンテンツで提示した。
T:「同じ写真だけれど何がちがうだろう?」
C:「右上の写真は、太い。」
C:「左下の写真は、体が細いし、長い。」
C:「左下の写真は、何か変。」
T:「大きさが違うけれど、形は同じように見えるのは?」
C:「左上と、右下。」
T:「実は、左上の写真と右下の写真は、形は同じだけれど、大きさが違う写真だよ。」
T:「身の回りの中に、形は同じだけれど、大きさは違うものはないかな?」
C:「宿題のプリントとか、ノートとかの紙がある。教室に掲示している、プリントだって全部形が一緒。」
「形は同じでも、大きさは違う」というイメージを持たせた上で、本時の課題に入った。
形が同じでも、大きさはちがう図形を全てみつけよう! |
T:「赤と緑の家と、形は同じでも、大きさは違う図形はないかな?」
②見通しを持つ |
まず、結果の見通しをたてた。
T:「まずは直観で。元の形と形は同じだけれど、大きさが違うのはどれだろう?」
C:「ウとカかな。」
C:「イは合同。」
T:「どうして?」
C:「対応する辺の長さが等しいし、対応する角の大きさも等しい。」「ぴったり、重なる。」
C:「アとエは明らかに違う。」
C:「アは、横に2倍になっている。」
C:「エは、下の形が長方形になっていて、形が違う。」
C:「ウとカは多分、形は同じでも、大きさは違う。」
C:「オはどっちかよく分からない。」
T:「どうやって、同じかどうか確かめたらいいだろう?」
C:「辺の長さを比べたらできそう。」
C:「形を比べるために、面積を考える。」
C:「形を変形して、同じになるか試してみる。」
③自力解決をする
T:「ウ、オ、カについて、どうして形が同じと言えるのか、同じと言えないのかを他の人に説明ができるように、考え方を書いてみよう!」
必要な子どもには、形が切り抜いてある図を渡し、図形を重ねて角度が同じであることを確認しやすいようにさせた。
④考えを発表し、練り上げる
ペアで自分の考えを発表させた後、全体で考えを発表した。
まず、「ウは、形が同じでも大きさはちがうのか」について考えた。
C:「元の形の屋根も形も、下の形も4つに等分して重ねたら、ウになるから形は同じ。」
C:「面積を調べたら、きっちり元の形の1/4倍になっている。」
C:「元の形も、ウも、屋根を変形させたら、正方形が全部で2つできるから同じ。」
C:「角度を比べてみたら、全部同じになった。だから、ウは形が同じでも大きさは違う。」
次に、「カは、形が同じでも大きさはちがうのか」について考えた。
C:「形が全く同じ。下が正方形になっていて、屋根が二等辺三角形になっている。」
C:「面積を調べてみたら、きっちり元の形の4倍になっている。」
C:「辺の長さが2倍になっているから、形が同じでも大きさは違う。」
面積で考えるという方法はいつでも使える有効な方法なのか子どもの中で質問が出てきた。
C:「質問! 面積で倍になっていたらいいっていうけど。エだって、面積がきっちり元の形の2倍になっている。」
C:「だって、エは形が既にちがう。」
C:「あ、そうか…。」
面積で比べるだけでは、形が同じでも大きさは違うということが調べられないというするどい質問であったが、意見が続かなくなってしまったことが悔やまれる。多様な方法で、調べられていたが、「わかりやすくて、かんたんで、いつでも使える方法か?」という検証までできていなかったことが反省である。
最後に、「オは、形が同じでも大きさは違うのか」、それとも「形も大きさも違うのか」について考えた。
C:「オは、屋根の形の角度が違うから、形が違う。重ねてみたら分かる。」
C:「面積が、16.5cm2になって、元の形と面積がきっちり倍にならないから形も大きさも違う。」
C:「下は正方形で形は、一緒だけれど、屋根の形が違う。」
C:「質問。屋根は二等辺三角形で、同じだよ。」
C:「もし、オが同じ形になるんだったら、屋根の下の長さがもう少し長くなる。」(辺の比の考え方を使って、図示して説明していた。)
C:「だから、答えはウとカだけだ。」
⑤学習をまとめる
拡大図、縮図の意味や用語を知らせた。
T:「今日、みんなが考えた新しいことだよ。」
ある図形を形を変えないで、大きくすることを拡大する、小さくすることを縮小するという。拡大した図を拡大図、縮小した図を縮図という。 |
デジタル・コンテンツを使い、拡大図・縮図の意味を再確認した。
最後に、さんま(算数まとめ)を書き、学習のまとめとした。
T:「『形は同じでも、大きさがちがう図形は 』の続きを自分の言葉で書こう。」
形は同じでも、大きさがちがう図形は対応する辺の長さの比を比べたり、角の大きさを比べたりすると、見つけられる。 |
《学習を終えて》
【本時の学習についての子どもたちのアンケート(一部抜粋)】
・辺の比を使って考える方法をきいて「あ~、なるほどな。」と思った。もし、五角形などでも今日の考えは使えるのかな? |
授業を終えた後の休み時間、子どもたちが5、6人黒板の前に集まって説明を始めだした。
C:「先生、あのね、面積で考える方法だけれど…。」
C:「カは確かに、面積が32cm2だからきっちり4倍だけれど、アだって、エだって面積が16cm2になっているから、きっちり2倍。」
C:「イだって、きっちり1倍。」
T:「ということは、どういうことなの?」
C:「面積で考える方法では、考えられる時と考えられないときがある!」
面積で図形の拡大・縮小を考える方法について、子どもたちは疑問を感じていたようであるが、授業の中で取り上げてあげることができていなかった。
確かに、子どもたちは「どうやって調べたらいいだろう? 考えたい!」「自分の考えを伝えたい!」と学習意欲を持って、多様な方法を考えノートに表現し、全体で伝え合っていくことはできた。
しかし、どの方法が有効で効果的なのか?ということまで高めることができなかった。やはり、「わかりやすくて、かんたんで、いつでも使える方法か?」という検証ができていなかったことが一番の反省である。
言語活動を充実させることで、思考力・判断力・表現力を育むことが大切であるといわれている。子どもが説明を分かりやすくすれば言語活動が充実されていて、思考力・判断力・表現力が育まれるというのではない。思考力・判断力・表現力が深まっていないと感じたならば、教師の出番であり、子どもの考えを関係付けて考えさせることが必要であるということを改めて実感した。
次時に、「面積で考える方法に対する質問」から学習をはじめ、「面積で考える方法だけでは、拡大図・縮図を見つけられないことがある。」ことをおさえた。