学び!とシネマ

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ビューティフル アイランズ(2009年・日本)
2010.07.06
学び!とシネマ <Vol.51>
ビューティフル アイランズ(2009年・日本)
その島は、世界で最初に沈むと言われている。
二井 康雄(ふたい・やすお)
(C) 海南友子

(C) 海南友子

 美しい地球の、三つの場所の景色、暮らしぶりが、ていねいに描かれる。南太平洋に浮かぶ珊瑚礁の島ツバル。イタリア、アドリア海の海上都市ベネチア。そして、アラスカの北西部、ベーリング海峡に面したシシマレフ島。どこも美しい場所ばかりである。
 映画「ビューティフル・アイランズ」(ゴー・シネマ配給)は、この三つの場所に共通する自然の豊かさ、歴史を綴りながら、迫りくる気候変動に警鐘を投げかける。決して、声高ではない。静かに、淡々と、美しい島の現実をルポしていく。

 ツバル。21世紀中には、海に沈むといわれている国である。海抜は平均1・5メートル。毎年2月、3月ころには、8つの島全体が海水に覆われるという。
 子どもたちは元気である。今日も、海辺のヤシの木から海に飛び込んで、のびのびと遊んでいる。学校では、温暖化の影響で島が沈みつつあることを学ぶ。ある幼い姉妹は、おおぜいの家族とともに、のどかに暮らしている。お祭りには、みんなで歌い踊る。おだやかな日々に、すこしずつ、水かさは増していく。

(C) 海南友子

(C) 海南友子

 ベネチア。かつては共和国として繁栄した海上都市。サン・マルコ広場には、浸水したときのために、あちこちにすのこが用意されている。まだ幼い兄弟は、ゴンドラ乗りの父を誇りに思っている。
 ワーグナーやバルザック、プルーストが泊まったという名門ホテル、ダニエリの支配人は、ベネチアの歴史を語る。ガラス工芸の現場や、カーニバルの仮装パーティの様子が描かれる。
 11月から2月にかけて、高潮のために、町全体が水に侵される。足の付け根までの長靴を履き、水を流し出す商店の人たち。
 観光都市なのに、この高潮のせいで、ベネチアの人口は激減している。

 シシマレフ島。人口わずか600人足らず。アザラシやカリブー(トナカイ)の狩りで暮らす生活は、厳しい自然との戦いである。猟銃の手入れは、ふだんの大切な仕事である。ある夫婦は、狩りの最中に、割れた氷に落ちて死んだ息子の話をする。
子どもたちは、そりすべりやチア・ダンスで楽しそう。

(C) 海南友子

(C) 海南友子

 永久凍土に、いま、確実に変化が起きている。
 映画は、効果音や音楽はいっさい使用しない。画面は、観光映画のように、色鮮やかではない。あるがままの現実を、ゆったりとカメラに収めている。
 このあるがままの現実を、どのように捉えるかは、観客の判断に委ねられる。
 監督、編集は、「NHKスペシャル」などで、環境問題のドキュメントをいくつか制作した海南友子。監督は言う。「もし水没が進んだら、パタゴニアの氷河のように、私たちの生きているこの場所も取り戻すことはできない。永遠に」と。

2010年7月10日(土)より
恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー!

「ビューティフル アイランズ」公式Webサイトico_link

監督・プロデューサー・編集:海南友子
エグゼクティブ・プロデューサー:是枝裕和
撮影:南 幸男
撮影技術・録音:河合正樹
整音:森 英司
アソシエイトプロデューサー・編集:向山正利
2009年/日本映画/106分/35ミリ および HD
配給:ゴー・シネマ