旧学び!と美術
旧学び!と美術

圧倒的な月日
前回、マンガのことを書きましたが、釣り好きの部類に入る私は、「釣りバカ日誌」※1も、もちろん読破しています。そして、登場人物の一人、スーさんの釣りの師匠であるハマちゃん以上に釣り名人の師匠が私にはいます。
いろいろなことにおいて名人と言われる人がいますが、その人たちは、なぜ名人なのかを説明できない場合が多いのではないでしょうか。名人とは、単に技術的なことだけを言うのではないようです。名人の多くは、そのことにかけた時間が他の人より圧倒的に多いことだけは確かなようです。私も海釣りに関しての名人になろうと努力はしてみるものの、いまだその名人域に達することはできないでいます。私にはない「何か」が、その名人にはあるのです。
長い間、私の釣り師匠であるNさんとは、マダイやシマアジねらいの釣行をよくご一緒しました。その際は、竿や仕掛け、エサのオキアミなど、ほとんど同じ条件で海に向かい、海底までの深さを測りながら仕掛けをおろします。偶然に私の方が先に釣り上げることはあっても、4~5時間楽しんだ後の釣果は、必ずと言っていいほど師匠に軍配が挙がるのです。
悔しさの感情は通り過ぎ、名人芸を羨望のような気持ちで学ぼうとはするのですが、いまだ果たせずにいるのです。
Nさんの名人たるゆえんを分析したこともあります。ただ、私に考えられる範囲の具体的なチェック項目は、すでにクリアーしていることが多いのです。おそらくチェックされない部分に名人の到達した特異性があるように思われるのです。
Nさんは、釣り場に着くと誰もがするように仕掛け作りをします。その時に、まず海の色と潮の流れを見ています。そして、第一投を引き上げると、エサの状況を見ながら手にしたオモリから水温を確認しているようです。しばらくして、魚から何の反応もない時には、「食い気を誘う」と言って、小さくすりつぶしたオキアミをネットに入れて、海底付近でばらまくように誘いエサを施したりします。そんな時は、竿を出すのを彼は急ぎません。私の釣る様子を見ながら「そろそろ食いたがってきたかな?」と言いながら、おもむろに釣りを再開するのです。そのタイミングがドンピシャと当たり、魚が釣れ出す体験を何度かしました。
名人を見ていると、釣りとは、魚が釣れるかどうかの運だめしではなく、魚がエサを食べたくなるように、こちらからアプローチすることなのだということを強く感じます。それには、攻略するためのフィールドの様子と、対象魚のその時々の状況を洞察する必要があるようなのです。釣れなければ、あるいは魚に食欲がなければ、エサに関心を向けさせ食い気を誘う働きかけが、こちらに求められるのです。
たいていは名人の知恵が勝利し、酔わされた魚がクーラーボックスに収まることになるのです。時には、どんな手管も功を奏せずダメな日があります。そんな日の引き際も、名人は実にみごとです。「今日はダメだ。こんな日が時々あるんだよねぇ。」と言いながら、半時ほどで引き上げるときもあるのです。
魚は堤防の人影に怯えて逃げ、水中深く潜ることはよく観察されます。釣り逃がして口を痛めてしまった魚は、しばらくはエサを食べようとしないでしょう。鳥に襲われたり、釣り針の痛い目を経験したりした魚には学習能力があると思われますが、
「水中を漂うハリスの先の釣り針とエサに対し、人間が自分を釣ろうとして仕掛けたワナである」という認識は魚にあるものでしょうか。
魚の寿命を考えると、それらを充分に学習するには時間が足りないかもしれません。また、経験として、そのような場に遭遇する機会は、魚全体からみて少ないと思われます。常に、食うか食われるかの世界で生きる魚の習性が、そう思わせる行動として、私たちに頭脳的な生き物であると感じさせているだけなのかもしれません。名人域には達していない私も、釣行の折にはハリスの太さや鮮度のいいエサなど、できる限りの工夫を凝らして魚に挑戦しようと出かけます。そして、釣ることが難しいとされる魚の攻略にのめり込むほどに、「一生幸福でいたいなら、 釣りを覚えなさい。」という境地が、すこし理解できるようになったと感じています。
※1 著・作:やまさき十三、画:北見けんいち、1979~『ビッグコミックオリジナル』連載 発行:小学館
導入事例Case25
小学校5年「自然の色ってどんな色?」(開発単元)
*混色により色の広がりを実感させ、自分の思いを表現することに自信をもたせるための題材です。
◎主な材料
- 木の葉
- 画用紙
- 水彩絵の具
- ワークシート
◎導入の工夫
三原色(赤・青・黄)だけを用いて、ほぼ単色の木の葉の色を作ります。画用紙は混色した色をのせるパレットとしても使います。その色をもとに複雑な色の木の葉を描きます。
T:みんなが集めてきた葉っぱの色は何色かな。
C:緑色!あと黄色も少し混じってるよ。
T:(赤と黄と青の絵の具を見せ)今日はこの絵の具だけを使って葉っぱを描いてみよう。
C:ええ!無理だよ!
C:知ってる!混ぜればいいんだよ。
T:じゃ、ちょっと見ててね。
黄色い水を入れたペットボトルのふたの内側に青の絵の具を塗っておき、ふたの内側が見えないように提示し、黄色の色を確認させてからペットボトルをよく振る。水がどんどん緑色になるのを見せる。
C:すごい!なんで?
C:他の色が入ってたんだよ。何色かなあ。
T:実はこの青の絵の具が入っていたんだよ。これなら葉っぱの色も作れそうかな?
C:やってみる。
◎児童の変容
思ったように色や形がつくり出せないため、絵の具で絵を描くことを苦手としていたD男が色の作り方や塗り方を知り、「楽しく描ける」満足感を得たようです。
(S先生の実践から)
導入事例Case26
小学校2年『「わくわく」をつなげて…おもしろテープ』(4時間)
図画工作1・2下 裏表紙「みんな なかよし」(日本文教出版)
*本題材は、「つながり」を発想のきっかけとして絵で表し、それをつなげた「おもしろテープ」づくりに取り組む題材です。また、描いた絵を「つながり」をもとに子ども一人一人が自分の表現活動の足跡をたどることができます。さらに鑑賞の際、自他の作品を、どんな「つながり」なのか、楽しんで見ることができるため、鑑賞活動における基本的な姿勢を身に付けるために適した題材です。
◎主な材料
- 画用紙
- 紙テープ
- カラーペン
- クレヨン
- 軟質色鉛筆
- 糊
- はさみ など
◎導入の工夫
T:(おもむろに「こぶた」の絵を黒板に掲示する。)
C:子ぶただ!かわいい、先生がかいたの?
T:次はどんな絵かな?
C:お母さんの「ぶた」だよ!きっと。
T:(子どもたちの予想を聞きながらゆっくりとつぎの「たぬき」の絵を掲示する)C:ええっ、でもかわいい。「たぬき」だね。
T:じゃあ、次はどんな絵を出すと思う?
C:(……しばらく考えて)きつねだよ。
C:きっと!そうだ!分かった(多くの声が)
T:なぜ、そう考えたの?
C:だって、「こぶた」「たぬき」「きつね」だから。
T:なるほど!ではどうでしょう?(ゆっくりと、「きつね」の絵を掲示する。)
C:やったあ、あたったあ!(一斉に拍手や歓声が上がる)
T:次は…もう分かったようだね(くやしそうな表情で)
C:「ねこ」!こぶた、たぬき、きつね、ね~こ♪(みんなで合唱)
T:はいその通り、「ねこ」でした。でこれは何の『つながり』なのかな?
C:「しりとり」になっている。
T:では次は何のつながりの絵でしょう?(「さくらんぼ」の絵を掲示する…)
…以上「これは何の『つながり』なのかな?」と問いかけながら、「しりとり」「色」「すきなもの」というように参考資料(絵)を順に提示し、発想を広げる楽しみを味わわせる。その後、「つながり」をキーワードに絵を描かせる。
T:めあてを子どもの「つぶやき」に合わせて板書する。
つながる「わくわく」を絵にかこう!
※ある程度、発想を広げる活動が軌道に乗ってきた所で「もっとステキなものにするには…」と問いかけ、教師が実際に「おもしろテープ」をつくる姿を演示したり、扇風機で風を送ったりする。これにより、子ども達が絵を描いた後の活動を見通したり、発想をさらに広げたりできるようにする。
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(E先生の実践から)