教育情報

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中山間地の小中一貫教育校から見えてきたもの
2010.10.18
教育情報 <日文の教育情報 No.94 臨時号>
中山間地の小中一貫教育校から見えてきたもの
前日向市教育委員会教育長 宮副 正克

■ 地域と学校の現状をみつめて

 現在、私はコミュニティ教育論を学びつつ、今までの教育実践と理論の狭間で、改めてマクロ的視野から「学校と地域」の関係に課題を感じている。
 わが国の中山間地では、若年層の減少と地域全体の高齢化が深刻で、「ムラ」「マチ」の形態や地域コミュニティ形成にも変化が見られ、各地方自治体はその対応策に苦慮している。当然ながら、学校も児童・生徒数減少が著しく、学校再編問題が課題となり地域全体が沈滞する雰囲気にある。特に、中山間地の学校と地域の関係は、歴史的にも学校が中心となって地域活動や文化活動の側面を担ってきている事情があり、地域住民の精神的な支えともなってきている。今こそ、現状に対処する「何らかの」自助・共助・公助のアクションが必要となってきている。

■ 学校と地域の活性化をめざして

 中山間地にあるM地区に、平成9年度から、学社融合の教育を実施。生涯学習審議会答申や中央教育審議会答申による、「生きる力」を育むための「学校・家庭・地域社会」の一層の連携・強化を背景に教育環境の整備に努めることとした。まず、学校の体質として「開かれた学校」運営の改善充実に努めながら、「地域社会を学校の中へ引き込む」「学校を地域社会の中へ引き出す」双方向性を生かす教育課程の編成、教育活動の工夫など、可能な限り小中連携の教育活動を基盤にその実践の場を意図的・計画的に進めた。地域住民の授業支援、学校行事等の参加。学校からは、地域ごとの「土曜寺子屋学習」に出向き、教師、児童、生徒ともに、地域住民のゲストティーチャーによる郷土の歴史、伝統芸能文化などを教わり地域の風土にふれ、地域との連帯感を実感できる環境づくりに努めた。このことは、「地域の子どもは、地域で守り育てる」という地域住民の意識高揚の契機ともなった。
 また、推進母体は、「町づくりネットワーク」の構成員に学校関係者が加わる組織とし、地域全体の視点から、連帯感と協業体制の確立が一層深まった。このような考え方は、全市的に拡充することとした。

■「おらが学校」と地域コミュニティづくり

 H地区も、小規模化する小中学校の現状に、地域住民の間では、近い将来市街地の大規模校に吸収合併されるとの危機感が常に漂っていた。と同時に、地域の一層疲弊する要因となることへの危機意識も敏感に反応していた。現状打開策の一環として、平成17年度内閣府による構造改革特区の認定を受け、平成18年4月全国に先駆けて小中一貫教育校を開校した。9か年を見通したきめ細かな教育指導により、生徒指導、学力向上の充実、適正規模の学校の構築と安定した学校生活の確保など新しい教育システムの充実をめざすこととした。元々、構造改革特区制度は、各地域の特色を生かす地域振興策としての法的規制緩和措置である。願わくば、「地域興し」と学校再編の課題を「地域づくりと学校づくりの相関関係」において実現できないかとの思いを強くしたのである。
 地域に学校の必要性を共有してもらうため、小中一貫教育校の運営に当たっては、コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)方式とした。学校・保護者・地域住民が、当事者意識をもって学校運営に参加し、「おらが学校」の意識のもと、現在、三者による各実行委員会組織が地域力としての機能を発揮し、学校づくりが進められている。
 この行動を通して、一方では、地域住民間のコミュニケーションは、点から線、線から面へと連携を深め、広域化した新たなコミュニティへの構築が始まっている。小中一貫教育校の開校は、新しい教育システムの構築と同時に、地域コミュニティ形成の有効な手段ともなりつつある。

■ 小中一貫教育校が地域と共にあるために

 中山間地の小中一貫教育校は、中学校を中心に各小学校区が一堂に集結する場となっている。このことは、新しいコミュニティの場づくりでもある。学校と地域の双方の関係を大切にし、学校は、教育資源としての地域力を活かす必要がある。そのためにも、

  1. 学校経営の面(教育目標の周知、学校評価、運営参加要請など)
  2. 教育活動の面(地域素材の教材化、人、物、自然、産業などの活用)
  3. 地域活動の面(地域伝統文化の継承、安全安心の社会規範の醸成、コミュニティの形成など)

など、多様な面から考えて、豊かな発想を起こし、「今こそ大切なもの」を見失うことなく、学校と地域が共に行動する中で、双方が「何とかしなければ」を合言葉に、再生の道が築かれることを願っている。このエネルギーこそが必要な時である。日文の教育情報ロゴ