旧学び!と美術

旧学び!と美術

春休みと教師、今むかし
2010.04.13
旧学び!と美術 <Vol.36>
春休みと教師、今むかし
学び上手、遊び上手に!
天形 健(あまがた・けん)
表示が色で表されていると瞬時に判断ができます。(東北道と磐越道の快適なインターチェンジ)

表示が色で表されていると瞬時に判断ができます。
(東北自動車道と磐越自動車道の快適なインターチェンジ)

 縦に長い日本列島では、桜の開花を待つこの季節は、地域それぞれに風物詩があることでしょう。それが春休みにあたる地域が多いのではないでしょうか。この時期は、小中学校の先生方にとって年度末の事務処理等で、もっとも多忙期と思われます。職場を移る先生にとってはなおさらでしょう。内示から着任の挨拶が済むまでの間は、二度と転任したくないと思うほど忙しさを極めるようです。
 学校の先生たちから春休みがなくなって、どれくらいになるでしょう。若い先生方は「そんなのがあったのですか?」と驚くかもしれません。
私が中学校教師として初任だった頃の昭和50年代には、児童生徒と同様に春休みがしっかりとあったのです。部活動や事務処理で忙しくしている先生もいましたが、多くの先生は職務専念義務の免除を使うか研修期間でした。その頃は土曜が出勤日でしたが、夏や冬のように、春にも短い休みがあったのです。
 長期休みをウキウキした気分で待つのは、子どもも大人も同じだったのではないでしょうか。長期休暇だからこそできる充実した時間の過ごし方がありました。海外の美術館巡りをする人、夏山登山を企画する人、そして春秋の公募展に向けてキャンバスを張る人、また数年かけて50ccバイクで日本縦断に挑戦したり、東海道を徒歩で挑戦したりする人もいました。休み明けにその体験談を聞くのを楽しみにしているのは子どもたちでしたが、教師たちも互いの土産話に興味津々でした。

 ところが、そんな楽しい教師たちとは逆に、春休みが特に忙しくなる先生がいました。
 教務係の先生方です。生徒数と先生方の配置が確定すると、格子状に仕切られた黒板のような大きな板が倉庫から出番となります。時間割を組む板です。横軸が先生方の名前、縦軸が曜日ごとの校時で区切られていました。それにクラス名が書かれた1cm角程の木製のコマを並べて時間割組みが始まるのです。コマの移動は千枚通しを突き立てて行いました。クラス数の多い学校では、9割方コマが入ったあたりから調整が難しくなります。長考の末、千枚通しを突き立てる教務主任の横顔は、棋士かハスラーのようにカッコ良く見えたものでした。その頃の教務主任の心意気は、新年度計画と雑務をすべて教務が請け負い、極力、先生方に研修の機会を与えたいという一点でした。春休み明けに出勤した職員室の机上には、教務が準備したプリント資料がズッシリと積まれていました。それに沿って新年度第一回の職員会議が開かれるのです。
 その教務が忙しい間に、それを免れた先生や出勤していない先生は何をしていたのでしょう。一年間の疲労回復に当てた人もいたでしょう。教科専門を深めたり教材研究をしたり、あるいは校庭の花壇整備や校舎のペンキ・ワックス塗りをしていた先生もいました。
 いずれにせよ、リフレッシュした姿で新しい年度の教壇に先生が立つことを教務主任は期待していたように思います。授業で使う教科書は、教科によっては内容が大きく変わることがないわけですから、教科内容を教授するだけなら大学を出たばかりの新米教師にもある程度は勤まりますが、内容がわかりやすく楽しい授業を展開したり、工夫された教材や導入を準備したり、子どもたちが憧れる先生であり続けるには、大学卒業以来、放電ばかりしてきた先生に、それを期待することはできないでしょう。専門以外の情報にも興味をもち、全人的に豊かに成長する生涯学習者としての姿があってこそ、子どもたちにとって魅力ある先生でいられるのだと思います。底の浅い知識や経験だけでは、子どもたちの眼を輝き続けさせることはできないでしょう。体験や経験不足の課題は子どもにも大人にも共通することではないでしょうか。自然体験や社会体験は子どもの頃だけで済むものではありません。造形遊びは小学生にだけ必要なことでしょうか。大人自身がよく遊び、よく学んできたかを問い直してみる必要がありそうです。

 長期休暇がなくなっている教師たちは、いつ充電の機会があるのでしょう。教壇に立つということは、有能に事務処理を行うこととは別のところで、人間性の蓄えとゆとりが必要なのではないでしょうか。まずは学び上手、遊び上手を目指すことが必要なのかもしれません。
 遊び上手とは、寸暇を生かす技を身につけることと、遊び仲間がいるということだと私は学びました。

導入事例 Case23

小学校4年『お花のプレゼント』(3時間)
 * お母さんや祖母(または6年生)にプレゼントする牛乳パックの花かごをつくる題材です。相手のことを思いやりながら、贈る気持ちを味わってくれればと考え題材設定しました。

◎主な材料

  • 牛乳パック
  • 割り箸
  • モール
  • 数種類の布
  • セロハンテープ
  • 接着剤

◎ 導入の工夫

T:(牛乳パックでつくった花かごを示しながら)これ、何でつくったかわかる?
C:牛乳パック!
T:そうだね。これにお花を入れると…?(数本の花を入れて見せる。)
C:わ~!きれい。それつくるの?
T:そう。みんなでつくってみよう。こんな花かごがあったら素敵でしょ!誰にプレゼントしたい?
C:お母さん。先生にもあげたい。誰にもあげないで自慢する。
T:先生は、おばあちゃんにあげようかな?もう、78歳になるんだよ。みんなのおばあちゃんは?
T:そうか、おばあちゃんが静岡だったり、東京だったりするか。
プレゼントする人のことを思いながら、花かごのつくり方を考えてね。

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(S先生の実践から)