教育情報

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シングルマザー親子を支援する仕組み作り
2010.05.06
教育情報 <日文の教育情報 No.86>
シングルマザー親子を支援する仕組み作り
千葉大学 明石 要一

■ 離婚率は三組に一組になる

 今、離婚する者が増えている。三組に一組が離婚をしている、といわれる。件数は年間26万件にのぼるそうである。その結果、離婚件数の8割は母親が子どもを引き取る母子家庭となる。
 私はこれまで十数年間シングルマザー親子を支援するボランティア活動を行ってきた。そこから見えてきたことを報告する。
 シングルマザー親子は全国で百万世帯を超える。そして年収の平均は220万円ほどで低い。「貧困層」といわれる者が15%いる。それはかなり母子家庭と重なる。
 このしわ寄せの典型が親子の食生活である。仕事に追われ疲れた母親はなかなか朝食と夕食の準備ができない。ついインスタントなモノや店屋物に頼りがちである。
 ボランティアのきっかけは、このシングルマザー親子の食生活を支援できないか、であった。

■ シェフたちと料理キャンプ

 フランス料理のシェフたちが作ったNPO法人がある。日本エスコフェ協会である。会員は約600名近くいる。
 ボランティア活動は、このNPOと連携して一泊二日の料理キャンプを行う。シェフたちには簡便で野外でもできるフランス料理のレシピの作成と実際の料理指導をしてもらう。
 そこには大学生のボランティアスタッフも参加し、子どもたちと遊んだり料理の手伝いもしてもらう。
 私の願いは、このキャンプで覚えた簡便なフランス料理を親子で十日に一回でよいから、レシピを見ながら作って食べて欲しい、というものである。
 この料理キャンプのもう一つのねらいは、同じ境遇の者たち同士でネットワークを作ってもらう、ということである。
 そのために、夜はリフレッシュ・タイムと称して炉端懇談会を用意した。お酒などの飲み物を用意し、夜を徹して話し合う。子どもたちは大学生たちと一緒に就寝するので母親は思う存分に食べたり、飲んだりできる。

■ シングルマザーの悩みベスト3

 この場は本音タイムである。それこそ様々な意見が飛び交う。これらをまとめると、次の3点に絞れる。

  1. 仕事が欲しい
  2. よい弁護士を教えて欲しい
  3. 学校や教員への批判

 離婚した母親の多くはそれまでに定職をもっていない。離婚をきっかけに働き始めるが正社員の口はほとんどない。一年間のみの派遣かパートぐらいである。
 多くの母親は首切りの心配がない安定した職業を求めている。正確には、渇望している。
 二つ目は、別れた元夫からの慰謝料と養育費を上手くもらえるようになりたいので、安くて優秀な弁護士を紹介して欲しい、というものである。
 実際1992年、離婚した夫から養育費の支払いを受けている者は15%にとどまる。かつて受けたことがある者16%を加えても3割に過ぎない。民事執行法の改正が行われた後の2006年でも、養育費の支払いを受けている者は19%にとどまる。
 三つ目の学校・教員への批判は耳が痛い。「どんな教員養成をしているのか」という厳しい意見を数多くいただいた。
 批判の中心は教員たちの母子家庭に対する偏見である。子どもがいたずらをしたとき、母親のしつけがしっかりしていないから、と直接に説教をされている。
 教員の多くは母子家庭の置かれた経済的な苦しさはもとより、精神的な不安定さを理解できていない、という。シングルマザーに寄り添っていないのである。

■ 公助と互助と自助の仕分けをしよう

 公助はいうまでもなく公的な援助である。今回の子ども手当はシングルマザーにとって効果的である。15%いる貧困層にとって恵みの雨である。
 互助は互助組合という言葉に代表されるように助け合いである。料理キャンプでいえば、NPO法人のエスコフェ協会であり、大学生たちのボランティア活動が互助になる。
 自助はセルフヘルプである。自力で生き抜くのである。母と子どもが公助と互助を受けながら自立への道を歩むのである。
 経済格差が著しい。15%の貧困層への支援が不可欠である。しかし、支援する仕組み作りが遅れている。とりわけ、貧困層の多くを占めるシングルマザー親子の自立を進める支援が断片的である。
 教育においては、放課後の子どもの「遊びと勉強」を総合的に支援する仕組みを早く作り上げていきたいものだ。

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