教育情報

教育情報

『生徒指導提要』の活用
2010.09.13
教育情報 <日文の教育情報 No.92>
『生徒指導提要』の活用
東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英

■ 生徒指導の課題と『生徒指導提要』

 子どもの意識と行動が大きな変化をみせている。平成21年12月1日付け朝日新聞は、「小中高生の暴力6万件」という見出しを掲げ、一面トップで問題行動の状況を取り上げている。
 ここでは、子どもの暴力行為について、「この数年の急増ぶりについては、学校現場も含めて答を見出せないでいる。」としている。改めて指導の見直しをすることが各学校の重要な課題になっている。
 これまで、学校における生徒指導の基本を示すものとしては、昭和40年発行『生徒指導の手引き』、昭和56年の『生徒指導の手引き(改訂版)』があった。このたび、内容を一新する形で(平成22年3月)、小学校段階から高等学校段階までの生徒指導の理論・考え方や具体的な指導方法等を示す基本書として、『生徒指導提要』(以下『提要』と略記)が作成された。そこには、これまでの実践、最新の情報・知見を踏まえる形で、いま求められる生徒指導の内容が網羅的に盛り込まれている。
 『提要』には生徒指導の意義と課題が明示されるとともに、児童生徒の発達に関する課題と対応、インターネット・携帯電話にかかわる課題、児童虐待への対応なども取り上げ、学校における実際の指導・対応に役立つものとして全体が構成されている。それはそのまま、すべての教職員にとって、生徒指導を進めていく上で必要とされる内容である。
 『提要』の「まえがき」では、同書が生徒指導を進める上での基本書として、児童生徒にかかわる全教職員、教育委員会を始め多くの関係者などに読まれ、具体的な指導や研修に活用されることで生徒指導の一層の充実が進められることへの期待が述べられている。
 いま、学校教育に対しては、すべての子どもの健全育成と同時に、いじめ、暴力行為等への指導・対応など個別の問題への効果的な対応が求められている。『提要』はそうした指導改善に役立てられ、指導充実が図られることが期待されている。

■ 『提要』の特徴と活用の際の留意点

 『提要』には生徒指導の理論、基本的な考え方、実際の指導までが盛り込まれている。具体的な課題に関する対応なども視野に入れ、踏み込んだ記述がなされているところに、この『提要』の特徴がある。活用に当たっては、目的・内容に関して共通理解を図り、それぞれの学校の実態を踏まえ、自校の生徒指導の活性化に役立て、すべての教職員の生徒指導に関する指導力の向上に役立てるという点に留意したい。
 すべての教員に生徒指導の基本を身につけさせ、指導体制を確立させるためには、次の点に重点をおき、『提要』を活用することによって、生徒指導の基本、現実的な課題を押さえた教育活動を目指すことが重要である。
 ①生徒指導の重点と指導計画、その展開の見直し。
 ②個々の児童生徒の抱える課題、問題行動等の対応の見直し。
 ③指導体制及び家庭、地域、関係機関等との連携体制に関する見直し。
 ④最近特に課題になっている内容の実態把握とその対応に関する見直し。
 生徒指導を効果的に推進するためには、児童生徒の変化と自校実態の把握、いま求められる生徒指導の基本の理解に立ち、すべての児童生徒の人格のよりよき発達、個々の特性に応じた個別の指導・援助を目指して、全校指導体制を確立することが重要である。

■ 学校管理職として配慮したいこと

 学校管理職の立場からは、『提要』の趣旨・目的について全教職員の間で十分な共通理解を図ること、その活用によって、指導組織を通じ自校の実態を捉え直すこと、そこに示される趣旨を踏まえて指導の基本方針を策定し、次の点を中心に効果的な指導を展開することが重要な課題となっている。
 ①学校が現在当面している課題、克服に必要な取組、重視している内容などを明確にし共通理解を図る。
 ②各学年、各係ばらばらの取組では効果は上がらない。一貫性のある指導、組織的な指導を目指す。
 ③全教職員の間で、実際に指導を行う機会として、教科等、特別活動、道徳の時間など、その内容と特質について確認する。
 ④生徒指導の組織及び各担当の内容を確認する。それぞれが担当する役割の把握とあわせて、連絡・調整の機会、運営に関しても確認する。
 ⑤家庭、地域の関係団体、関係機関等との連携について、連携に関する基本的なことと同時に、担当者が留意すべきことについて確認する。
 ⑥生徒指導に関する研修の充実を図る。新しい事態への対応、校内指導体制の確立、連携体制の充実のために、指導力向上のための研修を重視する。

日文の教育情報ロゴ