学び!とシネマ

学び!とシネマ

イリュージョニスト
2011.03.24
学び!とシネマ <Vol.60>
イリュージョニスト
二井 康雄(ふたい・やすお)
(C)2010 Django Films Illusionist Ltd/Cine B/France 3 Cinema All Rights Reserved.

(C)2010 Django Films Illusionist Ltd/Cine B/France 3 Cinema All Rights Reserved.

 もう6年ほど前になるが、フランスのシルヴァン・ショメ監督のアニメーション映画「ベルヴィル・ランデブー」を見た。自転車好きの孫を訓練して、ツール・ド・フランスに出場させたおばあちゃんが主人公。レースの最中に孫がマフィアに誘拐される。おばあちゃんは、三つ子のおばあちゃんたちといっしょに、愛する孫を救いだそうとする。いささかデフォルメされた映像表現ながら、ほのぼの感たっぷり。マフィアを追いかけるシーンなど、ユーモアと洒落っ気のあるアニメーションであった。
 そのシルヴァン・ショメの新作が「イリュージョニスト」(クロックワークス、三鷹の森ジブリ美術館配給)。前作「ベルヴィル・ランデブー」のタッチとちがって、老手品師と少女のふれ合いを、美しく切なく、老いと若さ、そして時代の変遷を、しっとりと描いていく。
 テレビが普及、ロック音楽が世界にあふれようとする1959年のパリ。かつては人気があったと思われる手品師のタチシェフは、今では場末のバーで手品を見せている。スカーフを使って、帽子からウサギを取り出す手品などは、もはや時代遅れ。

(C)2010 Django Films Illusionist Ltd/Cine B/France 3 Cinema All Rights Reserved.

(C)2010 Django Films Illusionist Ltd/Cine B/France 3 Cinema All Rights Reserved.

 やがて、パリから逃れるように、タチシェフは、スコットランドの離れ小島にたどり着く。やっと電気が点灯したばかりの田舎町のバーで、タチシェフは手品を披露する。それでも、素朴な町の人たちは、帽子から電球を取り出すタチシェフの手品に、喝采を送る。
 バーで働く、身寄りのない貧しい少女アリスは、タチシェフの手品に感動、夢を叶えてくれる魔法使いと思ってしまう。なんと、島を離れるタチシェフの後を追いかけていく。
 心やさしいタチシェフは、アリスから、自分の生き別れになった娘の面影を見いだす。ふたりは、エジンバラにたどり着く。そして、言葉の通じないふたりの共同生活がはじまる。
 アリスはタチシェフの世話をして、タチシェフはアリスの望むものを、魔法のように取り出しては、プレゼントする。そのようなことが永遠に続くわけはない。
 時代は変わってゆく。タチシェフの財布の中身は少なくなっていく。そんなとき、すっかり成長したアリスは、恋をする。そして、ふたりは…。

(C)2010 Django Films Illusionist Ltd/Cine B/France 3 Cinema All Rights Reserved.

(C)2010 Django Films Illusionist Ltd/Cine B/France 3 Cinema All Rights Reserved.

 カットカットの映像が、ゆったりと暖かく、優しい。アメリカ製の飛び出してくるアニメーションとは対極の静謐さである。
 原作は、映画「ぼくの伯父さん」や「プレイタイム」の監督ジャック・タチの残した脚本に基づく。老いてゆく手品師と、成長しつつある少女とのふれ合いを、詩情豊かに描いた本作は、人生には輝かしい未来もあるけれど、多くの時間を生きた人生もあることを伝えて、哀切極まる。

2011年3月26日(土)より
TOHOシネマズ六本木ヒルズico_linkほか全国ロードショー

「イリュージョニスト」

監督・脚色・キャラクターデザイン:シルヴァン・ショメ
オリジナル脚本:ジャック・タチ
美術監督:ビアーネ・ハンセン
作曲・ビジュアルエフェクト:ジャン=ピエール・ブシェ
デジタルスーパーバイザー:キャンベル・マカリスター
2010年/イギリス=フランス/カラー/1:1,85ビスタ/ドルビーデジタル・DTS/80分 
原題:L’Illusionniste(英題:THE ILLUSIONIST) 
配給:クロックワークス、三鷹の森ジブリ美術館
提供:クロックワークス、三鷹の森ジブリ美術館、スタジオジブリ、日本テレビ、ディズニー