学び!とシネマ

学び!とシネマ

おじいさんと草原の小学校
2011.07.29
学び!とシネマ <Vol.64>
おじいさんと草原の小学校
二井 康雄(ふたい・やすお)
cinema_vol64_01

(C)2010 British Broadcasting Corporation, UK Film Council and First Grader Productions Limited. All Rights Reserved.

 人間、死ぬまで勉強とか、生涯学習とか言われている。生きている限り、学ぶことには限界がない。学びたいと思う意欲があれば、それでよいのである。
 84歳、文字の読めない老人が、小学校に入学する。80歳近くも年下の子供たちに混じって、ABCから読み書きを習っていく。
 映画「おじいさんと草原の小学校」(クロックワークス配給)の舞台は、アフリカのケニア。ケニアは、イギリスの長年にわたる統治から、1957年に独立、2003年からすべての国民を対象に無償教育をスタートさせる。

cinema_vol64_02

(C)2010 British Broadcasting Corporation, UK Film Council and First Grader Productions Limited. All Rights Reserved.

 キマニ・マルゲ(オリヴァー・リンド)は84歳。読み書きが出来ない。ラジオのニュースを聞いて、勉強しようと、最寄りの小学校にやってくる。
 校長先生のジェーン(ナオミ・ハリス)に、勉強したいと頼むマルゲ。ある教師は、ノートと鉛筆2本が必要と、マルゲを冷たくあしらう。いくら断られても、何度も何度も、杖をつき、足を引きずりながら、入学を訴えるマルゲ。ズボンを子供たちのように半ズボンにしてまで、マルゲは入学を願う。
 狭い小学校である。3名くらいで机がひとつ、子供たちが優先と、周りが反対するなか、ジェーンは、何とか、マルゲの入学を許す。
 初めて文字を学ぶマルゲの表情がいい。喜ぶマルゲだが、時折、辛い過去が脳裏をよぎる。マルゲは、貧しい村の出身、教育を受けたことがない。かつて、ケニアが独立するための戦いに参加、イギリス軍によって、妻子は目前で殺害され、自身もひどい拷問を受ける。足が悪いのは、拷問のせいである。
 嬉しそうに勉強に励むマルゲだが、ことは順調にはいかない。マルゲのことがラジオで報道され、周囲の反対や干渉が露骨になっていく。ジェーン先生もまた、批判の対象となり、左遷話が持ち上がる。はたして、マルゲは、学び通すことができるのか。

cinema_vol64_03

(C)2010 British Broadcasting Corporation, UK Film Council and First Grader Productions Limited. All Rights Reserved.

 映画は、ドキュメンタリー・タッチ。じっさいにあった話に基づいているが劇映画である。マルゲに扮するオリヴァー・リンドが、過酷な過去にトラウマを持ちながら、学ぶ喜びに目覚める老人役を、リアルに演じる。
 世界じゅうのみんながみんな、なに不自由なく、教育を受けているわけではない。世界には、さまざまな事情で、小さいころからの教育を満足に受けられない人たちが、いまなお大勢いるのである。
 子供たちを前に「自由を!」と叫ぶマルゲ。勉強したいという思いを決してあきらめないマルゲ。過去の出来事は、マルゲにとって忘れることは出来ないはずである。マルゲは言う。「忘れてはならないが、前進しなくては」。
 マルゲは「私にとって自由は、学校に行き学ぶこと。私はもっと学びたい」という言葉を残し、獣医になる夢が成就しないまま、2009年に世を去る。
 マルゲの人生からは、学ぶべきことは多い。

2011年7月30日(土)より、岩波ホールico_linkほか全国順次公開

「おじいさんと草原の小学校」紹介Webサイトico_link

監督:ジャスティン・チャドウィック
出演:ナオミ・ハリス、オリヴァー・リトンド、トニー・キゴロギ 
2010/イギリス/カラー/シネスコ/ドルビーデジタル/103分
原題:THE FIRST GRADER
配給:クロックワークス