教育情報

教育情報

学校支援ネットワークへの着目
2013.07.05
教育情報 <日文の教育情報 No.127>
学校支援ネットワークへの着目
東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英

icon_pdf_small「日文の教育情報 No.127」PDFダウンロード(344KB)

■ 子どもの進路意識への働きかけ

 講演が終わって、会場を出たとたんのことです。ばらばらっと、5、6人の女性が走り寄ってこられました。何か問題になることを話したのか。思わず身構えました。ところが、その女性からの言葉はまったく予想外のものでした。「私たちも同じ考えを持っていました。」
 改めて、声の主に注意を向けました。推定年齢60歳前後の活気にあふれた方々でした。
 「子どもたちが社会人になってからのことが気にかかっていたのです。」「私たちの携わっている活動の意義が確認でき、勇気がわきました。」
 口々に話されることをつなぎ合わせると、この方たちが、最近の子どもたちの進路意識に不安を感じ、様々な形で学校の進路に関わる体験活動を支援されておられることが把握されました。

■ 学校支援ネットワークの取組

 これは、東京のA教育委員会主催、学校支援ネットワークフォーラムでのことです。A教育委員会では、「学校支援ネットワーク事業」を主要事業として位置づけ、地域・職場体験活動、校内での各種体験活動、出前授業などの支援を行っています。冒頭の私の講演というのは、その実践報告、情報交流の結びでのまとめの話でした。参加者は学校関係者、学校支援に関わる企業・団体の方々、学校教育に関心のある地域住民でした。
 私は、その直前に、中・高校生の進路決定に関わるという経験を持ったのですが、とにかく目の前の選考の苦しさから逃れたいという意識が強く、その先の生き方、社会との関わりの中での自己実現といった考えは希薄であるという印象を持ちました。
 私は講演の中で、最近の子どもたちにおける進路意識の希薄さ、生きることに結び付く体験の貧しさにふれました。子どもたちがそのような課題を抱えるだけに、本日のフォーラムの趣旨である体験活動は、子どもにとって大きな意味を持っていることを話しました。
 そして結びとして、学校への支援に関する様々な活動は、学校教育活動の活性化に結び付くだけでなく、地域を活性化させ、地域の人々の生きがいづくりにも役立つに違いない、といったことを話しました。
 冒頭の方たちの、「私たちの携わっている活動の意義が確認できた。」「勇気が出た。」は、話のこの部分を受けてのものだったと思われます。

■ 進路意識の成熟への働きかけ

 子どもの進路意識の成熟は、その子どもが大人の働く姿にふれ、それをどう受け止めどう行動に結び付けるかということに強く関わっています。大人社会とのふれあいによって大人とは何かを考え、生きることの方向付けに目覚めます。価値ある体験の中で、認識し、感じ、考える中で進路意識は次第に成熟していきます。
 通常の学校生活の中では、こうした体験の場の設定が難しい。それだけに、支援を生かす教育活動の工夫が大切になっています。自校の教育活動にそうした価値ある体験、学習が多様に準備されているかどうか、まずは全教育活動を見直すことが大切になっています。
 以前本情報(No.121)で引用した、平成23年7月公表「学校運営の改善の在り方等に関する調査研究協力者会議提言」の「子どもを中心に据えた学校と地域の連携」の項では、次のように述べられています。
 「子どもの『生きる力』は、多様な人々と関わり、様々な経験を重ねていく中でよりはぐくまれるものであり、学校のみではぐくめるものではない。加えて、近年の社会の変化に伴い、多様化・複雑化するニーズに学校の教職員や行政の力だけで対応していくことは困難となっており、学校が地域社会においてその役割を果たしていくためには、地域の人々(保護者・地域住民等)の支えが必要となっている。」
 また、平成25年4月に公表された中央教育審議会答申「第二期教育振興基本計画」においても、社会的・職業的自立に向けた能力・態度の育成にふれる部分があり、小中学校において、教育活動の展開に際して、その基礎となる能力・態度の育成を視野に入れることが重要であると考えます。
 子どもの生きる力の育成を目指す学校の活性化は、学校内部の力だけでは十分な効果を上げ得ません。学校は、学校外にある多様な教育機能に着目し、ともに教育を推進し家庭・地域社会の信頼に応える学校づくりを目指すことが求められています。

日文の教育情報ロゴ