教育情報

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教師の指導力をどう高めるか
2011.08.12
教育情報 <日文の教育情報 No.103>
教師の指導力をどう高めるか
東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英

■ 緊急課題としての指導力向上

 学校を支える教師の指導力の重要性が改めて強く認識されるようになっている。理由は二つある。
 第一は、新学習指導要領の完全実施である。そこで求められているのは、単なる知識や技術の伝達ではない。生きる力を育てる学校が目指されるのである。基礎・基本の徹底と同時に、主体的に学び学習を自ら展開していく力の育成が求められている。社会の信頼に応える学校づくりには教師の指導力が欠かせない。そこでは高度の指導力が要求される。教師の指導力をどう向上させるかが緊急の課題となる。
 理由の第二は、こうした動きについていけない、指導力不足の教師への対応という課題である。
 効果的な取組のためには、まず、いま求められる教師の資質能力を明確にする必要がある。
 平成19年7月の文部科学事務次官通知「教育職員免許法及び教育公務員特例法の一部を改正する法律について」には、指導力不足に関して次のことが示されている。

①教科に関する専門的知識、技術等が不足しているため、学習指導を適切に行うことができない場合。
②指導方法が不適切であるため、学習指導を適切に行うことができない場合。
③児童等の心を理解する能力や意欲に欠け、学級経営や生徒指導を適切に行うことができない場合。

 裏を返せば、これこそが、いま求められる教師の指導力ということになる。こうした指導力をどう向上させるか、各学校における教師の指導力の実態を分析的に捉え、その改善・充実のための効果的な取組を施策に位置づけ、実施に移すことが求められている。

■ 求められる組織的な対応

 教師の指導力に関して問題の生じたA小学校の場合である。B教諭の担任する学級では、学習規律が確立されず、雑然とした雰囲気の中で学習活動が行われるようになった。やがて学習活動に加わらない児童が4、5人になり、そのことに対し保護者から強い批判が寄せられた。保護者の抗議を受け、その解決に向け、校長はB教諭への直接の指導を開始した。
 ここにはいくつかの問題点がある。
 第一は、保護者の批判を招くに至るまで、事態の把握、改善のための有効な対応が遅れている点である。第二がB教諭に対する組織的な対応体制の不備の問題である。第三は、全教師の指導力向上のための、日常的な研修体制の確立の問題である。
 対応の重点は三つに絞られる。
 第一は、指導改善に機能するPDCAシステムを確立し、教育活動を組織的に評価点検し、保護者と課題を共有して改善に取り組む体制を確立することである。
 第二は全教職員の間で指導向上を図る、そのための研修体制の確立である。
 第三は管理職を中心に、指導力に課題を抱える教師に対し指導助言を行う重層的な体制の確立である。
 全校体制の中で、いま児童生徒につけようとする力を明らかにする。目標実現のための指導組織を整備し、目標実現に向けて全教職員の力を統合し保護者と課題を共有する。課題解決に向けて取組を進める中で、教師の指導力向上を図るのである。各学校に求められるのは、全教師の指導力向上に着目するPDCAすなわち計画→実践→評価→改善を根底に置く取組であり、その取組を支える校内研修の実施である。

■ 指導力向上のための創意を生かした取組

 平成23年1月、中央教育審議会<教員の資質能力向上特別部会>における審議経過報告「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」が公表された。
 ここでは、現職研修について、これを支援する方向で改革を進めることが基本方向として示されている。その実施内容・方法については、個別的・協働的な学習をより重視する方向で見直しをすることが重要とされている。
 これからの教育を担う教師に対しては、授業力とともに様々な教育課題に適切かつ柔軟に対応できる力量を備えるよう支援していくことが必要になっている。
 高度の指導力を身につけさせる仕組みを整えることは相当な難題である。というのも、近年、教師の生活が非常に多忙になっているからである。まず、教師がそうした指導力を向上させるための余裕をつくりだす努力が重要である。同時に多様な研修の機会を整備することが求められる。
 「審議経過報告」では、教育センターや身近な施設に対し、カリキュラム開発や先導的な研究の実施、教師が必要とする図書・資料等のレファレンス・提供などを行うことにより、教師の教材研究や授業研究、自主的研修を支援することを求めている。各学校、教育委員会、関係機関等が連携して、こうした教師への支援体制を整えることが強く期待されている。
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