教育情報

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寝る子は育つか
2009.08.12
教育情報 <日文の教育情報 No.76>
寝る子は育つか
千葉大学 明石 要一

 子どもの生活スタイルが大きく変化する中、日本で言い伝えられてきた「寝る子は育つ」は今でも通用するのだろうか。
 今は夜更かしの時代だといわれる。ふた昔前までは「もう子どもの時間は終わったのだから寝なさい」というしつけがされていた気がする。しかし今はこうしたしつけは死語に近い。子どもを取り巻く放課後の世界が大きく変わっている。
 それでは、睡眠時間の「短い」子どもと「長い」子どもとでは生活スタイルはどう違っているのだろう。「寝る子は育つか」という問いに答えたい。

■睡眠時間の「長い子」VS「短い子」の特徴的なデータ

 ベネッセは、昨年全国的規模で子どもの生活時間の調査を行った。その結果の速報版が7月に出された。ここではそのデータに依拠しながら「寝る子」の意味を考える。
 ここでは、小学校高学年の睡眠時間の「短い」は8時間以下の睡眠、「長い」は9時間15分以上の睡眠、と考える。
 睡眠時間の「短い」子どもはどんな特徴を持っているのであろうか。
 睡眠時間の「短い」子どもほどテレビ視聴時間が長い。そして携帯を使っている。さらに音楽を聴く時間が長い。中高校生と同じ生活スタイルをとっている。
 睡眠時間の「短い」子どもほど昼寝をする。13%と一割を超える。この昼寝は放課後帰宅してからが多い。夕食時半分眠りながら食べた経験がある五十代以上の者には想像できないだろう。
 睡眠時間の「短い」子どもほど外遊びとスポーツをしない。外遊びを「しない」割合は36.6%(短い)> 22.0%(長い)となり、「短い」子どもほど数値が大きくなる。
 だからであろうか、睡眠時間の「短い」子どもほどぼーっとする傾向にある。「ぼーっとしない」割合は27.3%(短い)< 34.4%(長い)となり、「短い」子どもほど数値が小さくなる。睡眠時間の「長い」子どもほど何か夢中になる事柄があるのである。そして「短い」子どもは一人で過ごす時間も増える。

■睡眠の短い、長い子どものそれぞれの姿

 ここからは、これまでのデータに付け加えて両者の姿を浮き彫りにする。
 睡眠時間の短い子どもは26%とほぼ四人に一人である。彼らは寝るのが11 時と他の子どもに比べて遅い。当然ながら朝は早く起きている。そして普段の行動をみるとテレビゲームで遊ぶ時間は少ないものの、テレビ視聴時間は長く、音楽を聴いている。しかし外遊び・スポーツはしなくて一人で過ごす時間が多く、塾にも通い中学校を受験するつもりである。そして忙しいと実感し昼寝もしており、ぼーっとすることもある。また、規則正しい生活をしているとも思ってなくて、睡眠時間を増やしたいと思っている。
 しかし、彼らの将来の目標ははっきりしており、半数に近い子どもが大学以上の進学を望んでいる。実際、中学受験も3割を超える子どもが希望している。家庭では半数が自分専用の部屋をもち、パソコン、それから携帯電話を持っている。親の学歴も半数かそれに近い割合で大学卒(短大卒も含む)である。かなり裕福な家庭出身であるが、それは両親の高学歴と共稼ぎで支えられている、と推測できる。
 そこで気になるのは帰宅時間やテレビゲームなどで遊ぶ時間を決めていない子どもがいることである。
 一方、睡眠時間の「長い」子どもも25.1%とほぼ四人に一人である。彼らは睡眠時間の「短い」子どもと対照的である。寝るのは早く睡眠は十分である。テレビゲームはするものの、テレビ視聴時間は少なく外遊び・スポーツをしており、友達と交流している。塾も3 割強とそれほど通ってなくて中学受験(1 割に満たない)はあまり考えていない。そして、あまり忙しさを感じていなくて、ぼーっとした時間も少なく、昼寝も少ない(6%)。規則正しい生活をしており、睡眠時間は今のままでよいと思っている。
 確かに、将来の目標がはっきりしていないところはあり、自分専用の部屋やパソコン、携帯電話を持たないものの家に帰れば誰かが家にいる。
 睡眠時間の「短い」子どもたちの生活スタイルは、中高校生のような受験に追われ忙しくて疲れた姿である。一方、「長い」子どもの生活スタイルはふた昔前の姿のようである。
 こうした子どもの姿から、平成の時代でも「寝る子は育つ」といえる。しかしそれは四人に一人の割合である。睡眠時間の「短い」子どもも四人に一人いる。生活スタイルが二極化し始めているのが気になる。

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