学び!とシネマ

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英国王のスピーチ
2011.02.24
学び!とシネマ <Vol.59>
英国王のスピーチ
二井 康雄(ふたい・やすお)
(C)2010 See-Saw Films. All rights reserved.

(C)2010 See-Saw Films. All rights reserved.

 今年のアメリカ・アカデミー賞に12部門にわたってノミネート、作品賞、監督賞(トム・フーパー)、主演男優賞(コリン・ファース)、オリジナル脚本賞(デビッド・サイドラー)の4部門を受賞した「英国王のスピーチ」(ギャガ配給)は、前評判通りの傑作である。
 吃音障害に悩む国王と、その矯正に務める言語矯正士の出会いと対立、和解を、英国らしいウィットとユーモアに満ちて描いている。それが、なんともほのぼのさわやかな感動を覚える。

(C)2010 See-Saw Films. All rights reserved.

(C)2010 See-Saw Films. All rights reserved.

 1925年。のちのイギリス国王ジョージ6世(コリン・ファース)が国王になる前、まだヨーク公だったころ、大英帝国博覧会の閉会のスピーチをすることになる。ヨーク公は国王ジョージ5世の次男で、幼いころからの吃音障害、内気な性格である。父は厳しく、容赦なく、ヨーク公を人前に立たせる。
 ヨーク公は、たどたどしく、「私は…ここに…」、「国王の言葉を…」、「預かり…」としか言えない。緊張のあまりスピーチができない。
 見かねた妻のエリザベス(ヘレナ・ボナム・カーター)は、ヨーク公とともに言語矯正の専門家を訪ねるが、いい専門家にめぐりあえない。そして、オーストラリア人のライオネル(ジェフリー・ラッシュ)というスピーチ矯正の専門家にたどりつく。ライオネルは、シェイクスピア役者に憧れてロンドンに出てきたが、夢叶わず、いまはスピーチ矯正で生計を立てている。正式な免許や資格などは、ない。
 頑固でやや型破りな性格のライオネルは、ヨーク公といえども平等に扱う。患者は診察室に来ること、それぞれ愛称で呼び合うことを宣言する。また、ヨーク公の心を開かせるためにぶしつけな質問を繰り返し、ついにヨーク公は怒りだす始末。
 ちゃんとしゃべれるようにと、ライオネルはヘッドホンで音楽を聞かせながら、シェイクスピアの「ハムレット」のセリフをヨーク公に読ませる。効果なしと思ったヨーク公は、ふと、レコードに録音されたセリフを聞くと、そこには吃音がなく驚く。

(C)2010 See-Saw Films. All rights reserved.

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 1936年ジョージ5世崩御、ヨーク公の兄が、エドワード8世として即位する。しかし、国王は離婚歴のあるアメリカのシンプソン夫人と恋に落ちる。国王エドワード8世は王の座よりも恋を選ぶ。ヨーク公はやむなくジョージ6世として国王を継ぐことになる。
 新国王はふつうに会話ができても、緊張するスピーチでの吃音はまだ治らない。戴冠式を控えて、国王はライオネルを臨席させ、なんとか無事にスピーチを終える。
 そのニュース映画を家族とともに見る国王。ヒトラーの演説もニュース映画に登場する。国王は、ドイツ国民を前にしたヒトラーの演説の巧みさに驚く。
 1939年9月。ヒトラーの率いるドイツはポーランドに侵攻、イギリスはドイツに宣戦布告、第2次世界大戦が始まる。ウィンストン・チャーチルをはじめ、政府要人の見守る中、英国国民に向けた国王の演説が始まる。
 国王に扮するコリン・ファースとスピーチ矯正役のジェフリー・ラッシュの身振り、表情、セリフが絶品。身分の相違を超えて育んでいく信頼関係が、ユーモアたっぷり、きめ細やかに描かれる。
 決して、なりたいとは思わなかったのに国王になったジョージ6世。シェイクスピア役者になりたかったのになれなかったライオネル。この二人の出会いと訣別、和解、ふれあいを通して育まれた信頼と友情のかたちに、心ふるえる。控えめながら、国王の妻エリザベスを演じたヘレナ・ボナム・カーターは、献身的に夫に尽くす役どころをさらりと演じていて、見事。
 ベートーベンの交響曲第7番の有名な第2楽章が挿入される中、自らを鼓舞し、国民の気持ちを奮いたたせようとする国王のスピーチには、だれしもが素直に感動するはずである。
 英国の王室のありようについては、いろいろな議論があると思う。映画はそれぞれの置かれた状況、立場で、いかに生きようとすればいいのかを伝え、多大の示唆に富む。

2011年2月26日(土)より、TOHOシネマズ シャンテico_linkBunkamuraル・シネマico_link 他にて全国公開

■「英国王のスピーチ」

監督:トム・フーパー
脚本:デヴィッド・サイドラー
2010年/イギリス×オーストラリア合作/カラー/ビスタ/ドルビーSR、ドルビーデジタル/118分 
原題:The King’s Speech/字幕翻訳:松浦美奈
配給:ギャガ