教育情報

教育情報

博物館における教育
2012.12.06
教育情報 <日文の教育情報 No.120>
博物館における教育
(公財)宮崎文化振興協会理事長 田原 健二

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■ 博物館教育を中心とした博物館経営

 博物館は、資料の収集、保管、展示、調査研究をすることを目的とした機関であり、実物資料を通じて人々の学習活動を支援する施設としても、重要な役割を果たしている。
 当協会は、宮崎市の博物館類似施設(人文科学系3館、自然科学系2館及び文化施設1館)を、市条例に規定されている設置目的及び事業内容に則り、指定管理者制度により管理運営している公益財団法人である。
 博物館経営とは、博物館がまちづくり、人づくりという公益的なミッションを遂行する機関としての役割を含む概念と捉え、博物館教育を中心に据えた博物館経営の在り方について、「学校・地域との連携」「資質向上」をキーワードに整理する。

■ 博学連携の推進

 博物館の取扱いについて学習指導要領では、「連携、協力を図りながら、それらを積極的に活用するよう配慮すること。」(小・理)等、博学連携の推進を求めている。
 しかし、博物館における学習活動を配慮した教育課程の編成・実施が十分なされるまでには至っていないのが現状と思われる。
 博学連携の阻害要因の一つに地理的・経済的側面から既に指摘がなされているが、昨年度開催された「博学連携ワークショップin宮崎」において「同じ展示物を見ても、博物館関係者と学校関係者では視点が違うことを相互理解しなければ博学連携は広がらない」こと、そのためには、博物館を関係者が「科学的見方や考え方を楽しむ場」として捉え直すことが重要であることが指摘されている。(「日本理科教育学会第62回全国大会」)
 当協会では、「視点の違いの相互理解」を目的に、学習指導員(退職教職員)や市教委指導主事の指導でTIMSSやPISAの課題を用いて、学習指導要領に示す学力観についてワークショップを行い、各施設の展示物の展示の仕方や説明方法について子どもの視点(学習内容、生活体験)から見直しを行った。見直した展示物と学習指導要領の関連性を示した「授業に使える展示物-学校での利用ガイドブック」を作成・配布することで博学連携を推進している。

■ 地域との連携

 博物館の役割の一つに、地域活動への「関わり」があると考える。まちづくりにおける課題解決において、博物館の存在意義や活動の重要性を地域住民に向けて発信していくことが重要である。
 当協会が管理運営している施設では、地域住民や退職教職員(JSCジョイフルサイエンスクラブ等)にボランティアとして古文書解読の講師、展示物の案内・説明、イベントの運営、学習活動の支援等の活動や講座の実施などに参加していただいている。博物館の活動に地域住民が専門的な技術や知識の提供者として主体的に関わりを持ってもらうことは博物館にとっても活動内容の充実となる。
 また、このような博物館ボランティアの活動は地域にとっても地域の文化力、教育力の向上につながるものであり、自立した地域社会の形成(「知の循環型社会」)を目指した活動と言える。
 今後、地域住民が持っている知識や情報を取り入れて地域や各種団体と協働で事業を開催することは、博物館経営にとって重要と考える。

■ 体系的な研修計画

 博物館はそのミッションやビジョンを達成するために、博物館が持つマンパワーを含めたさまざまな経営資源を最大限に活用して、教育機能を提供することが必要である。
 当協会では、事業の充実を図り適切な事業を展開するため「研修計画-公益目的事業を推進するための人材の育成」を策定している。
 「研修計画」を体系的なものにするため、《求める職員像》(①サービス提供のできる職員、②施設の効用を最大限に発揮できる職員、③チャレンジできる職員、④コミュニケーション能力のある職員、⑤専門能力のある職員)と《研修内容》のマトリックスで具体的な《研修項目》を設定している。
 このことは、職員に《求める職員像》の視点から自己評価し、内省的思考を経て主体的に《研修項目》を選択していくことを求めていることになる。
 また「研修計画」は固定的なものでなく、P-D-Sの評価サイクルによって適宜見直しながら、より有効で計画的な研修体系に改めるものと考えている。

 博物館と学校・地域との相互の関わり合いは、今後も博物館教育として継続・発展するであろう。博物館が行う教育活動は、地域社会に対して「公共の場」としての博物館の存在意義を示すことでもあると考える。

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