教育情報
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「日文の教育情報 No.122」PDFダウンロード(327KB)
■ なぜ長嶋学をはじめたか
私は2003年から大学のゼミで「長嶋学」を立ち上げ研究してきた。今年度その最後の仕上げとして、長嶋と野村の比較を調査した。
その成果の一端を紹介する。
長嶋学をはじめたきっかけは、長嶋の生き方が日本人の生き方のモデルになりうるか、を確かめたかったことである。
戦後の日本人を勇気づけた人は力道山であり、美空ひばりであり、石原裕次郎であり、そして最近亡くなられた大鵬であり、長嶋茂雄である。
日本人、とりわけ青少年に夢と希望を与え続けた長嶋茂雄を今の青少年達はどう評価しているか、を調べようとした。そのことによって、長嶋が青少年の生き方のモデルになっているか、確かめられると思った。
■ 長嶋VS野村調査で何が分かったか
長嶋に関する調査は2003年、病気をした後の2008年、そして今回の2012年の三回行った。
長嶋と野村の対比をトコトン調べた。調査対象は大学生775名である。調査方法は次のような形をとっている。
長嶋VS野村―どちらが尊敬されているかと尋ね、具体的には①○○記念館を建てるなら、②たたえて銅像を建てるなら、③国民栄誉賞を与えるなら、④教科書に載せるなら、どちらを選ぶか答えさせる。
「尊敬」では記念館、銅像、国民栄誉賞、教科書のどれにおいても長嶋を選択する者が8割を占める。野村がまさったのは「人生相談をするなら」(53.5%)「仕事の相談をするなら」(51.3%)であった。
「どんな職業に向いているか」でも同じ結果になっている。
長嶋に向いている職業は「小学校の校長」(81.1%)、「生徒会長」(75.5%)、「校長」(69.1%)である。一方、野村に向いているのは「仕分け人」(65.0%)、「高校の教師」(77.0%)、「社長」(63.8%)である。
その他、「どちらが弱者を勇気づけるか」でも長嶋に軍配があがる。例えば、病気と闘っている人に「私と一緒に希望を持って闘いましょう」という電話ボイスで効き目があるのはどちらか、と尋ねている。
■ 長嶋海洋民族、野村農耕民族を引き継ぐ
このように学生は具体的な問題に対する対比では野村より長嶋を支持している。
ところが、長嶋、野村はスターですか、長嶋、野村は好きですか、という質問では興味深い結果が出る。
「長嶋が好き」は84.0%、「野村が好き」は78.3%。野村もけっこう好かれている。そして、「長嶋がスター」は96.2%、「野村がスター」は67.4%。長嶋ほどではないが、野村も7割近くにスターと思われている。長嶋と共に野村も学生から好かれており、スターだと思われている。
そこで、長嶋と野村の「両者が好きな」群と長嶋は好きだが野村は嫌い「長嶋大好き」群、長嶋は嫌いだが野村好きな「野村大好き」群、そして両方とも好きでない「無関心」群に分けてみた。
数値は次のようになる。「両者が好き」73.1%、「長嶋大好き」11.3%、「野村大好き」5.2%、「無関心」10.4%。長嶋と野村が好きな者が7割を超えたのは意外であった。
長嶋は「ひまわり」で記憶の人といわれる。野村は「月見草」で記録の人といわれる。
長嶋は海洋民族のDNAを引き継いでいる。漁師は、「明日」ではなく「今」に生きる。そして、漁場の穴場は記録に残さない。息子に「あの山とあの山の」間に網を打て、と口伝で伝える。記録に残すと他人に穴場が伝わる危険性がある。
長嶋の打撃指導は「来た球をバシーと打て」と身振り手振りのパフォーマンスで伝授する。口より身体で伝えようとする。ビデオより「生」(ライブ)を重要視する。
それに対して、野村は農耕民族のDNAを引き継いでいる。「今」より「明日」を考えて生活する。春には種を蒔き秋に収穫する。あの畑は輪作は無理だ、という「記録」を残す。
野村の指導は「ID野球」と呼ばれる。データを重要視する。ボールカウントにこだわる。打者とピッチャーの相性にこだわる。常に記録を頭に置いて作戦を練る。
45才以上の人達は、たぶん長嶋派と野村派に分かれるだろう。今の学生達は具体的な評価は別にして、生き方をトータルに見たとき、長嶋派と野村派は共存する。
メディア社会を生き抜いてきた学生達は多次元の価値を併存させている。というより、どちらもOKで共存・共有させている、というのが実情のようだ。新しい若者が出現しはじめている。