教育情報

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よい教師をつくるには
2013.05.09
教育情報 <日文の教育情報 No.125>
よい教師をつくるには
大阪教育大学監事 野口 克海

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■ 教師は現場で育つ

 団塊の世代が現役を卒業し、学校現場には若い先生たちが増えた。都道府県によって差はあるが、東京・大阪などの大都市圏では20代の先生が過半数を占める小学校もめずらしくなくなってきた。
 この波はやがて中学校・高等学校へも波及し、全国に広がっていくことは時間の問題となっている。
 好むと好まざるとにかかわらず、これからの教育は若い先生たちに託さざるをえなくなっている。
 平成24年8月28日、中央教育審議会は「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」を答申し、教員養成を修士レベル化するとともに、教員を高度専門職業人と位置づけ、「教科や教職に関する高度な専門的知識や、新たな学びを展開できる実践的指導力を育成するためには、教科や教職についての基礎・基本を踏まえた理論と実践の往還による教員養成の高度化が必要である」とした。
 しかし、ここでいう「実践的指導力」とはどのような能力をいうのであろうか。
 教員養成大学や教職大学院のあり方も問われているところであるが、大学が実践的指導力をそなえた完成された教員を学校現場に送り込むことはできない。
 教師は現場で育つものだからである。
 逆に言えば、若い先生たちをしっかりと育てる力量をもった学校現場をつくることが求められている。

■ ある教育長の語り

 「うちの市では、毎年40~50人の新採の教員が入ってくるけれど、ここ3年間、一人もやめた先生がいません。それが自慢です。」
 「“近頃の若い教師は…”と不満や苦情を言う人も多いけれど、私らだって大学を出た頃は、いいかげんな教師だったですよ。今から思うと、恥ずかしいことがいっぱいありましたよね。それを先輩たちが鍛えてくれた。若い者同志で競争しながら頑張った。だから今日があるわけで、若い先生たちはいいですよ。学校が明るくなる。子どもたちが元気になりますからね。」
 私は彼に「教育長さんが自慢できるようになるのには、いろんな取り組みや工夫をしているからでしょ、どんなことをしているの?」と聞いてみた。
 「力を入れていることが三つあります。一つ目は、毎年3月のはじめに、府教委からうちの市に配当される教員が決まるでしょ、そしたら、すぐその子らを集めて、まだ、どこの学校に赴任するかは分からないけれど、うちの市の学校の様子や子どもたちの様子を見て、一緒に遊んだり、先生のお手伝いをして学校現場を肌で感じてくださいと言うんです。この頃の子は真面目だから、まず全員参加しますね。
 二つ目は、4月になったらグループを組んでもらって、若い者同志の勉強会を学校をこえて月一回やるように指導しています。これはもう10年以上続いてますけど、最初の子らが、もう市の指導主事になったりしてますよ。若い者同志のつながりや切磋琢磨し合ってくれるのがねらいです。
 三つ目は、これが一番大事ですけど、学校の職場の雰囲気づくりですよね。若い先生たちを温かく迎えて、仲良く話しかけ、励ます教職員集団ができている学校の先生はやめません。まず校長・教頭に言ってるのは、若い先生を学校の運動会や児童会、生徒会の行事の責任者にして、先頭に立ってやってもらえと、そのかわり、つぶさないようにベテランの先生が、しっかり応援することを指示しています。誰だって、“やったあ”という達成感を味わったらやる気が出ますよね。」

■ 最初の学校で将来が決まる

 この教育長さんの新採の先生たちを見る目が、上から目線でなく、歓迎と期待にあふれた温かい目差しであるのが、学校現場にも伝わっているのだろうと感じた。
 管理職や新採を指導する先生たちも、教育長と同じ気持ちで接しているに違いない。
 こちらがどう思っているかという気持ちは、必ず相手には伝わる。まず、職場のみんなが「よく来てくれました」という空気が大切である。
 新採の教員にとっては、最初に赴任する学校に、すごい先輩がいて、授業のやり方も学級経営についても、思わずマネがしたくなるような人にめぐまれるかどうか、若い者同志が何でも相談し合える仲間であるかどうかが、その人の一生を決めると言っても過言ではない。
 もう一度、確認しておきたい。
 「よい教師は学校現場がつくる」ということを。

著者経歴
元 大阪府堺市教育長
元 大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元 文部省教育課程審議会委員
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