教育情報

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ソーシャル・キャピタルの醸成と教育委員会の役割
2011.09.12
教育情報 <日文の教育情報 No.104 臨時号>
ソーシャル・キャピタルの醸成と教育委員会の役割
(財)宮崎文化振興協会理事長 田原 健二

■ 地域コミュニティの形成とソーシャル・キャピタルの醸成

 地域コミュニティの形成において、ソーシャル・キャピタルの醸成と地域社会の課題への対応力との関係性が注目されている。
 ソーシャル・キャピタルとは、『人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「互酬性の規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴』と一般的に説明されている。信頼関係や相互扶助の慣行、人的ネットワークといった人々の協力関係を促進し、社会の機能を円滑に機能させる諸要素を資本(キャピタル)に見立てた概念であり、地域住民相互の“関わり合い”の指標と言える。
 また、ソーシャル・キャピタルの醸成と地域活動の活性化には、互いに他を高めていくような関係、すなわちポジティブ・フィードバックの関係の可能性も指摘されている。

■ ソーシャル・キャピタルの醸成と地域社会の教育力

 ソーシャル・キャピタルの醸成が地域コミュニティ形成の基盤になる可能性が指摘されるが、地域社会の教育力の活性化には、一般に次のサイクルが有効である。

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 ①は、地域社会の教育力を活性化するきっかけを発見する場面、例えば学校評価などにより明らかになった児童生徒に関わる課題を地域と学校が共有する場面などである。
 ②は、地域住民が地域課題に取り組む過程で地域社会に対するアイデンティティを高めていく場面である。地域と学校の双方向での連携促進は、児童生徒や保護者・地域住民に地域社会に対する関わりの深まりや地域社会の一員である自覚の高まりを期待できる。
 更に課題解決の成功経験によって地域づくりの意欲向上につながっていくのが③であり、行政と地域住民との協働が期待される。④は、実践発表などを通して、課題解決の方法を地域と学校が共有化しシステム化を図る場面である。学校運営に住民が参画する仕組みづくり等が位置づけられる。
 なお、①から④の各場面は、ソーシャル・キャピタルの醸成とポジティブ・フィードバックの関係であることからスパイラルなサイクルになると考える。

■ 多様・柔軟な学校運営協議会(コミュニティ・スクール)の設置

 地域社会の教育力を地域コミュニティ形成につなげる一つの方策として、地教行法第47条の5に規定されている「学校運営協議会」の設置があげられる。学校運営協議会の設置は、保護者・地域住民が一定の権限と責任を持って主体的に学校運営に参画することにより、学校を核とした地域社会づくりの広がりが期待されているものである。
 学校運営協議会は、指定学校ごとに設置することとされているが、地域自治組織(宮崎市で設置している地域自治区など)の仕組みの中に、学校運営協議会の内容を組み込んだ、いわば「地域自治組織立のコミュニティ・スクール」など地域の実情に応じた多様・柔軟な在り方が構想できる。地域内の各小中学校と地域が連携協力することによって「縦のつながり」と「横のつながり」が更に深まり、児童生徒の発達課題に応じた「地域とともにある学校」が実現されると考える。

■ これからの教育委員会の役割

 地域住民が学校運営協議会を通して学校運営へ参画し、学校づくりに関わることは、地域社会のソーシャル・キャピタルを醸成する契機になり、地域コミュニティの形成に影響を持っていると考えられる。
 また、学校運営協議会は、「当該学校の職員の採用その他の任用に関する事項」について、任命権者に対し市町村教育委員会を経由して意見を述べることができる。このことは、特色ある学校づくり、地域づくりを実現する上で重要な条件整備であると考える。
 これらのことから、教育委員会には、地域社会のソーシャル・キャピタルの醸成の支援や地域住民の学校に対する期待の的確な把握、それを教育行政に反映させる仕組みを構築することが望まれる。さらに、地域住民の人事面での要望をいかに調整するかも重要な役割の一つとなると考える。
 これからの教育委員会には、特色ある学校づくりとともに特色ある地域づくりを支援することが期待されているのである。日文の教育情報ロゴ