旧学び!と美術
旧学び!と美術

4本足のニワトリ?!
表現するために「よく見る」という意味は、詳細に観察した対象を細部にわたって描くことにより、そのものの持つ特徴や特性を知り、私たちと共生する生命や、ものの存在を深く知ることにあると思います。
そのことをささやかに支えていた題材が「自然形からの構成」ではないかと考えるときがあります。
「自然形からの構成」のお決まりモチーフはピーマンでした。ピーマンを二つ割りにしてみると、ピーマンとしての形状を持ちながら、非常に個別的な形が出現します。その個が持つ形状を生かし、ピーマン特有の形を失うことなく単純化したり、強調したりする中に、モノを見取る学習の意味があったと思うのです。1年の構成ページを編集するにあたり、ピーマン以外のモチーフ探しには苦労しました。キャベツやブロッコリーを使ったこともありましたが、レモンやトマトでは個別性が弱く、個々の形が似すぎているというのは形状の面白味に欠けるのです。その点、ピーマンは歪んでいたり、肉厚であったり、種が多かったりして個性的でありながら、ピーマンであるというすぐれたモチーフでした。そして、授業で扱うには安価であることも大切な条件でした。
「自然形からの構成」は、現在でも多くの中学校で行われています。その成果を各地の生徒作品展で見る機会は多いのですが、昭和期の教科書と比べて近年の教科書では、「構成」に割かれる頁が少なくなっていることにお気づきでしょうか。基礎・基本が重視されるようになって「構成」が改めてクローズアップされるはずが、現行の教科書では、「自然形からの構成」が1年の23ページに少しあるだけです。2・3年下では、「見え方の不思議」に「構成」の名残が感じられるほどになっています。
美術教育の基礎・基本には、多様な見方と考え方があります。基礎と基本という言葉自体が曖昧であることも影響していると考えられます。例えば、文字を書くために鉛筆の持ち方は基本であるとしたら、文字を書くことは文章を書くことの基本でもあり、それらの基礎は、伝えようとする情緒的なその人の感情や考えの抱き方ということになるのかもしれません。美術でも、子どもの描きたいという欲求を基礎として筆や色彩を上手に用いて風景を描く場合も、表現技術や技法、造形要素などを考えると、基礎と基本の所在は流動的ということになるのです。
基礎・基本の意味が曖昧なままでは、会話や研究に不便をきたしますので、私なりの分け方をしています。造形的な表現活動から身に付く造形能力を「基本」、人間性として学習され、発揮される能力を「基礎」と分類するようにしています。その分け方では、小学校の「造形遊び」や中学1年の教科書(日本文教出版 平成18年発行)では、4~6ページの「つくり出す喜び」は「基礎」となりますから、「構成」と合わせて基礎・基本と考えることもできます。それが「構成」のページが少なくなった理由のひとつであると考えられるのです。けっして「自然形からの構成」からの学びが軽視されている訳ではありません。
では実際に「自然形からの構成」を指導するにあたり、この題材の難しさは導入にあると感じている先生は少なくないのではないでしょうか。生徒に表現の意味を説明し、導入することが困難であると感じたことはありませんか。これは構成の題材に共通する課題であると思われます。特に、現代っ子たちは完成作品が実用的であることを望む傾向にあります。そのため、工芸題材を多く扱うようになったと指導計画について話される先生方が増えています。改めて「構成」の意義を考えてみる必要がありそうです。
例えば、私たちが会話やちょっとした筆談で「犬」を話題にすることがあります。ところが、犬という生き物はいるのに「犬」は実際に存在せず、いるのは飼われている犬の「ポチ」や「太郎」です。犬とは、犬属の総称であり、大きさや毛並みが似ていると思われる四本足の動物を見て、猫や狐、イノシシなどを私たちは識別することができます。
また、夕暮れ時などに遠くから樹影を見て、杉や松、ケヤキ、クスノキなどを見分けられる場合があります、特に葉がよく茂る盛夏の頃には、木々の枝ぶりがその特徴をよく示し、夜を迎える一瞬の空間にそれぞれ独特の雰囲気をかもすことを知っています。また、木に精通した人は、葉の形態だけでなく、樹皮や製材の木目、木の香からもそれが何の木であるかを見分け嗅ぎ分けることもできます。やはり、木という植物は存在せず、現実にあるのは桃の木、リンゴの木であり「木」は総称です。さらには、我が家にある「柿の木」と隣家の「柿の木」を私たちは視覚的に、あるいは味覚的に識別し「柿」の木も総称であるということになります。つまり、私たちは観察の経験によって、それぞれの個別性を認識するとともに、大くくりにそれらの共通する特徴を捉えているのです。
よく見てよく知るということは、単に眺めているだけでは得られません。そして、特徴を捉えた対象を単純化したり強調したりしたものを組み合わせて、「美」を創造するところに「構成」の学びの本質があるのではないでしょうか。
よく見て描くこと、対象を観察して特徴を捉えて構成することを美術の基礎として、これからも指導に当たってほしいと願います。
そうすれば、大学生の約2割が描く「四本足のニワトリ」は少なくなるのではないかと思います。
導入事例Case27
小学校3・4年(複式)
「びっくり美術館」~気持ちいい形Part1・オブジェを作ってみよう~(開発単元)
*多様な造形作品との出会いから、よさや美しさなどを自分らしく感じ取り、表現することの楽しさや美しさ、おもしろさに気づかせるための題材です。
◎主な材料
- 廃材
- ペンキ
◎導入の工夫
「本物らしく作ったり描いたりすること=上手な作品作り」という考えの児童が多く見られたため、県立美術館「橋本章展」の鑑賞を企画しました。一見、大きな「ガラクタ?」と思われ作品から刺激を受け、材質の違いや表し方、制作の過程などに「すごい!」「かっこいい!」という思いがもてるようにしたいと考えました。本時の導入では、その体験を話し合わせ、「ぼくたちもこんな作品を作ってみたいな。」という思いを引き出そうとしました。
T:橋本章さんの作品をみて感じたことを話し合おう。
C:いろんな色があってすごかった。
C:大きくてはく力があったよ。
C:いろんな材料を使っていたけど、題名のようにみえたよ。本物そっくりじゃないけど。
C:ぼくたちもオブジェを作ってみたいな。
◎児童の変容
「上手に描いたり作ったりしなくてもおもしろい作品はできるんだ。」「何かを伝えたいという気持ちが大切だと思った。」というような感想が多くの児童から出されました。様々な素材や条件を活かして、表し方を工夫している作者の思いと目の前の作品に驚き、そのおもしろさを感じたようです。そして、造形作品への親しみや関心を抱くことができたようです。
<児童の作品:BBステーション>
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(S先生の実践から)
導入事例Case28
小学校4年『25の□で何できる?』~ごばん目のシートで~(3時間)
材料を基にした造形遊び:図画工作4「ごばん目もよう」(日本文教出版 昭和40年発行)
* 本題材は、25個の正方形で構成される「ごばんの目シート」を切ったり、折ったり、貼ったりして試行錯誤し、見たてを楽しみながら互いに情報交換して、新たなもの(こと)を創造する題材です。
また、升目をすべて切り離してしまわないなどの条件を与え、立体をつくる思考へと意図的に導きながら適度な抵抗感を与えることができる題材です。
◎主な材料
- ごばんの目のシート(画用紙)
- スティック糊
- はさみ等
◎導入の工夫
T:(25の□で何できる?「ごばんの目シート」で、と板書し)
T:これが「ごばんの目シート」だよ!
T:どんなことになるかじっくり見てね!(教師の前に児童を集める)
(シートを切る、折る、貼るなどして簡単な参考作品をつくって見せ、活動イメージを抱かせる)
T:先生は何をつくったと思う?
C:カブト虫! 反対から見ると、トカゲかな? 立てて見ると、お相撲さん!
C:なるほど見える、見える。
T:(子どもの見たてを板書し)見方を変えると、いろんなものに見えてくるね!
どんなものができそうかためしてみよう!(板書)
T:さて、先生はどんなことをして「ごばんの目シート」を「変身」させたかな?
C:はさみで切った。手で折った。糊で貼り合わせた。それから丸めた!
T:そうだったね。よく見ていたね。(子どもの発言を板書しながら価値付ける)
T:それから「切り離さないこと」「線を生かすこと」を『やくそく』にするよ。
※試行錯誤する中でやりたいこと、つくりたいものが明らかになってきた頃合いをとらえ、相互鑑賞の機会を設けたり、必要な材料や用具を与えたり、新たな条件などを加えたりして、活動を発展させる。
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(E先生の実践から)