教育情報

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自律的な学びを一層促す行政への期待
2011.11.17
教育情報 <日文の教育情報 No.107>
自律的な学びを一層促す行政への期待
-メタ認知の育成-
奈良教育大学 重松 敬一

■ 中学校のある授業

 最近、ある中学校で数学の授業を見る機会があった。熱心に課題に取り組んでいる生徒も居る中で、公開授業であったにもかかわらず堂々と机に伏せて寝る生徒が少なからず居た。数学の授業のもつ課題も少なくないが、授業で平気で寝ること、もっと言えば、勉強への拒否をあからさまに示す生徒がいることにいささか驚かされた。

■ 学びの方法を学ぶ大切さ

 いつの頃からか、授業は自分が成長できる貴重な機会であること、そのために、どのようにすればこの機会を最大限に活用することができるかの意識が子どもの中から欠落してきたのではないかと感じることがある。あるいは、授業がそのような大切な機会であり、単に答えを求める場ではなく、将来の「答えのない世界での問題解決力の習得」のために「答えのある世界での問題解決をモデルとして習得」する機会で、それはどのようにすることかという学びの方法を指導する場であることを先生方も意識しなくなっているのかもしれない。

■ メタ認知とは

 「この時間は、しっかりと興味・関心のもち方、見方・考え方を学ぶ時間」だと子ども自身が自分に言い聞かせるような<もう一人の自分(メタ認知)>の働きが弱くなっていないだろうか。十分メタ認知を育成してこなかったのではないかと思える。
 メタ認知とは、自分の記憶や理解などの認知的行為をモニターしたり、コントロールする頭の中の働きといえる。実際、学習の不振に2種類ある。図がかけない、計算ができないといった直接的(認知的)原因と、いつ、どこで図をかいたり、計算をするか、といった頭の中の働き(メタ認知)が影響した原因となるものがある。したがって、後者の原因での改善には先生のメタ認知的支援が大切になる。例えば、「ここで前に習った図を使えばよいよ。」と先生が言えば、子どもは「それを早く言ってよ。」とばかりに鉛筆が進むことがある。この「図を使えば解決できる。」は子どもの方略についてのメタ認知的知識で、これが適時適所で働くことを先生が代理するメタ認知的支援を行ったといえる。
 筆者は、このメタ認知の育成には、発達的には小学校3、4年生が大切な時期だと考えている。また、メタ認知の育成にとって大切なメタ認知的知識の育成には、先生の言葉がけ(言語的行動)が大切だと考えている。というのも、先生の言語的行動が子どもに内面化され、やがては行動する自分を見つめる<もう一人の自分>として働くと考えられるからである。そのためにメタ認知を『内なる教師』とも言っている。
 それだけに、先生の頭にある教科の学びや学びの方法そのものに対してのメタ認知的知識が大切になってくる。「正しく答えてより点を取ることが大切」としか学びの課題を考えていなければ、やがて子どもの学びに対するメタ認知が「点数」だけになる。だからこそ、授業で寝て聞いていなくても点さえ取ればよいという行動のコントロールが働いたのかもしれない。
 このメタ認知の育成は、単に学習のつまずきをのり越えるための方法の習得という側面だけでなく、将来の未知で困難な課題の解決にとって大切な知的働きであるということで、シンガポールでは日本と同じような態度・思考・知識・技能の4つの教育目標に加えて、第5番目の教育目標に「メタ認知」が位置づけられている。

■ これからの子どもたちの学び

 よりよくできる子どもの特徴は、自分が知るべきことについて考え、計画的に対処し、先生から情報を与えてくれるのを待たずして自ら学習に取り組む傾向があるという。これは、頭の中に自律的な学びを進めるメタ認知がうまく働いている子どもといえる。
 このような子どもを育むには、子どもたちがこれまで体験したり、学習したりしたことを生かしながら、課題を見つけたり、自分で工夫して問題を解決したりすることができるようにすることが必要である。さらに、先生が子どもの主体的で自律的な学習活動を仕組むためのメタ認知的支援を積極的に行うことが必要になる。その結果、子ども自ら学ぶ楽しさと充実感を味わい、さらなる学びに取り組み、やがては、学んだことをもとに「提案型」の学力をもった子どもとなることが期待できる。
 このために、先生方の健全なメタ認知の育成やメタ認知的支援のあり方の研修機会が望まれる。
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