教育情報

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この夏 驚いたこと
2010.10.07
教育情報 <日文の教育情報 No.93>
この夏 驚いたこと
大阪教育大学監事 野口 克海

■ 「元気のでる話をして下さい」

 例年のことだが、夏休みは教職員の研修会がたくさん、たくさん開かれる。
 おかげで私も、全国各地を走り回ることとなった。
 県も市も学校も、まるで合言葉のように「元気のでる話をして下さい」と言われる。
 この傾向はここ数年、どんどん増えてきている。
 「こういう研修会をやめて、先生方をゆっくりさせてあげるのが正解でしょ?」と心の中では思っているのだが、声に出してはよう言わない。
 教職員は間違いなく、忙しくなってきている。
 「学力向上」「教員の資質の向上」「評価のあり方」「子どもの多様化と個別指導の増加」「保護者との対応に時間がとられるようになったこと」等、数えあげればきりがないほど課題は山積している。
 仕方がないので、先生方が居眠りしないように、笑ってもらって、泣いてもらえるような体験談を中心に舞台の上で身振り手振り、力を込めて話をしてきた。
 「驚いたこと」というのは、このことではない。この傾向は想定の範囲内のことである。

■ 泊まりがけの親睦旅行が消えてきた

 驚いたのは次のことである。
 「給料から毎月、積み立てをして、1年に1回でいいですから全員の教職員で親睦旅行をしている学校の先生、手を上げて下さい」と言ったら、どの会場でもほとんど手が上がらないことである。
 「全員の教職員が泊まりがけで、みんなで温泉に入って、裸で、背中を流しあいしながら、”この1年間お互いによう頑張ったなあー”と言いあって、夜中じゅう飲み明かすって大事なことでしょ?」と重ねて言うと、笑いは起こるが、首は横に振っている人がほとんどである。
 講演が終わってから控え室で話をしていると、「親睦旅行はやっているのですが、全員が参加するのはムリですね…希望者だけでやってます」「泊まりがけは集まりません。夜の懇親会でも、参加するのは半数ぐらいですよ」という学校もある。
 「私たちが若い頃というのは、学校の親睦旅行は、必ず全員参加するものと決まってましたよね、親の不幸でもない限り…」と言うと、50代の先生は皆、あいづちを打つ。
 「裸のつきあいっていいですよね、洗い場に座っている校長先生のうしろに行って、
“校長先生!背中流します”
“おう、ありがとう”
 石鹸の泡だらけのタオルで背中をこすってたら自分の親父みたいな気持ちになったりして…なつかしいなあ、背中を流した先輩の姿、今でも、たくさん思い出しますよ」
 「先生、そういうつきあいは無くなってきましたねえ」という答えが返ってくる。

■ 2・6・2の原則

 何かの本で読んだことだが、組織というのは、2割の前向きなリーダーがいて、2 割の足ひっぱりをする人がいて、中間派は6割ぐらいに分かれるものだそうだ。
 市内の各学校の前向きな2 割のリーダーばかり集めた学校もまた、その学校の中で2・6・2になってしまう。
 中間派の6割をどちらの2割の人たちがひっぱり込むかによって、元気のある組織になるかどうかが決まるらしい。
 2+6の8割が、「みんなでやろう!」と言えば、あとの2割は嫌でもついてくる。
 泊まりがけの親睦旅行が激減したのは、「そんなん、やめとこ」と個人的な事情をあげて反対する2割の人が6割の中間派をひっぱり込んだからにちがいない。
 良い伝統は復活させなければならない。
 教職員が仲良しでなくて、どうして元気のある学校がつくれるのですか。
 教育はチームでするものです。
 学校なんて、教師次第です。和気あいあいのなごやかな先生たちの学校は、必ず子どもたちも、笑顔の学校になる。
 ぜひ、今月から積み立てを復活する学校をふやして欲しい。

著者経歴
元 大阪府堺市教育長
元 大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元 文部省教育課程審議会委員

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