教育情報
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-算数・数学科を基にして-
「日文の教育情報 No.123」PDFダウンロード(346KB)
日本では学習指導要領で各教科の目標や内容が定められている。それはどのようなことを基盤にして検討されるのであろうか。筆者は近年、それをカリキュラムの構成原理として、いろいろな場で提言してきている。学習指導要領のより深い検討を期待して、ここでもそれを紹介してみたい。
■ カリキュラムの構成原理
カリキュラムの構成原理は多々挙げられるが、教育目的、内容編成、指導方法に分けて考察するのが分かりやすい。
◇教育目的に関する原理
教育の目的を基盤にして、次の三つに整理できる。
A1.人間主義:人間形成を第一の目的とし、人格の陶冶、諸能力の形成、情意面の育成等を目的とする立場
A2.実用主義:実用性を第一の目的とし、日常生活や職業、社会の発展等に役立つことなどを目的とする立場
A3.文化主義:教育内容や学問の享受、継承、発展などを第一の目的とする立場
上記の三つは共存的である。そこで、カリキュラムの構成においてはそれらをどのようにウエイトづけするかが問われる。
◇内容編成に関する原理
教育内容の選択・配列については、互いに対立する原理を組みにして整理すると、主に次のものが挙げられる。
B1.系統主義vs経験主義
系統主義:親学問の系統性を重視する立場
経験主義:子どもの生活経験を重視する立場
B2.知識主義vs思考主義
知識主義:知識を重視し、多くの知識を内容とする立場
思考主義:内容は少なくし、思考の育成を重視する立場
B3.歴史主義vs現代主義
歴史主義:親学問の歴史的発達順序を重視する立場
現代主義:親学問の現代的な成果の反映を重視する立場
B4.集約主義vs螺旋主義
集約主義:内容をまとめて指導することを重視する立場
螺旋主義:内容の質を変えた繰り返し的指導を重視する立場
◇指導方法に関する原理
学習理論や認識論を基盤にして、今日では、次の四つを主要な原理として挙げることができる。
C1.連合主義:連合説を基盤とする立場
C2.認知主義:認知説を基盤とする立場
C3.構成主義:構成主義を基盤とする立場
C4.状況主義:状況論を基盤とする立場
■ 構成原理に基づく学習指導要領の考察
次に、上で整理したカリキュラムの構成原理に基づいて、戦後の特徴ある学習指導要領を分析・考察してみよう。
まずは生活単元学習時代(1947~1958) である。このときは「生活をよりよくする」ことを最大の目標として、生活経験を軸に内容が編成された。したがって、目的は実用主義、内容編成は経験主義を基本原理としていた。方法は子どもによる実際生活と関わりある活動や経験を重視していたので、今考えると状況主義を主としていたと言える面がある。
次は現代化時代(1968~1977) である。このときは「学問の現代的成果を教育に活かそう」がスローガンだった。したがって、目的は文化主義、内容編成は現代主義、系統主義である。方法はピアジェ理論が基盤とされたので認知主義である。
最後は先の厳選化時代(1998~2008) である。このときは「生きる力」の育成が目的とされた。これはその中身から、目的原理は人間主義である。その下で、内容編成として、思考主義、集約主義が採られた。方法は構成主義、認知主義である。
■ 全国レベルのカリキュラムに求められるもの
上記の三つの時代の教育、とりわけ算数・数学教育はいずれも学力低下などをもたらし、大きな批判を浴びた。それらの学習指導要領は理念的には意欲的な改訂であったけれども、実践的にはいずれも失敗と言わざるをえない。同じことを繰り返さないために、原因の考察は重要である。マクロ的に言えば、一つの原理を重視しすぎた、極端な改訂、大幅すぎる改訂であったことが指摘できる。それが全国レベルのカリキュラム改訂に適していないことについては下記のような理由が挙げられる。
一つには子どもたちは本当に多様で様々な能力を有しており、一つを強調しすぎるとそれに合わない子どもたちが勉強嫌いや学校嫌いになってしまうことである。二つには、先に示した原理はいずれも重要で意義ある考えを掲げており、それらには対立するものもあるけれども、一方を重視しすぎるのではなく、できるだけ調整し、それぞれのよさを活かしてカリキュラムを構成することが全国的レベルのカリキュラムには求められると考える。三つには、全国レベルのカリキュラムには多くの教師、子どもそして保護者が関わるので、その多くの者に大幅な改革の理解や実践を短期間で求めることには無理が生じることである。
上記のことから、全国レベルのカリキュラム改革はいろいろな原理を可能な限り、調和・調整し、漸進的に進めていくことが重要と考える。