教育情報

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教育界に黒船(デジタル)来る!
2010.07.08
教育情報 <日文の教育情報 No.90>
教育界に黒船(デジタル)来る!
大阪教育大学 監事 野口克海

■ 教科書、教材のデジタル化

 「教科書のデジタル化」計画が急速に進んでいる。
 原口一博総務大臣の政策「原口ビジョン」は、2015年までに「デジタル教科書を全ての小中学校全生徒に配備」を掲げた。
 また、2010年度(今年度)総務省予算には「ICTを使った協働教育の推進」に10億円が盛り込まれた。
 文部科学省も4月からデジタル教科書や教材にICT(情報通信技術)を活用した教育を推進するための「学校教育の情報化に関する懇談会」を開催し、6月までに6回も会合を重ねるなど来年度の概算要求に向けて急ピッチで総合的な検討をすすめている。
 文部科学省の鈴木寛副大臣の著書(「コンクリートから子どもたちへ」講談社)には、「日本の教科書は薄いといわれますが、デジタル化すればいくらでも増やせ、しかもレベルによって必要な部分を自由に使えるようになるわけです。また動画や大量のワークシートも入れられるし、ドリルも入れられるし、教員が自由に編集できるので、教員が一人ひとりにとって必要な部分を提供することもできます。」と述べられている。要するに、教育の基本は「サービス」であり、一人ひとりのニーズに合ったサービスを、必要とするタイミングで提供することが大切であり、学習の個別化・個別化対応が必要だというのである。
 近い将来、小中学校の授業風景は間違いなく大きく変わることになろうとしている。
 社会の情報化が進む中で、「いずれはこうなるだろう」という予感はしていたが、「いずれ」ではなく、今、まさに劇的な変化が起ころうとしている。まさに黒船の来航である。

■ 攘夷派と開国派?

 ペリーが黒船でやって来た時「太平の眠りを覚ます上喜撰、たった四杯で夜も眠れず」と人々は大騒ぎした。
 大騒ぎをして、尊皇攘夷派と開国派に分かれて国内が混乱に陥った。
 今の学校現場は黒船が来る前後とよく似ているのではないか。学校現場には、もうすでに電子黒板をはじめたくさんの情報機器が配備されている。そして、パワーポイントなどを活用した授業も多く行われている。
 しかし、それと、全ての小中学生がデジタル教科書を持つのとでは意味が違う。
 そうなると、本格的に攘夷派と開国派に学校の教職員が分裂することになりかねない。若い先生たちを中心に、コンピュータの操作が得意な人たちはデジタル化に賛成して、積極的に推進するだろう。一方で、今だにチョークと教科書だけで授業するインターネットの苦手な先生たちも存在する。学校現場がデジタル派とアナログ派に分裂しては困る。

■ 教育の本質論議を

 アナログ派にはアナログ派の言い分もある。デジタルは単なる道具であって、教育の手段の一つにしかすぎない。
 教育とは本来、人と人とのつながりであり、子どもたちの仲間づくりであり、教師の子どもたちに対する熱意であり、愛であり、涙なんだ。デジタルなんかに教育されてたまるかというプライドもある。
 それはそれで分かるが、「私はアナログ派よ! 」と言って開き直っている先生は、竹槍で黒船とたたかっているようなものだと自覚して欲しい。デジタル化に対応できるように勉強してもらうか、やめていただくしかない。
 しかし、最近の学校現場を見ていると、若い先生の中に、インターネットを自由に操作できることで、自分は優秀な教師であると得意がっている人がいる。そして、保護者や生徒から苦情があると、すぐ「親が悪い、子どもが悪い」と言う。家庭訪問もせずに携帯やメールで済まそうとする。板書もほとんどせずに、映像だけ見せて説明している。それでは子どもたちに学力は定着しない。
 アナログの良い点は教育の世界でもしっかり守り、大切にしていかなければならない。と同時にデジタルのすばらしい面を上手く活用していかなければならない。
 両者の良い面が学校現場で生きて働くようにするために、教育の本質論議が求められている。

著者経歴
元 大阪府堺市教育長
元 大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元 文部省教育課程審議会委員
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