教育情報

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体験不足はなぜ起こるか
2010.12.20
教育情報 <日文の教育情報 No.96>
体験不足はなぜ起こるか
千葉大学 明石 要一 

■ 自然体験10年間で減少

 虫取りや海・川で泳ぐといった体験は45歳以上の人は当たり前であった。それがこの約10年間で大幅に減少していることが国立青少年教育振興機構の調査でわかった。
 調査は今年の1月から2月、全国の小中高校の児童・生徒約1万8800人を対象にしている。
 小学校4年と6年、中学2年への調査で、「チョウやトンボなどの昆虫を捕まえたこと」が「何度もある」か「少しある」と答えた割合は59%で、前回同じ質問をした05年度に比べて6ポイント減少。1998年に比べて22ポイント減だった。
 「海や川で泳いだ」は09年度が70%で05年度に比べ4ポイント減、98年度と比べると20ポイントも減った。「キャンプをした」も09年度は44%で、98年度に比べると17ポイント減少。
 同機構は幼少期の体験がその後の人生にどんな影響を及ぼすか調べるため、09年11月~12月に、小中高生約1万1千人を対象にした別の調査を実施している。それによると、小中学生の頃体験量の多い高校生は、規範意識が高く、職業意識も高い。さらに人と関わるコミュニケーション能力も高い、という結果が出ている。

■ 子どもの歩数が減った

 子どもの体験不足の背景には放課後の世界が消えていることがいえる。具体的には、子どもの歩く歩数が減っている。
 東京都によれば30年前、1日に約2万7000歩あった子どもの歩数はここ30年で半減し、今や1万3000歩までになっている、という。
 私が3年前に行った小学校5年生を対象にした調査(月曜日から金曜日までの5日間の平均)では約1万歩であった。ほぼ同じ結果である。
 日経新聞によると、東京都の荒川区にある区立三峡田小学校は昨年から年に2~3回「ミリオンウォーク」期間を設け、1日に1万歩以上歩くように促している、という。
 東京都は子どもの歩数の少なさに危機意識を抱き、今年の7月に子どもの体力を高めるには1日に1万5000歩相当の活動が必要とのガイドラインを公表している。
 「万歩計」は、商標登録されている言葉だが、そこには健康を維持するには1日に1万歩、歩きましょうという願いが込められている。実際、5千歩ほど歩くと汗がにじんでくる。その2倍歩くとかなりのエネルギーの消費になる。「1万歩」は理にかなった歩数のようだ。

■ 中山間地域では学校の遊びが必要

 子どもの歩数の減少は都市部に限ったものではない。中山間地域ほど歩数が減っている。車社会の普及で歩く機会が少なくなっている。親たちはつい便利な車で送り迎えしがちである。
 以前、団地と住宅地、それから自然が豊かな農山村地域の子どもを対象に、放課後どれぐらい遊んでいるか調査したことがある。
 先に結論をいうと、一番遊んでいるのは団地の子どもたちであった。次が住宅地の子ども。一番遊んでいないのは農山村地域の子どもたちである。仮説が裏切られた記憶がある。
 農山村地域の子どもは放課後は屋内に閉じこもっている。家の周りには友達がいないのでテレビと漫画、それからテレビゲームを友達にしている。
 一番遊んでいたのは団地の子どもたちであったが、それは家の近くに友達が多いからである。「遊ぼうぜ」と声をかければ、集まる友達がいたのである。
 子どもの歩数を多くするには、放課後子どもたちが集まる居場所づくりが欠かせない。つまり、地域の中で子どもの人口密度を高くするのである。
 放課後がすたれつつある今、地域の放課後の居場所づくりと共に、子どもの人口密度が高い学校での外遊びの復活が必要である。とりわけ、中山間地域では学校での遊びを見直したいものである。
 東海大学の小沢治夫教授によれば、あまり歩かない子どもは「体調が悪い」「寝付けない」「便秘になる」「やる気がない」という。
 歩くことは体力だけでなく、体調、それから気持ちにまで影響を与えるのである。歩かないと長い間、直立不動の姿勢がとれなくなる。夏休み明けの朝礼では、多くの小学校では子どもを体育座りにさせている。
 地面を強く踏む。しかも親指に力を入れて地面を踏む。こうした機会が減っているから、体を静止した姿勢がとれない子どもが増えている。早速、歩数計を付けて歩こう。
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