学び!とシネマ

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ティーンエイジ・パパラッチ(2010・アメリカ)
2011.02.04
学び!とシネマ <Vol.58>
ティーンエイジ・パパラッチ(2010・アメリカ)
二井 康雄(ふたい・やすお)
c2009 RECKLESS PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED

(C)2009 RECKLESS PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED

 まだ10代のころから何かに夢中になれることは、いいことかもしれない。もちろん何でもいいという訳ではないけれども。
 ハリウッドに住む13歳の少年が、映画やミュージシャンなどのスターやセレブを追いかけて写真に撮る。もちろん肖像権は関係ない。時には隠し撮りもする。ゴシップ雑誌がその写真を買う。それが面白いテーマなら1枚1000ドル以上にもなる。撮る方はパパラッチと呼ばれる。
 フェデリコ・フェリーニ監督の50年ほど前の映画に「甘い生活」があり、その中にゴシップ記事を書く記者が出てくる。有名人にまとわりつく蚊のようなところから「パパラッチ」というのだそうだ。事故死したとされるダイアナ王妃を追いかけたのも、イギリスのパパラッチだった。
 そのパパラッチの少年、オースティン・ヴィスケダイクを描いたドキュメントが「ティーンエイジ・パパラッチ」(クロックワークス配給)だ。彼は日本でいうと中学生になったばかりの年齢だろう。この仕事は大人の世界で、まっとうなものとは思えない。
 そんなオースティンに興味を抱いたのがハリウッドのスター、エイドリアン・グレニアーである。彼は、映画「プラダを着た悪魔」でのチョイ役のあとテレビで大ブレイクした俳優だ。エイドリアンは、撮る側のオースティンにカメラを向けることで、そもそも、なぜパパラッチが存在するのかを考えようとする。
 なぜ彼が、大人に混じって夜中までこのような仕事をするのか。学校の勉強はどうなっているのか。両親はどう思っているのか。著名人とパパラッチの関係は、などなど。
 スターやセレブはパパラッチを毛嫌いするが、彼らの中には迷惑半分や売り込み半分で、心よく思ってはいないけれどやむを得ないと諦めている人もいる。もちろん、パパラッチのおかげでそこそこ有名になった人もいる。

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(C)2009 RECKLESS PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED

 両親が離婚したオースティンは、学校に通いながら父親と母親の家を行き来している。パパラッチになるきっかけは、パリス・ヒルトンをカメラで撮ろうとする群れを見てときめいたことから。そして最初に撮影したのがエイドリアンだった。
 母親は息子オースティンを信頼している。学校の勉強はちゃんとする、酒やドラッグには手を出さない、というのが条件だ。レストランでパパラッチはお断りと言われた父親は、息子のパパラッチ稼業をよくは思っていないようだ。オースティンは、「ぼくは自由だがそこには責任がある」と考えている。
 映画スターのマット・デイモンや、ウーピー・ゴールドバーグたちはパパラッチを毛嫌いしている。ウーピー・ゴールドバーグは言う。「写真を撮るならアニー・リーボヴィッツくらいの写真を」と、手厳しい。パパラッチたちは反論する。「スターやセレブは、名前を売っての仕事。そこにプライバシーはない」と。
 エイドリアンは、パパラッチの視点からスターやセレブを見ようとする。そして自らオースティンに教えを乞い、取材に同行、パパラッチの仕事がたいへんな時間と労力のいることだと感じるようになっていく。

(c)2009 RECKLESS PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED

(C)2009 RECKLESS PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED

 どのような写真が高く売れるのか、とのエイドリアンの問いにオースティンは答える。「セレブ同士が手をつないでデートしているところ」と。エイドリアンは、パリス・ヒルトンに頼んで疑似デートを敢行する。たちまちこれが話題となる。ゴシップの正体の一面だろう。
 若い人を対象にした、将来どのような職業につきたいかという調査では、上院議員や有名大学の学長になるよりも、セレブの荷物持ちになりたいという回答が上回ったという。
 オースティン自身も、子どものパパラッチという物珍しさでマスコミに出るようになる。オースティンの将来を心配した母親は、エイドリアンに言う。「こうなったのは、あなたのせいだ」と。そこでエイドリアンはあることを思いつく。 
 ドキュメントなのにいささか早熟の少年が自身の将来を見つめるという、まるで教養小説の趣。著名人が実名で現れるといった、虚実ないまぜのような展開はテンポが早くて軽快。監督したエイドリアンは、この作品でパパラッチ、セレブ、ゴシップ・マスコミという三者それぞれの立ち位置や関係を明かそうと試みる。
 オースティンはまだあどけない面持ちながらも14歳に成長し、自らの将来を夢見る。
 まだ十代で何かにのめり込むことは、本来の学業がおろそかにならない限りいいことだと思う。パパラッチよりも、たとえば報道写真家を目指すのならもっといいのだが。

2011年2月5日(土)より、新宿バルト9ico_link 他にて全国公開

■「ティーンエイジ・パパラッチ」

監督:エイドリアン・グレニアー
製作:エイドリアン・グレニアー/マシュー・クック
プロデューサー:バート・マーカス/ジョン・ロア/ロビン・ガーヴィック/リンダ・プリビル
編集:ジム・カーティス・モル
撮影:デヴィッド・セラフィン
2010年/アメリカ/95分/ビスタ/ステレオ 
原題:Teenage Paparazzo/字幕翻訳:島内哲朗
配給:クロックワークス