学び!とシネマ

学び!とシネマ

孔子の教え
2011.10.31
学び!とシネマ <Vol.67>
孔子の教え
二井 康雄(ふたい・やすお)
(C)2009 DADI CENTURY (BEIJING) LIMITED ALL RIGHTS RESERVED

(C)2009 DADI CENTURY (BEIJING) LIMITED ALL RIGHTS RESERVED

 およそ人間はどうあるべきか? たいへんな問いだが、孔子の「論語」のなかに、ひとつの答えがあると思う。弟子の子貢が、師の孔子に教えを請う。生涯の信条となる言葉とは、と。孔子は答える。「それ恕か。己の欲せざるところは、人に施すなかれ」。「恕」とは、思いやりのこころ、といった意味だろう。
 古今東西、普遍の真理と思う。
 今年2011年は、辛亥革命100周年、中国共産党の創設90周年にあたる節目の年。ここ数年、中国では、国策映画ともいうべき「建国大業」や「建党偉業」が製作され、興行成績は分からないが、多くの劇場で公開された。そのせいか、ふだんなら、たいていは日本より早く公開されるはずのハリウッドの大作映画の公開が遅れるという事態になったようだ。  
 節目の年ということなのか、日本では、このところ相次いで、中国の映画が劇場公開される。少林寺の歴史を辿った「新少林寺」、孫文と辛亥革命を描いた「1911」、司馬遷の「史記」を基にした京劇「趙氏孤児」の映画化「運命の子」などなど。

cinema_vol67_02

(C)2009 DADI CENTURY (BEIJING) LIMITED ALL RIGHTS RESERVED

 注目は、冒頭にあげた孔子の晩年を描いた「孔子の教え」(ツイン配給)だ。孔子は、「論語」で有名だが、その人生はどのようなものなのか、案外知られていない。意外にも、中国では、真正面から孔子を描いた映画は、これが初めてという。
 紀元前500年のころだから、ざっと2500年前、乱世の春秋時代。各地で起こる勢力争いのなか、周王朝は崩壊の危機にある。
 大国に囲まれた小国の魯の没落貴族の家庭に生まれた孔子は、乱世を憂い、魯の役人となる。
 魯の国には、殉葬といって、主人が死ぬと、使用人まで埋葬される慣習がある。孔子は、この悪しき慣習を廃止、魯の改革に乗り出していく。政治家としての才能を発揮した孔子は、やがて政治の陰謀に巻き込まれ、失脚する。
 紀元前497年。妻子や弟子を残して、孔子は放浪の旅に出る。孔子を慕う弟子は多い。顔回(レン・チュアン)が、旅する孔子に追いつく。ほかの弟子たちも、木簡を積んだ馬車とともに、孔子に合流する。弟子とともに、各国を巡る旅は、14年も続くことになる。
 映画は、史実をもとに、孔子晩年の20数年を再現する。迫力ある戦闘シーンも出てくるが、師弟同行の過酷な旅が、きめ細かく描かれる。もちろん、孔子の残した数々の有名な言葉たちが、場面場面に合わせて、効果的に語られる。
 「学を好み、死を守りて、道を善くす」、「義を見て為ざるは、勇なきなり」、「朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり」…。
 「論語」に残された孔子の言葉は、含蓄にあふれ、示唆に富む。分かりやすく解説した本も多数、出版されている。
 辛亥革命100周年の年、孔子の巨大な像が、天安門広場隣の中国国家博物館の北門前に飾られた。そして、ほどなく、撤去された。

cinema_vol67_03

(C)2009 DADI CENTURY (BEIJING) LIMITED ALL RIGHTS RESERVED

 また、ノーベル平和賞に対抗してか、昨年創設された孔子平和賞は、この秋、中止を決定。その後、孔子世界平和賞を創設するという新聞記事が出たが、これまた中止になったという。孔子をめぐって、いまの中国共産党のブレている現実が、端的に表れているようだ。
 孔子は説く。「寡きを患えずして、均しからざるを患え。貧しきを患えずして、安からざるを患う」と。世の格差、不公平が問題だ、と。 
 日本だけでなく、今、世界のあちこちで、いろんな意味での格差社会に、反対の声があがっている。そんな今、孔子の残した言葉の数々を、施政者や企業家は、改めて味わってほしい。もちろん、若い人たちも。
 筆者は、四十でも惑い、五十でも天命を知らず、六十でも耳に順わず。馬齢を重ねるばかりの不明を恥じるのみ。

2011年11月12日(土)より、シネスイッチ銀座ico_linkほか全国順次公開

■「孔子の教え」

監督:フー・メイ
製作:ハン・サンピン
プロデューサー:チュイ・ポーチュウ
脚本:チェン・ハン
撮影:ピーター・パウ
衣裳デザイン:ハイ・チョンマン
音楽:チャオ・チーピン
出演:チョウ・ユンファ、ジョウ・シュン、チェン・ジエンビン
2009/中国/中国語/125分/カラー/シネスコ/ドルビーデジタル
配給:ツイン