教育情報

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求められる言語環境の点検
2013.04.05
教育情報 <日文の教育情報 No.124>
求められる言語環境の点検
東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英

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■ 気になる掲示物、言葉遣い

 研究会などで学校に寄せていただいた折、気づかされることがあります。廊下や教室の掲示物、あるいは教師と子ども、子ども間の言葉遣いの学校差です。
 まず、掲示物。教室から廊下の隅々まで、子どもにとって役立つ情報、子どもの活動に働きかける掲示が様々に工夫されている学校があります。その一方で、いつ掲示されたものか、そこここで日焼けした掲示物が半ばめくれて垂れ下がっているのを目にしたことがあります。どうかすると、掲示板そのものが鋭い刃物で傷つけられ、そのまま放置されていることもありました。
 次に言葉遣い。つい先日のことです。「てめえ、ふざけんなよ。」「このやろう、ぶっとばすぞ。」過激な言葉にぎょっとなって声のするほうを振り返ると、ごくあどけない顔立ちの子どもたちがふざけあっていました。
 そういえば、話し方教室の出前授業講師として中学校を訪れた方が、こんなことを話しておられました。何でも、授業直前、教室の中に入って準備をしているときだったそうです。担任の先生が廊下に顔を出し、遅れてくる生徒に大声でこんな注意を与えたというのです。「馬鹿やろう。何ぐずぐずしてるんだ。走れ。話し方の講師はもう教室に来てるんだぞ。」これから話し方教室を始めようというところだっただけに、複雑な気持ちを抱かされたということでした。

■ 言語環境に関する基本とは

 言語環境に関し、子どもの学習意欲への働きかけ、言語活動への配慮が隅々にまで行き届いている学校がある一方で、首をかしげる場合があることは確かです。学校全体の言語環境は、様々な形で子どもの学習活動や言語活動に影響を与えます。そんなことは分かりきったことのように思われます。しかし、その理解が必ずしも実際の取組と結び付いていないことがあります。
 対応の基本を確認しておきます。
 「小・中学校学習指導要領解説[総則編]」(小学校平成20年8月東洋館出版社発行、中学校平成20年9月ぎょうせい発行)、第3章第5節の1に、「児童(生徒)の言語環境の整備と言語活動の充実」として基本的な内容が明示され、整備の例として次のことをあげています。

①教師は正しい言語で話し、黒板などに正確で丁寧な文字を書くこと。
②校内の掲示板やポスター、児童生徒に配布する印刷物において用語や文字を適正に使用すること。
③校内放送において、適切な言葉を使って簡潔に分かりやすく話すこと。
④適切な話し言葉や文字が用いられている教材を使用すること。
⑤教師と児童生徒、児童生徒相互の話し言葉が適切に行われるような状況をつくること。(以下略)

 子どもは授業中の板書や掲示物、日常の様々な言語活動から影響を受けています。教師の説明や説話、様々な会話から話し方を学んでいます。子どもの言語活動をより適正にするためには、学校全体の言語環境の整備が求められます。
 教師は授業中の内容には様々に留意します。しかし廊下の掲示板、日常の言葉のやり取りに関してはついつい意識が薄くなることがあるようです。注意を行き届かせるためには、学校全体の言語環境の点検と指導体制の整備が重要になります。

■ 点検に際しての留意点

 学校の言語環境は、次のように整理して捉えることができます。

[物的環境]
黒板、電子黒板、掲示板、図書室、情報・視聴覚機器、テレビ、新聞など
[人的環境]
板書・掲示板などの文字、教師や子どもの話し方、校内放送、図書の活用、情報・視聴覚機器の活用、新聞・文集づくりなど

 全校の言語環境ということでは、これらの全体を視野に入れ、授業、児童会・生徒会、委員会活動などの指導の機会を整理して捉え、何に重点を置き、どう環境整備を進めるかを明確にすることが大切です。
 留意したいのは、ただ形を整えればよいということではなく、子どもの言語活動に働きかけ、子どもの適正な言語活動に機能するように工夫するということです。特に日常の言葉遣いは、子どもたちの豊かな人間関係、望ましい集団の形成にも深いかかわりがあります。細かい配慮が求められます。
 まずは整備の内容を明確にし、全教師によって自校の実態を点検することが大切です。その上で、企画委員会、学年会や関連する研修会などにおいて協議の機会を設定したいものです。その際に先の学習指導要領解説の関連部分を参考資料とするなどして、指導の留意点、工夫・改善の重点について話し合い、子どもたちに働きかける言語環境を実現することが望まれます。

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