旧学び!と美術

旧学び!と美術

ユニバーサルデザイン(universal design)
2010.03.15
旧学び!と美術 <Vol.35>
ユニバーサルデザイン(universal design)
飾りたい・使いたい・伝えたい・そして遊びたい
天形 健(あまがた・けん)
「嫌ってゐられる間だけは嫌ってゐるがいい、嫌はれてゐる間だけは嫌はれてゐるから。と太陽は霜に向かって言ってゐる。」(『美乃本體』岸田劉生著 河出書房1941)

「嫌ってゐられる間だけは嫌ってゐるがいい、嫌はれてゐる間だけは嫌はれてゐるから。と太陽は霜に向かって言ってゐる。」文引用(『美乃本體』著:岸田劉生 発行:河出書房 1941年)

 ロナルド・メイス(Ronald,L,Mace1941-1998)がバリアフリー概念の発展形として1985年に「できるだけ多くの人が利用可能な製品・建物・空間をデザインにする」というユニバーサルデザインの考えを提唱してからすでに四半世紀を経ました。ユニバーサルデザインは公用語としての地位を固めつつ、この概念はデザイン認識を新たにしました。今では、エコ(eco design)、バリアフリー(barrier-free design)などを包含しながら、ものづくりの基本コンセプトとなっています。

学び!と美術vol35_02

昭和31年度版教科書「中学図画工作2」

学び!と美術vol35_03

昭和31年度版教科書「中学図画工作3」

 デザインの訳語として「意匠」という認識は明治以来ありましたが、美術教育の領域としてデザインが導入されたのは昭和33年のことですから、デザインが日本語として市民権を得た歴史は、そんなに古いものではないのかもしれません。デザインが領域として扱われるようになった頃の教科書では、デザインは装飾や商工業デザインとして主に認識されていたと思われますが、ユニバーサルデザインにつながる役割や機能についての説明もすでに見られます。
 その後、社会や生活のグローバル化とともに、デザインそのものの考え方が美術から巣立ち、多方面で用いられるようになると、実家であったはずの美術を牽引するかのようにエコからサステイナブルデザイン(sustainable design)にまでデザイン認識が広がり、深まっていったように思われます。
 ところが、改めて日本の伝統的な造形を振り返ると、これらの優れたデザイン認識がすでに活用されていたことに気づきます。
 畳(じょう)や間(けん)で表される方形区画や障子に代表される通気・採光に優れる日本家屋などのデザイン性について、どこかで学んだことがあるでしょう。身近にある食器・茶碗の高台や風呂敷、行李など、現代にも通じるデザインの知恵が凝縮され伝統として遺されてきました。それらは、住む人の体躯や温度・湿度などの気候風土を考慮したデザインです。私たちがものを使ってみて、これは優れていると感じたり、生活してみて、この空間はよく考えられていて住みやすいと感じたりするものすべてが「使う人の使い勝手を考えたデザイン」、つまり、ユニバーサルデザインにつながるものなのです。正倉院などの校倉造りにその結晶があるというより、私たちの日常の生活にこそ、私たち自身が良いものを認め遺してきた伝承のデザインがあったのです。時代とともに、エコやバリアフリーの考え方が生じ、ユニバーサルデザインという認識が生まれたと考えられます。
 近代の急速な科学技術の発展と人口増などから、直接に人々の快適さを求める以上に、地球規模で安定した環境保全の必要に迫られ、地球上に存在する生命が多様であることの維持と、人類が、文化や生活習慣あるいは能力的特性の違いを超えて地球をトータルデザインする必要に気づいたのです。

学び!と美術vol35_04

平成18年度版 中学校教科書「美術1 自由な心で」

学び!と美術vol35_06

平成18年度版 中学校教科書「美術2・3下 美の広がり」

学び!と美術vol35_06

平成18年度版 中学校教科書「美術2・3上 美を求めて」

 近年の中学校教科書でも、ユニバーサルデザインが取り上げられ、デザイン分野の重要な位置を占めています。現中学校「美術」の教科書では、1年「生活とデザイン」、2・3年上「だれもが快適なデザイン」、2・3年下「エコデザイン」として、21世紀を生きる子どもたちに、ユニバーサルデザインやエコデザインが必要な学びとして位置づけられています。
 デザイン教育で大切なことは、色や形、テクスチャーによる造形的な表現性を学ばせるとともに、ユニバーサルデザインなどの意味するところに気づかせることにあります。飾る・使う・伝える、そして遊ぶことを目的に作者の意図が作品に込められ、デザインを受容する側の状況をどれほど思いやったかによって、価値が創造されるという経験が大切なのです。造形的な表現には、表そうとする情報を手渡したい対象者が常にいます。その想定される対象者を推察しながら表すことに一次的な楽しさがあり、それが受容された分量に比例して二次的な表現の楽しさが生じます。

 デザインは留まることなく進化しています。ユビキタス(Ubiquitous至る所にある・遍在する)という考え方が、これからのデザインに求められようとしています。デザインの本質は、いつでも、どこでも、だれにでもその恩恵が受けられる創造の価値に行き着くのでしょう。生涯学習の中心核として美術教育の「デザイン」が機能しそうな予感があります。

導入事例 Case21

小学校2年『どうぶつさんと ぼく わたし』(4時間)
 *動物と遊んだ思い出を絵にあらわす題材です。

◎主な材料:

  • 画用紙
  • 水彩絵の具
  • パス など

◎導入の工夫:

 事前に学校の飼育小屋で飼っている動物とふれ合いました。
それだけでは動物も場所も限られていますので、絵が同じようになると思い、遊んでみたい動物や遊び、場所などをいろいろ想像させてから絵に表す活動に入りました。

T:学校にいる動物以外で遊んでみたい動物、いる?
C:いる!
ペンギン! リス! ネズミ! ヘビ! ライオン! コブラ! イルカ! モグラ! サル!…(30種類ぐらいの動物が出ました)
T:では、その動物と何をして遊びたい?
C:なわとび! 釣り! (モグラと)穴掘り競争! たたかいごっこ! バナナとり!(イルカと)水泳大会! (ゴマアザラシと)空を飛ぶ! ダンス!…(自分の思い思いの遊びを、どんどん話してくれました)
T:その遊びはどこでするの?
C:森の中! サバンナ! 海! 夜の森! ジャングル! 土の中! 木の上!…(おもしろい場所もたくさん出ました)
T:では、それを大きな紙にかいてみよう。
C:やったー!

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(M先生の実践から)

導入事例 Case22

小学校2年『くいしんぼうのなかまたち』(4時間)
 *食品パックなどの透明容器を動物などに見立て、材料の形の組み合わせや質感を生かし、作品の透過光なども楽しめるつくりたいものをつくる題材です。

◎主な材料:

  • 透明容器
  • 色紙
  • ビーズ
  • 色セロハン
  • アルミホイル
  • おはじきなどの身辺材
  • はさみ
  • セロハンテープ
  • ホチキス
  • 接着剤

◎導入の工夫:

 透明容器をお腹の空いた動物に見立て、お腹に身辺材を入れたお腹いっぱいの動物をイメージさせます。多様な容器を示して、その形から動物を発想しやすくしました。生き物の性格や性別、特徴なども想像させ作品イメージが膨らむようにしました。

T:いろんな形の容器から、どんな生き物が想像できるかな? その生き物さんのお腹は空っぽだから、みんなの持ってきたキラキラ材料を食べさせてみよう。おいしそうなものを食べさせてあげてね。
C:かたつむりに見える!目はどうやってくっつけようかな。
T:プリンの入れ物、何かに見えてこないかな。ひっくり返してみるとどうかな。
C:お腹にセロハンとビーズを入れよう。
T:材料は中に入れてもいいし、外側にはりつけてもいいよ。
C:モールをつけてクモの足にしよう。
T:このワニさんはどこに住んでるの? お友達なのかな?
C:うん!ひもをつけて散歩できるようにしたいな。

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(F先生の実践から)