教育情報

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地域連携を重視する学校運営
2013.01.09
教育情報 <日文の教育情報 No.121>
地域連携を重視する学校運営
東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英

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■ 地域の重要性の再確認

 学校外部評価委員、あるいは学校運営協議会委員として様々な角度から学校に関わる機会を得て、改めて学校・家庭・地域の信頼関係に大きな意味のあることを確認している。
 一つには、子どもの抱える問題、学校が直面する課題が多様化する傾向にあって、課題解決には家庭・地域との緊密な連携が欠かせないからである。
 次にあげられるのは、第一の理由と重なって、地域住民・保護者が積極的に学校に協力することによって特色ある教育活動の充実・活性化が図られるからである。
 例えば、私が学校運営協議会委員として関わっている、東京都のA小学校においては、運営協議会が家庭・地域の様々な意見を学校運営に反映させるだけでなく、職場体験や全校マラソンといった行事に協力し、さらに学校支援本部が主体的に多様な子どもの活動の企画、展開に機能し、実際の支援を行っている。
 また、B中学校では「○○中学校おやじの会」「学区内町会・自治会」「PTA OB会」などを母体とする学校応援団の組織という形で連携体制・支援本部を構築し、地域の意見・要望を学校に伝え、同時に学校行事、生徒会行事などを支援している。
 そこで展開される諸活動を通じ、地域に潜在する教育力の大きいこと、地域の方々の中にある子育てへの思いの強さを知らされた。諸活動の積み重ねによって家庭・地域の願いが学校の教育活動に反映される。見守られ、支えられることが子どもの活動に活気を与え、指導に当たる教員の指導を活性化させるのである。
 さらに、共感的に学校が直面する課題の難しさ、積み重ねられている努力を理解し、単に見守るだけではなく、それぞれの役割を果たそうとするようになる。そのことが教育機能を高めることとなり、学校の過剰な役割の改善につながる面を持つことも見逃せない。

■ 学校運営改善に関する報告書

 教育目標の実現を効果的に進めるためには、学校だけの力では難しくなっている。学校運営の展開には、保護者や地域と信頼関係を築き、地域を巻き込んで活動を展開するという発想が欠かせなくなっている。
 平成23年7月に公表された、学校運営の改善の在り方等に関する調査研究協力者会議報告書「子どもの豊かな学びを創造し、地域の絆をつなぐ~地域とともにある学校づくりの推進方策~」の冒頭には、次のように示されている。
 「近年、『新しい公共』という概念が打ち出される中で、保護者、市民としての子育てや学校の関わり方について、社会の意識変化が生まれつつある。」
 特に注目されるのは、「子どもを中心に据えた学校と地域の連携」の項で述べられている次の部分である。
 「子どもの『生きる力』は、多様な人々と関わり、様々な経験を重ねていく中でよりはぐくまれるものであり、学校のみではぐくめるものではない。加えて、近年の社会の変化に伴い、多様化・複雑化するニーズに学校の教職員や行政の力だけで対応していくことは困難となっており、学校が地域社会においてその役割を果たしていくためには、地域の人々(保護者・地域住民等)の支えが必要となっている。」
 改めて考えてみると、現代の子どもと地域における様々な人との関わりは非常に乏しくなっていることに気づかされる。子どもにとって、社会性の獲得、自己指導力の育成は重要な課題であるが、これは学校内の教育活動だけでは難しい。学校を開かれたものにし、家庭・地域からの活力を得ることが必要になる。

■ 学校段階を超えた子どもの育ち

 ここに引いた報告書が述べるように、子どもの育ちは各学校単位で収まるものではない。地域における子どもの育ちは、個々の学校や学校段階を超えて捉えていくことが必要になっている。
 これは当然の認識なのだが、実際には学校の教育活動が学校内、教室内に限定されている場合があり、全人的な「生きる力」育成の課題になっている。
 まずは学校と家庭・地域の間で、どのような子どもを育成するのか、何を実現することが求められているのか、目標を共有することが求められる。
 これからの学校運営については、こうした考えを十分に生かし、地域の人々の学校運営への参画などについても視野に入れ、全教職員の共通認識の下で開かれた教育活動を展開することが課題になっている。
 その第一歩として、例えば、ここに引いた報告書の重点になる部分を資料にするなどして、目指すべき学校運営の在り方について全教職員の間で十分に話し合い共通認識を有することが強く望まれている。

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