教育情報

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潜在力に着目した学力論議を
2012.03.08
教育情報 <日文の教育情報 No.111臨時号>
潜在力に着目した学力論議を
環太平洋大学副学長 中原 忠男

■ 学力調査に鑑みて

 今日、文科省の全国学力調査をはじめPISA、TIMSSなど国内、国際間において様々な学力調査が行われ、その結果に関係者は一喜一憂させられている。順位や点数が大きく報道されるが、数学教育を研究している者からするともう少し掘り下げた多角的な論議を展開したい。そうした考えから、筆者らはイギリスのBurghes教授らによる数学的な潜在力に着目し、その研究を進めてきた。ここではそれを紹介したい。

■ 潜在力の捉え方と測定用具の開発

 心理学者のガードナーは知能を相対的に独立した、言語的知能、論理・数学的知能、身体的・運動感覚的知能、など7つの分野に分けている。これらを踏まえて、数学的な潜在力を、「知能と数学的学力の中間に位置付くもの」で、「生得的な面と経験や学習・教育に負う面の両面性があり、学習・教育によって発達するもの」と捉えた。これを基にBurghes教授らの研究を参考にして、潜在力の思考力的要素を次の4つにカテゴリー化した。

①論理的推論
②パターン認識
③操作:記号操作、図形操作
④思考の柔軟性:試行錯誤、多面的な見方・考え方等

 また、数学の内容を「数・量」「図形・空間」「関数・関係」の3領域に分け、それと①~④とを組み合わせて、潜在力を測定する調査問題を開発した。次はその一例で「図形・空間」の「パターン認識」を問う問題である。

「次の図のならびから、きまりをみつけて、?のところに入るものを下の1-6の図の中からえらんで、その数字をかいてください。」

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■ 潜在力調査の活用

 潜在力調査の活潜在力調査の結果を加味すると学力論議を深めることが出来る。例えば、A、B、Cの3校の学力や潜在力の調査結果(平均点)が次のようであったとしよう。

111_01

 このとき、学力点だけからみると、よいのはA、B、C校の順となる。しかし、潜在力を加味して、「学力-潜在力」からみると、よいのはC、B、A校の順となり、逆の結果となる。このことは潜在力を踏まえると、A校はなお努力の余地があり、C校はよく努力していることを示唆している。同様の方法で個人間や地域間などの比較検討を行うこともできる。こうした視点から、子どもの頑張りや教師の指導力を見ることも重要と考える。
 また、あるクラスの子どもたちを、学力と潜在力の2つの視点から次のように分類したとしよう。

111_02

 この場合、潜在力からみて一番気になるのは②枠の子どもたちである。この枠の子どもたちは、潜在力は高いのに学力が低いのである。ということはこの子どもたちは、努力が不足している、あるいは指導が不適切である、等々何らかの原因で学力が低い結果にとどまっていることが示唆される。そこで、原因を把握し、適切な指導をすることにより、学力向上を図ることができると考えられる。

■ 潜在力育成の重要性

 数学的な潜在力は先にも示したように、「論理的推論」などの4つの思考力的要素から構成されている。これらは算数・数学教育で育成できる、汎用性のある思考力である。そうした潜在力を育成し、それを顕在化させてやることは今日の算数・数学教育において益々その重要性を増してきている。
 そこで、潜在力に着目して算数・数学教育の新しい地平を切り開いていくことと、他教科においても潜在力の研究を進め、それを加えた学力論議を展開していくことをアピールしたい。

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