教育情報

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好かれようと思うな、好きになれ
2009.12.09
教育情報 <日文の教育情報 No.81>
好かれようと思うな、好きになれ
大阪教育大学 監事 野口克海

■子どもは好きな人からしか学ばない

 新任2年目の先生たちの勉強会で、「私、今日、大変なことをしてしまったのです。」と女性教員が語り出した。
 「今、小学校3年生の担任をしてるんですけど、私のクラスに毎日、問題を起こしてくれるやんちゃな男の子が1人いるんです。今日も、給食の時間に突然立ち上がって、手にパンの切れ端を持って、私のホッペのところまで突き出しながら、”先生、パン残してええか!”と言うんです。”何を言ってるの、みんな仲良く班で食べてるのに、立ち歩かないで席にもどって、しっかり食べなさい!”と、いつもより厳しく言ったんです。そしたら、その子がね、持っていたパンをギュッと握りつぶして床にポン!と捨てたんです。”食べるものに何ということするの!許しません!食べなさい!”と言って、床に落ちたパンを無理矢理食べさせてしまったのです……。」
 助言者として、その勉強会にいた私は、新任2年目の先生の悩みとしては、面白いテーマやなあ、と思って右側にいた若い男の先生に、「あんたやったら、どうする?」と振ってみた。その男性教員は中腰になりながら、彼女に「さらのパン、残ってへんかったんか ? 」と言った。
 先生たちから「そんなんアカンわ、野口先生、何か言ってください。」という声があがったので、私は女の先生に、
「よっしゃ、2つ言うよ、1つ目、先生その男の子のこと、好きか? 」
 「好きかと言われますと……、あまり好きくありません。」
 「正直な気持ちと思うけど、子どもは敏感やから、そのこと感じてるよなあ、僕は担任の先生に好きくないと思われているって。子どもは好きな人からしか学べへんで。先生とその子の間には教育が成り立つ関係にないよなあ、どうしたらいいかは後で言う。」

■言い分けと説明は大違い

 「2つ目、先生、今から家庭訪問しておいで。今日その子はおうちの人に、学校であったこと言わないかもしれん、しかし、言うかもわからん。この頃の親、”そら先生が叱りはるの当たり前や、お前が悪い”と先生をたててくれる親ばっかりと違うで。明日お父さんが”うちの息子に地ベタに落ちたパン無理矢理食べさせた教師はどいつや ! “と言って職員室に来はったら、あんたどうするの?お父さんのとこへ飛んで行って、”いえ、お父さん、あの子は4月にこんなこと、5月にあんなことをやりまして、6月の今けじめをつけないと、と思って…”ときつい指導したことを言い分けするんやろ。だけど言われてからでは何を言っても言い分けになるよ。今から家へ行って、お母さんに今日あったこと説明しておいで、”ちょっと、やりすぎたかな、と悩んでるんですけど…”と正直に頭下げといで。きっとお母さんは、”先生、うちの子に気をつかわんと、もっと厳しく、やってください ! “って言ってくれるよ。こちらから先に言ったら『説明』、後手にまわったら『言い分け』。説明と言い分けでは大違いやで、教育は『今日行くから教育と言う』んやで。」
 「はい、分かりました。」
と彼女が立ち上がったので、
 「ちょっと待ち、説明だけで帰ってきたらあかんで……。”先生、せっかく家まで来たから、5分か10分宿題一緒にしようか ? “とその子とオデコ付きあわせて勉強みたげ。家でやったら、その子のこと好きになれそうなこと何か見つかるわ。例えば、明日学校で”あんた昨日入れてくれたお茶、おいしかったわ。やさしいとこあるんやネ”って言ったりしたら、その子は”先生、僕のこと認めてくれた”って教育が成り立つ関係をつくるきっかけになるかわからんやろ。」

■こちらから好きになること

 「さっき、子どもは好きな人からしか学ばない、と言ったけど、好かれようと思ったらダメ、子どもへの迎合になる。こっちが好きじゃないと思ってるのに、子どもが”先生のこと好き”ということもありえない。先生が子どものいいとこ見つけて、”やさしいネ”とか”すごいネ”とか、こちらから子どもを好きになったら子どもはついてきてくれる。好かれようと思うな、好きになることやで……。」
 こんな話をしていたら、素直で一生懸命に学ぼうとしている若い先生たちのことを好きになりそうでした。

著者経歴
元 大阪府堺市教育長
元 大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元 文部省教育課程審議会委員

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