教育情報

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国際交流から見えるもの
2010.06.09
教育情報 <日文の教育情報 No.88>
国際交流から見えるもの
静岡文化芸術大学顧問 元静岡県教育長 杉田 豊

■ 中国・上海万博が開かれている

 史上最大の240余の国と地域、国際機関が参加している。1970年、月の石で話題を呼んだ大阪万博の6400万を上回る過去最大の7千万人の入場者を見込んでいる。
 北京五輪を成功させ、世界第2 位の経済大国に駆け上がり、万博を成功させる。日本が40年前に歩んだ道を走り抜けようとする中国。
 胡錦濤国家主席は、「中華民族5 千年の輝かしい文明と改革開放30年余の成功」を示す場と位置付け、中国の存在感を示す一方、「より良い都市、より良い生活」をテーマとし環境を意識した万博をアピールしている。

■ 日中青年の相互交流

 静岡県は、中国・浙江省と4半世紀にわたり姉妹提携を結び、青年たちの交流を図っている。昨年も、(1)「青年相互の理解と友好の促進」、(2)「その経験を生かし、次代を担う地域リーダーの養成」を目的とした「ふじの翼グローバルリーダー養成事業」を実施した。
 応募資格は、18歳(高校生は除く)から概ね35歳までとし、募集人数は25名。年間6回の国内講座を実施し、メインに海外交流(浙江省)をすえ、さらに、浙江省の青年を静岡に迎えて親交を深めるというプログラムである。
 交流を通して青年たちの心に深く刻み込まれるのは、「友情」であり、「信頼」関係である。ホームステイが大きな役割を果たすが、活発な「シンポジュウム」も交流を超えた新たな人間関係を生むことに貢献している。

■ シンポジュウム

 シンポジュウムのテーマは、世界の関心事である「環境」、「格差社会」のほか、「就職」、「恋愛」等日常茶飯に及ぶ。今回のシンポジュウムを通して、両国青年の意識に大きな違いがあることに気付いた。その第1 は、浙江省の青年は、個人より、国の未来に関心が強く、どのように発展させていくか、環境問題を克服し、格差社会にどう対処していくかなど国の抱える課題に話題が集中する。一方、静岡の青年は、個人が思考の原点であり、今、自分のできることは何か、今後、何をなすべきかを考え、その上で、自らの夢を語り、社会の在り方に言及するスタイルをとる。
 具体案はないものの浙江省の青年の課題の捉え方の大きさに静岡の青年は敬意を表し、逆に、浙江省の青年は静岡の青年の堅実な思考に感心するといった具合である。

■ 海外交流で得たもの

 参加者の一人 Iさん(女性)は、報告書に次のように記している。帰国後、NHKでドラマ「坂の上の雲」がスタートした。時代は100年以上違えど、杭州で出会った若者の内には、この主人公と共通する、一種の「希望」が宿っていたように思う。少なくとも、日本の若者が到底感じることのできないであろう、「国民としての未来への期待感」を秘めているように感じた。
 そして、杭州の若者に共通していたものは、「上昇志向」と「キャリア意識」の強さであったという。社会人として活躍しているとはいえ、30代の若者が、「日本から浙江省にどんどん投資してください」といった国を俯瞰し、かつ「一人ひとりが国を発展させることへの責任と期待を負っている」という自覚には心底驚きであったとも記している。
 その一方、上海では、バスの窓越しに、赤ちゃんを背負い物乞いをする人を目の当たりにし、経済の発展途上の狭間にあって、想像もできないような苦渋を味わっている人の存在を知る。

■ 国民の幸せとはなにか

 4月末、内閣府が初めて調査(3月)したという、国民の「幸福度」についての発表があった。調査は15 歳以上80歳未満の4千人を対象に、「とても不幸」を0 点、「とても幸せ」を10点として自分の現状を採点したものである。
 回答者の平均は6.47 点で、同様の調査を行っている欧州各国の結果(2008年)に比べると、社会保障制度が充実しているデンマーク(8.4点)、英国(7.4点)、フランス(7.1点)よりも低い。中国のデータがないので詳細は不明であるが、出会った杭州の若者は、幸福度こそ高くはないものの、前向きで日々の生活に「充実感」をもっていることは間違いない。彼らには夢があり、現状を少なくとも不幸だと思ってはいない。

■ 相互交流から相互理解へ

 2000年に日本語の「かわいい」が台湾経由で中国語になったという(『中国と日本』王敏著)。2006年には中国語に新語「特萌」が登場した。「チョー(超)、カッコイイ」の意味で使うという。日中両国の交流は進み、相互理解も深まっている。しかし、草の根の交流を通して実感することは、日中の文化、思想の大きな違いである。この違いを理解し、認めあうことが何より大切なことである。それは、「共に」「同じ」という価値観ではなく、「共に」「異なる」という認識を共有することである。
 21世紀は、アジアの時代でもある。隣国の中国とは、良きパートナーでなければならない。そのためには、若い人たちの相互理解が欠かせない。

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